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理芽「えろいむ」MVの制作記録。【前編】

こんにちは、映像ディレクターの涌井嶺です。

このたび僕が監督した理芽「えろいむ」のMVが公開されました!

https://youtu.be/QFbZZBdTAwE

この曲は9月8日公開のホラー映画「禁じられた遊び」の主題歌です。上映館数200館、世界50ヵ国以上で配給が決定している映画で、MVの方もたくさん見てもらえたら嬉しいなと思っています。



僕は実写合成の仕事が多いので、こういったフルCGのミュージックビデオというのはあまり経験がなく、コンテを描く段階からどうやって楽曲のコンセプトを表現しようかというので悩みました。

実写合成だと常に被写体があり、CGはあくまで背景なので、物語の流れを作るのが比較的簡単なのですが、
キャラクターをCGで作るのはスケジュール的にも僕のスキル的にもあまり現実的ではなかった今回のMVで、「背景だけで一曲分の映像を作る」ための企画を色々考えて構成しました。

ということで、せっかくなので今回のnoteではこのMVの制作過程についてまとめていきます。なお、メイキングの公開許可はいただいております。

企画制作とスタッフィング

まず、今回のMVのクレジットと役割分担を紹介します。

MUSIC VIDEO PRODUCTION: VeAble
DIRECTOR: Ray Wakui
LINE PD: Atsuhiro Yamada
PRODUCTION MANAGER: Asami Inui
3DCG ARTIST: Kakeru Taira, Yu Takahashi, efu
2D DESIGNER: Mono
COLORIST: Yusuke Adachi
ONLINE EDITOR: Ray Wakui

僕は監督として企画書、コンテの制作とビデオコンテの制作、
各スタッフへのディレクションやテクニカルアドバイスと一部進行管理、
各CGアーティストのアップしてくれたカットごとのCGデータのコンポジット(光や影を足したり、レンズで撮ったようなエフェクトを入れる作業)と、最後に仕上げの編集作業を行いました。

まずは企画書からです。理芽さんのチームにもどんな映像を作るのかここで共有して、方向性のチェックを行います。

僕は楽曲や歌詞から映像を作ることが多いので、最初に歌詞の解釈をしました。(歌詞の解釈については僕が勝手にしたものなのでここではあえて書きません。)

背景で物語を伝える必要があるということで、一人称視点がメインのMVにしようと考えました。ホラーな楽曲ですが、切ない印象のパートも持ち合わせていたので、ただ怖いだけでなく、美しさや儚さも表現したいということで、深夜のプールを舞台にそこに忍び込んだ主人公の目線にしようと思い至りました。


ここでキーワードとして、「Liminal Space」という言葉に至りました。シュールで不気味な空間という意味の言葉なのですが、不思議な美しさを感じるので、今回の企画に合いそうだと思いました。

最初の企画書は9ページほどのPDFですが、以下はその一部です。まずは大枠のコンセプト、次に全体の流れや各シチュエーションのイメージを書いています。

コンセプトのページ。モザイク部分はリファレンスです。
構成ページ。曲の各パートに対してどのようなシーンが入るのかを書いています。
ビジュアルキーワードページ。この他にもリファレンスは大量に集めて各CGアーティストに渡しています。



この企画にあったCGアーティストとして、真っ先にたいらかけるさんに思い当たりました。たいらさんはBlenderを使い、さまざまなLiminal Spaceの自主制作を行なっている方です。一人称視点での作品も多いです。


また、水中シーンや三人称視点でのイメージカットなど、カットとしての美しさが求められる部分は高橋悠さんにお願いすることにしました。


そしてこの企画ができてから、SNSでこちらの投稿を見て、すぐにefuさんに声をかけて怪物のモデリングを依頼しました。最終的にはカメラワークやレンダリングも数カット行なっていただきました!


シーン制作

企画とスタッフが決定し、まずはたいらさんにプールの3Dシーンを作っていただきました。
最初は僕が平面図を描きました。

僕が最初に書いたプールの平面図。走って逃げるシーンなどもあるので最終的にかなり広くなりました。左側のプールは50mあるそうです。カメラアングルを切った時にシュールで超現実的な雰囲気が出るように意識して柱や壁の穴の位置を指定しています。


それをもとに、たいらさんから最初に上がってきたプールのラフモデルです。

このラフ背景モデルデータを僕が受け取り、コンテをつくるためにアングルを切っていきました。
楽曲に合わせて、静止画を並べてカットごとの尺と構成を作理、演出を書き込んだビデオコンテ(Vコン)を作りました。


これを元に、各CGアーティストが作業できるよう、カットごとの尺とカット番号を振ったカット表をスプレッドシートで作ります。

このあとの制作において進捗管理も全てこのスプレッドシートで行うので、自分はかなりこのカット表を重視しています。特にMVはカット数が多いため、カット番号のずれによる混乱やそれぞれの進捗状況の共有ミスが起こらないよう、このシートを全員に共有して作業を進めていきます。僕からのフィードバックもここに書き込んでいきます。

この作業をしている間に、たいらさんの方でシーンのアップデートをしていただきました。

狭い方のプールのアップデート順。広い壁が多く質感も比較的均一なので、べったりして見えないように水中にライトを入れたり、水面の揺らぎを壁に反射させたりすることで情報量を増やしています。また汚れやタイルの崩れなども追加しています。


広い方のプールのアップデート順。見づらいですが奥のウォータースライダーの色や配置の仕方などを変更し、2階部分にもテラスのような部分を作っていただいています。たいらさんのシーン制作が非常に丁寧で、360度どの角度で映しても綺麗に見えるので、高橋さんもカメラワーク作業がしやすかったとのことでした。


事務室やロッカールームのシーンは、まさにたいらさんの得意分野という感じだったのでほとんどお任せして制作しました。

事務室のラフモデル。
ブラッシュアップした事務室。浮き輪などはたいらさんのアイデアで入れていただいてるのですが、プールの事務室だと一目でわかるのが演出的にも助かりました。


ロッカールームのラフモデル。
ブラッシュアップしたロッカールーム。行方不明になった人のポスターは別途デザインしてこのあと貼り付けています。


次回予告

少し長くなってしまったので、続きは別の記事で紹介できればと思います。
後編はキャラクターデザインと、その後映像にするための工程について紹介します。
すぐ公開しますので、ぜひマガジンをフォローしてお待ちください!

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