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~黒崎輝男との会話@滝ケ原~

2020年7月。
一聡のもとに、黒崎輝男(以下黒崎)から連絡がきた。

『石川県小松市の限界集落で、古民家を改修してカフェとか宿泊施設を作ったから見においで。』

詳しいことはよくわからないが、そこに鶏小屋をつくる、とか引退した猟犬を譲渡してくれるところはないか、とか、パズルのピースのようなキーワード。
一聡は、となりでデスクワークをしていた歩に尋ねた。

『あした、石川行ける?黒崎さんがおいでって。』

その夜、ふたりは新東名高速を西に向かってクルマを走らせていた。

石川県小松市滝ケ原。
東京を出発して8時間ほどで、目的の場所に到着した。
古民家をリノベーションし、オーガニックな音楽が流れるカフェには、地元のお兄さま方、お姉さま方(ともに70~80代くらい?)が、それぞれのグループでガレットを食べながら楽しそうにおしゃべりをしている。
店内には外国人もちらほら混じり、それが自然と古民家の空間になじんでいる。
ふと見ると、黒いラブラドールレトリバーが、自由気ままに店内入ってきては、客に頭を撫でられ、また外へと出ていく。
限界集落であるはずのこの地で、確かに洗練された『コミュニティの場』が機能していることに感動していると、ゲストの外国人をアテンドしながら黒崎が現れた。

附近の九谷焼工房や、この地で農的生活を提案するきっかけとなった苔の里などを一通り案内してもらったあと、築130年余の母屋で夕食を済ませ、敷地内の蔵を改造したワインバーでアナログレコードを楽しむ。
都会で暮らす者にとって非日常である空間で、洗練されているのだが、どこか懐かしい。
黒崎が創り出す『場』のパワーに浸りつつ、宿泊施設として営業するバンクベッド入るころは、夜も相当更けていた。

翌朝、朝食をいただきながら、黒崎に菅平で考えているプランについて相談してみた。
『それは最高だね!やろうやろう!』
思いのほか黒崎の反応が強いことに、一聡と歩が若干気おされていると、
『アフターマッチファンクション、アフターワールドカップ、アフターコロナ。これがキーワードだね。早速帰り道に菅平に寄って、詳細を詰めてきなよ。ボクもスケジュール決めて近いうちに行くからさ。』
畳みかけるように黒崎は熱っぽく語った。

この日をきっかけにして、ラグビーコミュニティクラブの法人化、仲間集めが始まり、菅平クラブハウス構想は形を変えつつ、どんどん大きくなっていくことになる。

世間は1回目の緊急事態宣言が解除されたものの、新たな変異株が脅威となりつつあり、外出やイベントの自粛、マスク生活など、ストレスが人々の精神に重くのしかかってきていて、それは例外なく菅平の合宿シーズンにも及びつつあった。

〜第3弾に続きます〜


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