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痛がりなわたくし

あなたを殴ることにする
別に殴りたいわけではない。
もともと暴力は好きじゃない。
そもそも、だれのものであれ、怒りの発露というものそれ自体に、ある種の滑稽さを感じながら、しかしどこか怯えながら生きてきたような人間だ。それに、反撃される可能性を考えると、危険もかなりある。効果的とは到底思えない。
それでもあなたを殴ることにする。
別に強い恨みがあるわけではない。
それでも、どうしても、殴ることは必然に思える。
そうでもしなければ、あなたは、あなたに連なる人たちは、これからもまた僕に関わろうとする。
その関わりは、僕の内側の波長をひどく乱す。
その関わりは、誰にとっても拠り所にはなりそうもない。
故に、
あなたを殴ることにする。仕方がなかった。
決して何かのメタファーではない。
文字通り、拳を握り、
間違ってもこちらの攻撃の意図を悟られぬように、
強張った肩の緊張の緩めながら
突然の隙間風のように颯爽とあなたに近づいて、その贅肉のない角張った頬ぼねに、渾身の打撃を食らわす。
あなたを殴ったことによる痛みを、拳の出っ張りにこびりついた黒い血をもって、全身で噛み締める。

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