あったかいにおい

毎日疲れて帰る帰り道。
最寄駅から私の家に到着するまで、3つの坂を上らなければいけない。
どれも緩やかな坂ではあるけれど、坂を上り慣れていない私にとってはじわじわと体力を削られる道。
私の地元がどれだけ坂のない場所だったのかをしみじみと感じる。

今日そんな私の中で少しだけ嫌な坂の途中、ある一軒家の横を通りかかった時、ふわっとおいしそうな香りがしてきた。
夜ごはんかな、今日の夜ご飯は何だろう。
お肉かな、お魚かな、洋食かな、和食かな、1人で食べるのかな、2人かな、家族みんなで食べるのかなと想像はどんどん膨らんでいく。

その匂いは、そこに人がいる証。人が生活している証。
会ったこともなければ、どんな人かも知らないし、何人いるのかもわからないけれど、そこに人がいるのだと思うと、なんだか温かい気持ちになった。

共働き家庭で両親とも帰りが遅く、姉と祖母と一緒に食べた晩御飯のことを思い出す。
苦手なトマトが出た時はこっそり祖母の皿に移していたこと、「しゃべる口ばかり動かしてないで、食べる口を動かしなさい」と毎日のように言われていたこと、おっちょこちょいの姉が味噌汁を盛大にひっくり返して笑いがこらえられなかったこと。
よくよく考えてみれば、私のごはんの思い出はあたたかいものばかりだ。

急に気温も下がり、冷たい風が鼻を抜けるようになった最近。
冷たい空気と共に鼻に入ってきたあったかいにおいが私をあたためてくれた。

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