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スコーピウス

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』
大好きなハリー・ポッターシリーズの続編、19年後の物語。

ハリー・ポッターシリーズの好きなキャラクターはそれはもう数え切れないほどいるが、その中でも特に好きなのがドラコ・マルフォイだった。呪いの子のお話には、その息子であるスコーピウス・マルフォイが出てくる。初めて観劇したのは2023年の8月。今回の話は、そこから時が経ち、2024年4月14日、3回目の観劇の時の話だ。

4月2日、応募していたゴールデンスニッチチケットの当選の連絡が来た。初めての応募でいきなりスニッチを掴めたもんだから、「私って最強のシーカーかもしれない〜」とか言いながらも久しぶりの舞台にワクワクしていた。当たったのは4月14日の18時15分からの公演。キャストさんのスケジュールを見ると、スコーピウス・マルフォイ役は門田宗大さんだった。呪いの子のイベント、ハウスプライドのスリザリン・ウィークにSNSでお見かけして以来気になっていた俳優さんだったので、その回を観劇できることは嬉しかった。

当日、いちばん好きな寮であるスリザリンの、緑色に銀色のラインがはいったネクタイをしめて会場に向かった。会場について券を引き換えた。席は1階G列32番。今まで観た中でいちばん近い席だった。会場がオープンし、入場の際チケットをスタッフさんに渡すと、「ゴールデンスニッチの当選おめでとうございます」と言っていただけた。ありがとうございます、と返してロビーに入り、階段をおりた先のカフェでスリザリンカラーのドーナツを食べた。甘党の私にとって優しい抹茶と砂糖の味。

劇場に入り、自分の席をみつけ、そこからステージを見上げた。今までと比べて明らかに近いその席に興奮が抑えられなかった。ゴールデンスニッチチケットでこんなにいい席で観させていただいていいのか。やっぱり私って有能シーカーなのかもしれない。そんなことを考えながら、乗車、着席。

舞台の幕が上がる。ステージ上を歩く俳優さんの顔が見えて、目をこらせば表情すらも読み取ることができるその距離感に、開幕してすぐ涙が出た。

お話が進んでいくにつれて、私は門田宗大さんの演じるスコーピウスに釘付けになっていった。頭のてっぺんから、指の先、つま先、表情筋、眼球、きらきら光る瞳。まさに全身を使った演技から目が離せなかった。ころころ変わるスコーピウスの表情をなにひとつ見逃したくなかった。とくに、藤田悠さん演じるアルバスに向けるスコーピウスの表情はどれも愛おしかった。脚本で読んだままのスコーピウスが、大好きなドラコ・マルフォイの息子であるスコーピウスが、そこにはいた。涙を流さずにはいられない瞬間が何度もあった。あの公演が3時間40分もあっただなんて、絶対に嘘だ。魔法の世界に入り込んだ私は、どうやら人間界には戻ってこれなくなったらしい。私にとって、あの日のスコーピウスの存在そのものがいちばん素敵な「魔法」だった。

その日舞台が終わってからのことはあまり覚えていない。夢見心地で帰宅して、すぐにお風呂に入って、あの日観た魔法のことを考えながら寝た。多分。自分がどんな風に帰宅して、どんな風に眠る準備をしたのか、本当にほとんど記憶にない。ただ、あの日出会ったスコーピウスのことをずっと考えていたことだけは覚えている。

あれから3日が経った。3日間ずっと夢見心地だった。何度も何度も、あの日、ステージの上に、私の目の前にいたスコーピウスのことを思い出した。夢だったんじゃないか。いや、でも目の前にいた。スコーピウスは、確実に、いた。この3日間、何をしていても門田さん演じるスコーピウスの顔が頭に浮かんで、何も手につかなかった。

観劇の翌日時点では、「門田宗大さんが演じるスコーピウス」が好きだった。実際、門田さんのことを気になったきっかけはTwitterに投稿されたスコーピウスとドラコの写真だったから、スコーピウス以外の門田さんを私は知らなかった。そんな私にとって黒髪の(つまりスコーピウスじゃない時の)門田さんの写真は新鮮だった。

門田さん演じるスコーピウスに出会うのが遅かった私は、その時間を埋めるかのように呪いの子関係のSNSを見漁った。そんなことをしているうちに黒髪の門田さんに感じていたギャップは全くなくなっていた。YouTubeを見て、Twitterを見て、Instagramを見て、Instagram経由でnoteをしていることを知って、noteも全部読んだ。あれもこれも、画面に穴があくんじゃないかってくらい見た。特にnoteは、正直言って衝撃的だった。だってすごく好みだったから。そもそもフルネームでnoteをされていること自体がなんだか嬉しかった。演技で好きになって、黒髪の姿も好きになって、SNSでの立ち振る舞いも、スコーピウスそのものではなく「スコーピウスを演じている門田宗大」として話す姿も、緊張の乗り越え方が「その状況をおもしろがろうとする」なのも、牛乳やココアを好んで飲むのも、紡がれる文章も、すべてが好きだった。つまり最高だった。「門田宗大さんが演じるスコーピウス」が好きなんだと思っていた自分が遠い過去の存在のように思えた。たったの2日前なのに。

門田さんは、6月末で呪いの子を卒業される。この3日間で何度も、もっとはやく門田さんのスコーピウスに出会っていればと後悔した。苦しいとすら感じた。それでも時は等しく流れ続ける。門田さんが千秋楽を迎える日まで、いちファンとしてできることをするしかない。私にはそれしかない。きっと寂しさは感じてしまう。それは避けられない。それでも「寂しい」だけじゃない心境で千秋楽を見守りたい。「卒業おめでとうございます」と「ウィゾー」はちゃんと心からの言葉として言いたい。
私自身も門田さんのスコーピウスからちゃんと卒業できるように。自分の足で歩いていけるように。

アルバスの言う通り、お腹の底から指の先まで優しいスコーピウスは、私にとっても暗闇を照らす光だ。


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