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Recycle Mafia #2-13 collect(逃走)

日曜日の爽やかな朝に黒服。
完全に普通の人間じゃない。

893。
このワードしか思い浮かばない。

イチは、シンゴに視線を素早く飛ばした。シンゴはナチに同じ事をした。ナチの目は真っ直ぐシンゴの目を捉えた。
(逃げるぞ)
この893どもが何者で何目的かは解らないが、身の危険が迫っているには変わりない。カトウは置いていくつもりだった。
最初の予定。
真美と明をまだ救っていない。ここでカトウを離したら振り出しだ。
ディスカスからのデータ回収がまだ終わっていない。
このまま捕まってどうにかなっている間に、ディスカスの人間(山崎興業)が動いて明と真美が危険に晒される可能性もある。

そもそも、今目の前にいる893が山崎興業の人間かもしれない。その可能性。
50%

山崎興業は、カトウの先輩がいる組で荒川区の地域密着型組織である。
広域暴力団の2次団体でも3次団体でもなく、もっと細かい枝にお世話になっている程度の小さい組だ。ただ、やっていることは悪そのもの。

(有)ディスカスを拠点として、違法のAⅤを製作、販売
(株)ピースファイナンスを拠点としての闇金
会社は一応フロント企業になっているが、実態はこれらの会社を拠点として、暴走族の未成年や、その他の少年、少女を動かし、かなりおおっぴらに活動して荒稼ぎしている組織だ。

ただ、山崎興業は関与を否定している為、警察は手を出せないでいる。他の組織には上納金を払い一応筋は通してあるので放置という形になっている。
表向きは山崎興業は的屋家業のみのヤクザで、構成員の数は10人という小規模組織となっている。
実体は今で言う「半グレ」集団なのだ。

その半グレ集団の一員がカトウ。
この組織のやり方で言うと、カトウは鬼面組という暴走族の頭でもあるが、ディスカスの社員に過ぎない。
山崎興業から出向した、鬼面組の支店長といったところだ。
普通の会社と違うのは、この支店長どもは、いつでも切れるということだ。
山崎興業、ディスカスに何かあった場合。不都合があった場合は、こういう支店長ごとその下もろとも、ばっさり切って
「うちとは一切かんけいありません。近所のガキが勝手にやったこと」
というのが、この山崎興業のやり方だ。だから、今まで生き残ってきた。
と言う事は、カトウ達がしくじったからと言って、上が出てきた可能性は低い。
ただ、カトウ達の直属の先輩が自分のミスを隠す為の行動だとすれば、可能性は高い。
だから50%

アイコンタクトが終わるや否や、シンゴ、イチ、ナチは一斉にランサーに向かって走り出した。
カトウを捨てて。
するとこの黒服4人のうち1人はカトウを捕まえ、3人が凄まじい勢いで追ってきた。
シンゴ達は、ランサーを見られる前に、足を止めた。
瞬間、勢いあまった黒服の1人にイチが頭突きをかました。
「ギャッ!!!」
という声とともに、1人が倒れたが、あとの2人でイチを捕まえた。

すかさず、シンゴとナチが黒服2人の足を払った。
黒服2人が倒れそうになった所を、シンゴはラリアットの要領で倒し、喉元に鉄槌をお見舞いした。
ナチも同じように倒し、首を一気に絞め落としていた。さすが元柔道家だ。

3人の黒服が動けなくなったのを見計らい、素早くランサーに向かい、乗り込んだ。

シンゴが震える手で、エンジンに火を入れると、他の2人は後部座席に勢いよく乗り込んできた。
3人が揃うと同時にランサーは発進した。もうシンゴは冷静だった。
清澄通りに出ると、後続車がミラーに写っていない事を確認するとナチに

「ナチのiphoneにキエルマキュウ入ってる?」

「え? あ、ああ入ってる。」

「じゃあこのジャックに差し込んで流して、マネーメリーゴーランドね」

「はいよ。なんで?今?」

「だって、マキさん死んじゃったじゃん。」

シンゴからみんなへ「冷静になれ」というメッセージだった。

1曲目のNEXT WORLDが流れるとやっとイチが口を開いた。
「マジ、ビビったな。ところであれ誰だ?」

「解るわけない。でも、ヤクザだよな」

シンゴが言った。

それから、ナチが山崎興業、ディスカス、ピースファイナンスに関する情報とともに、
「アレは、ヤクザだけど半々の可能性で山崎とその他の組織だよ。」
と言った。

しばらくして、箱崎に着くと、首都高に乗った。
もう追手は来ていないが、念のためだ。
「どこ行く?」

「とりあえず、川崎方面だ」

「なんで?」

「なんとなく」

一旦、浜川崎を降りて、工業団地へ行って人目を避けると言う方法だった。
南大井を越えたあたりから、バックミラーに気になる車が一台付いてきているのが見えた。

「まさか・・・」
シンゴが言うと二人が後方を見た。
確かに一台フルスモークのセダンが付いてきている。

シンゴは加速した。
「あんなセダン振り切るよ」
3人はGを感じ、シートに貼り付けになった。
ランサーがターボの威力を発揮したのだ。
すると、また一台、別のタイプのスポーツカーが後方にぴったり付いてきた。
スバルインプレッサ
かつて、ラリーではランサーと優勝争いをした名車だ。

「なんなんだよ・・・」
3人は焦っていた。でも、言葉はシンゴ以外発さなかった。
余計に不安を煽るということが解っているからだ。
メーターは150km/hを越えた。
日曜の朝だから出来る事だが、何台かトラックがいる。
そこをランサーはアミダ走行(すり抜けの連続)でかわす。

「この車、足回りも完ぺきだ・・・社長に感謝だよ。」

他の2人は黙っている。

「大丈夫だ、振り切れるぞ。任せとけ。」

大黒ふ頭方面と、横浜方面の分岐が迫っていた。
そこをシンゴはチャンスだと踏んだ。
「この足回りならいける」

既にメーターは160km/h
追い越し車線を目一杯の速度で走っている。
付いてくるインプレッサ。

分岐が近づく。左ミラーをしきりに確認する。

分岐が来た。目的地は左側に入っていくのだが、シンゴはまだ車線変更しない。インプレッサも後ろにピッタリくっついてくる。カーブに差し掛かり、目の前には大型トラックが2台。インプレッサとの距離が少し離れた。
「今だ!!捕まれ」
分岐ギリギリで、左へ1車線飛び越えて横浜方面へ入る。タイヤが鳴く。大きく左にふくらみ、壁に激突すれすれで、今度は右にハンドルを切る。車体の鼻先が右にぶれケツが大きく左側に触れる。
「ぶつかる」
と思ったが、右カーブの道になっていたので、すんなり道に乗った。

「ップハーーー!!、やった」

「この道を知ってたのか?」
イチがしばらくぶりに口を開いた。興奮していた。

「当たり前でしょーー」
インプレッサをなんとか振り切った。が、本線に乗ったところで、また一台後ろについてくるスポーツカー・・・・

その車種を見て冷や汗が出た。まさか・・・
 

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

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