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Recycle Mafia #3-1 outro(after the rain)

1年後・・・

月曜日 AM8:00
「おはよう!」
シンゴが事務所に入ってきた。ナチは「おはよ」とだけ言って、目はパソコンの画面と睨めっこ。

江東区木場のチョッと裏通り。
1階は店舗兼倉庫。基本的に作業場となっている。
2階は事務所兼溜まり場。寝泊りも出来るスペースとなっている。事務所内は清潔に保たれている。ナチは綺麗好きだ。
2階にある事務所は主にナチの作業場であって、パソコンが一台、プリンターFAX電話の複合機が一台、コンポ1台、あとはみんなで食事をするテーブル、椅子、寝る為のベッドがある。
DENONのコンパクトスピーカーからは爽やかなボサノヴァ調の音楽。
ナチらしい選曲。



看板には

「RBN LABO(リボーン・ネットワーク ラボ) 株式会社」

事件の後
3人は会社を興した。
老人から、いや、菊川会からの謝礼は一人頭100万円で3人なので300万円あった。
このお金のことについては色々話し合い悩んだ。
要は菊川会にカトウを売ったお金だ。立派な人身売買だ。シンゴ達にある良心が痛んだ。だが、3人は決めたのだ。コレを元手に3人で会社を作ると。
 
あの事件のあと、イチは皆に想いを伝えた。
「菊川会にお世話にる」と。誰も反対はしなかった。イチの心境を痛いほどよく解っているからだ。
それとともに、シンゴとナチの考えも、薄ぼんやりした物から、明確な方向が固まったのだ。夜のリサイクル「スハダクラブ」は菊川会と提携する。
目的は、犯罪者の更正、表社会で裁かれない人間を再利用する。最悪、今回のような凶悪犯罪を犯した少年などを「裏社会」に送り込むこともある。その場合どうしても、「裏社会」とのパイプ役が必要なのだ。ただ、シンゴもイチもヤクザを嫌っていたので、イチがパイプ役として名乗り出た。他にも色々な心境があってのことだけど。
「スハダクラブ」には様々な内容のトラブルが持ち込まれた。いじめ問題、ストーカー被害、借金の取り立てなど。基本的に菊川会の下の組織からの依頼であった。
ただ、少しこの仕事で変っているところは、仕事内容に関しては断ることも出来るという事だ。普通は、ヤクザの下請け仕事はどんな内容でも断れない。シンゴたちはそれだけの立場というモノが与えられていることになる。
 
「RBN LABO」では、シンゴが社長に、ナチは経理。
イチは、約束通りコンビニとDVDショップで働いてはいるが、週に2回程度。
あとは、RBNの専務だ。ただ、イチは菊川会の若頭である「浅草雷音会 巻舌一家 組長 牧下洋一郎」と盃を交わした。なので、イチは菊川会の直系組員という事になる。いきなり大出世だ。


1年前の中華レストラン
封筒に詰められた金。
受け取る気は無かった。ただ、その場では帰るしか選択肢は無かった。
地元に帰ってから、何時ものファミレスに入った。
3人は、アイスティーだけ頼んで、ただ運ばれてくるのを待った。
店員が去ると、封筒を出して中の金を数えた。100万円・・・
全員同じだけの金額が入っていた。
報酬というより、カトウを売った金額というほうがしっくりくる金額。
3人は話し合った。
カトウは恐らく、もう帰って来られないだろう。
カトウはどうなるのか?
飯場での強制労働か?
漁船での強制労働か?
どこかに売られていったのは間違いない。
買い手は、あの中国人達。
老人の言葉を思い出す。
「我々の謝罪と感謝、うーん。それと、とある代金だ」
人一人の命を売った事になる。
ただ、この計画を起した段階で、カトウを消す覚悟が出来ていた。
カトウもその仲間も、酷い事をしている少年達を排除する。
しかし、3人は「自分たちの見えないところへ「排除する」という甘い考えだったかもしれない。
例えこの町から排除しても、他の町で同じような犠牲者がでることを知らないだけだ。
それでは意味がない。
だから、迷っていた。
迷いの段階で計画はスタートしてしまった。時間が無かった。手遅れだったけど・・・
しかし、突然の黒幕の出現で全ては解決してしまった。というより、黒幕の計画通りだった。
そして今、現金300万円がある。

場所を移し、夜まで話し合って答えが出た。
老人の言っていた通り、カトウ達のことは詮索するのはやめる。
カトウ達はやりすぎた。
1人の少女を地獄に突き落とし、拷問の末、殺した。
少年法で守られている彼らは、20年後にはキッチリ娑婆に出てきて、雁首を揃え、また同じような事をやるのだ。
被害者の親、兄弟、親戚を考えると、とても正気ではいられない。
そんな少年達は法で裁けないならば、裁いてあげる大人が必要だ。せめて自分達はその仲介役になる。
少々残酷に見えるやり方だが、今回3人と菊川会がしたことは、彼らなりの正義と言えよう。
「リサイクル」だ。

「使えなくなったモノに新しい命を吹き込む仕事」
物も、人間も変らない。
それが彼らの信念となった。ただ、今回のような最悪の事態になる前にもっと出来ることはないか?
出来るだけ完全に壊れる前に何とかしたい。という思いもあり、会社を作ることにした。

300万円。
「RBN LABO」を設立する資金に充てることに誰も異論は無かった。

イチも覚悟を決めていた。
墨東会長に組の盃を貰える様頼んだ。


仕事
今までの貸し倉庫は引き払い、テナントを探した。
丁度二階建ての一軒家が空いているとのことだったので即契約した。
そして、今までの仕事にプラスしてイチが様々な仕事を大量に持ってくるようになった。
廃業、または廃業寸前で債権が菊川会に渡ってしまった店、工場、家などの「中身」をリサイクルするといった仕事だ。
でかい機械とか高価な物はそれなりの業者が持っていき、その他をRBNが持っていくということだ。
こうして無料同然で仕入れた物を会社のⅠ階のスペースで「品物」に替えてゆく。
だから、それなりの機材も買った。
2階はナチに任せた。
こうして、200万足らずで一通りの会社が出来た。
あとの100万は車。
ランサーを正式に買取り、群馬の社長にきちんとお金を払った。
車庫も近くに借りた。
「スハダクラブ」での仕事も入るからだ。一年前とは比べ物にならないほど忙しくなった。


12:00
「おはよー」
イチが2階に入ってきた。
ナチとシンゴは昼食をとっていた。

「イチの分もあるよ」
とナチが、出前のそばとどんぶりをイチの座る席に置いた。

「ありがとう!いただきます。」
イチは貪るように食べた。

この日イチはコンビニに入っていたが、特別な日と言う事で午前中だけで上がらせてもらっていた。

「さ、食事が済んだら行くぞ」
シンゴが言った。

今日はあの日から丁度1年。
カトウ達に襲い掛かり拉致し、トモの家で少女の遺体を発見した日
シンゴはあの光景を忘れる事が出来ない。
3人にとっては名前も知らない少女の命日なのだ。
3人はランサーでトモの家の近くの公園に行くと、それぞれ用意した花を公園の片隅に手向けた。
「助けてあげられなくてごめん」
手を合わせて祈った。

何気なく公園からトモの家のほうを見た。
トモの家はもう跡形もなく無くなっていた。

3人は無言のままランサーに乗り込んだ。
ナチが、iphoneをオーディオにつないだ。何時もの事だ。
丁度、葛西橋を渡る頃に、ECDの「After the rain」が流れた。あの日の雨に濡れたアスファルトが反射する夕日が浮かんでは消えていった。

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