見出し画像


私は風になりたかった
頬を伝った風が私に春を知らせてくれた


私は朝になりたかった
はにかんだ光が夜を押しのけ、私に生活と循環を与えた


私は海になりたかった
喜びの海に一粒の涙が溶けていった


私は鏡になりたかった
昨日の誰かの苦しみが今日の私を生かしている


私は星になりたかった
種に水が必要なように
蝋燭の火を吹き消す子供のように
いつかは帰ってくるような
いつまでも傍に居るような


私は時計になりたかった
くるりとまわって、もう一度まわって
そして戦争が終わる、そして灯火が消える
私は命になりたかった


やがて魚はどこかで眠る、暗い海の底で黄金の身体だけが輝いている
今日は眠ろう、ひとりで眠ろう

大丈夫、暖かい毛布を用意しておいたから
大丈夫、彼は悲しみを知っているから


魚はどこかで眠っている
朝になれば起きるかもしれない、しかしもうしばらくは、横たわったまま

私は影になりたかった
私は鱗になりたかった

魚は動き出すだろう
魚は泳ぎ出すだろう



2023/12/30



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?