「天彦流3手目☗6六角」を修得しよう!
はじめに
こんばんは、菜々河です。
最近、佐藤天彦九段が☗7六歩☖8四歩☗6六角(図1)というオープニングを連採して豊島九段・深浦九段を連破し、向かい飛車界隈を希望の光で照らしております。
私は後手番でよく☗2六歩☖3四歩☗2五歩に☖4四角(図2)と出てから向かい飛車を目指す戦法を採用していますが、「飛車先を突き越されているかどうか」は非常に大きな要素の違いであり、私は「☗2五歩を突いてもらった方が飛車先逆襲がしやすい」と考えて☗6六角(☖4四角)型向かい飛車は専ら後手番で採用しておりました。
ところが、佐藤天九段は先手番で連採し、豊島戦も深浦戦も☖8四歩型相手に華麗な捌きを披露しました。
(特に第83期順位戦A級3回戦 vs豊島九段戦の57手目からの手順は全振り飛車党必見です。将棋連盟モバイル中継か名人戦棋譜速報でぜひ見てください)
…
かっけぇ~
……
………僕も天彦流3手目☗6六角を修得したい!
と、言う訳で素人ながら3手目☗6六角について検討してみたので本記事で共有しようと思います。
採用を検討している振り飛車党の方や、天彦先生の将棋を観戦する上で今後更に楽しめるような参考になれば幸いです。
第1章:角交換・☖8五歩型
(初手からの指し手)
☗7六歩☖8四歩☗6六角☖3四歩☗7八銀(図3)
☗7八銀がポイントの一手。☖6六角☗同 歩に☖6七角を防いでおり、☖8八角も☗7七角☖同角成☗同 銀☖6七角☗7八角☖同角成☗同 金(図4)で手得できます。
従って、☗7八銀に対してすぐ☖6六角と交換しても先手陣は攻略できません。
後手の理想としては、6六の角を圧迫して先手から角交換させることが出来れば2手得となるので、そのような展開を目指すことが多そうです。
しかし、第1章では更に先手が隙を見せて後手から角交換した場合の変化を見ます。
(図3以下の指し手)
☖8五歩☗7七銀☖6二銀☗8八飛(図5)
☖8五歩に対しては☗7七銀で☖8六歩を受けます。狙い通り先手は向かい飛車に組みますが、6七地点への利きが無くなったので図5の局面では☖4五角の筋が発生しています。
(図5以下の指し手)
☖6六角☗同 歩☖4五角☗5五角(図6)
この変化では、☖6二銀が仇となって後手は☗1一角成を防ぐことが出来ません。馬は両者作れますが、香車が拾える分先手良しです。
この変化では☖6二銀型だったので☗5五角が打てましたが、☖4二玉型だったらどうなるか。軽く見ていきます。
(図3以下の指し手)
☖8五歩☗7七銀☖4二玉☗8八飛☖6六角☗同 歩☖4五角☗3八銀(図7)
☖4二玉型なので、今回☗5五角は☖3三桂で防がれてしまいます。
☗3六角で☖6七角成に☗6三角成を用意するのが一般的な対応に見えますが、実は更に得をする変化があります。☗3八銀はその第一歩となる一手です。
(図7以下の指し手)
☖6七角成☗5八金左☖4五馬☗3六角(図8)
あえて馬を作らせてから、☗5八金左で引かせて☗3六角でやはり馬を消すことができます。
こうなれば☖4五角に単に☗3六角と合わせるより2手得できています。
以下☖同 馬☗同 歩☖2八角☗4六角☖同角成☗同 歩☖2八角☗3七角☖同角成☗同 銀で美濃囲いが組めなくされる順はありますが、4手得はあまりに大きいので普通に☗4八玉~☗3八玉から矢倉を組んでも良いし、☗2八銀と引いてから☗2六歩~☗2七銀と銀冠を組んでもまだ手得の貯金は残っているのでかなり先手満足な展開と言えるでしょう。
なお、☗3六角に☖5四馬として角交換させて☖2八角を狙う手には☗4八玉が利きます。(図9)
…ということで、第1章では☖8五歩☗7七銀の交換を入れて☖4五角を狙う指し方を見てみましたが、細かくポイントを稼ぐ手段が先手に多いため後手目線で咎めることは上手くいきませんでした。
向かい飛車を目指す先手は堂々と☗8八飛と回れると言ってよいと思います。
第2章:角交換保留・☖8五歩型
第1章では後手から角交換する変化を見ていきましたが、後手目線で☗6六角を咎めるには至りませんでした。
そこで、6六の角を圧迫して先手から角交換を強要させるような変化を見ていきます。
(図5以下の指し手)
☖6四歩☗4八玉☖6三銀☗3八玉☖4二玉☗2八玉☖3二玉☗3八銀☖5四銀(図10)
お互いに玉形を整備したあと、後手は☖5四銀と出て先手の角にプレッシャーを掛けます。
次に☖5五銀☗7五角☖7四歩と進むと角が詰むので先手は忙しいようですが…
(図10以下の指し手)
☗2二角成☖同 銀☗8六歩☖同 歩☗同 飛☖8五歩☗8八飛☖3三銀☗7五歩☖4二金☗7六銀(図11)
☖5四銀には、手損承知であっさり☗2二角成と角交換します。
手損ではありますが、その後☗8六歩から速攻を仕掛けると後手は☖5四銀が8筋での折衝に参加しておらず役に立っていません。
6六角は銀を中央におびきだす囮で、先手の狙いは8筋逆襲にありました。
図11では次の☗8五銀が受けにくく、☖8六歩も☗8五歩として次に☗8六飛と走れば先手良しです。
と言うことで、☖8五歩を決めた上で6六の角を圧迫するのは☗8六歩からの飛車先逆襲があり振り飛車が十分に戦えそうです。
第3章:角交換保留・☖8四歩型
…と今まで見てきて、
①後手は6六の角をいじめたい
②8筋逆襲は許したくない
ことから、「☖8五歩すら突かずに角をいじめよう」という発想に至ります。
この変化が後手番☖4四角との決定的な違いで、☗8六歩からの逆襲が無いので第2章とは大きく対応が異なります。
(図3以下の指し手)
☖6二銀☗7七銀☖4二玉☗8八飛☖3二玉☗4八玉☖6四歩☗3八玉☖6三銀☗2八玉☖5二金右☗3八銀☖4四歩(図12)
先手、後手ともに囲いの整備を進めますが、最終手☖4四歩が油断ならない一手で、次に☖6五歩☗5五角☖5四歩☗4六角☖4五歩で角を詰ます筋を狙っています。
(図12以下の指し手)
☗5六歩☖5四銀☗7五角☖6三金☗4八角(図13)
角の逃げ道を確保する☗5六歩は必須の一手です。
後手は☖5四銀と上がって次に☖6五銀からの歩得を狙いますが☗7五角が面白い一手。
☖6三銀は手損なので☖6三金と厚く受けますが、最終手☗4八角が面白い一手で、2パターンの構想を狙っています。
(図13以下の指し手)
☖3三角☗7五歩☖2二玉☗8六歩☖3二銀☗5八金☖1四歩☗1六歩☖2四歩☗6六歩☖2三銀☗7六銀☖3二金☗8五歩(図14)
☗4八角と引いたのは☗7五歩と突くためでした。
この後は☗8六歩~☗7六銀~☗8五歩の逆棒銀を狙えば先手の方針は明快です。
本譜はやや後手が悠長に駒組を進めたケースになりますが、図14の局面では既に逆棒銀が決まっており、以下は☖同 歩☗同 銀☖4五歩☗8三歩☖同 飛☗8四銀☖8二飛☗8三銀不成☖4二飛☗8二銀成(図15)で先手良しです。
この変化では、☗7五歩を後手は許したため☗7六銀からの8筋逆襲がありました。
では、☗4八角と引いた瞬間に☖7四歩と突いて☗7五歩を防いだ場合はどうなるか見ていきます。
(図13以下の指し手)
☖7四歩☗7八飛☖4二銀☗7五歩☖同 歩☗6六銀☖4五歩☗5五歩(図16)
☖7四歩を突かせたことで、この変化では☗7八飛から7筋に狙いを付けます。
最終手☗5五歩にもし☖同 銀だと、☗7五飛☖7四歩(☖6六銀は☗7一飛成)☗5五飛で先手駒得になり優勢です。
(図16以下の指し手)
☖4三銀☗7五飛☖7四歩☗7六飛☖1四歩☗7七桂☖1五歩☗5八金☖4四銀☗7五歩☖同 歩☗同 銀☖5五銀☗8四銀☖7四歩☗8六飛(図17)
図16以下の指し手は一例に過ぎませんが、6六銀+4八角+7六飛+7七桂の形が非常に相性がよく、先手は捌きの手段が豊富です。
図17のように進めば次の☗8三銀不成を見せて先手優勢です。
以上のように、☗7五角☖6三金☗4八角から後手の対応によって先手は逆棒銀と三間振り直しを選択して捌きを狙うことが出来ます。
第4章:角交換・☖8四歩型
以上が「天彦流3手目☗6六角戦法」の骨子になりますが、色々調べる中で面白い変化があったので最後はおまけです。
(図3以下の指し手)
☖6六角☗同 歩☖4二玉☗6七銀☖8五歩☗8八飛☖4五角(図18)
手順中、☗6七銀でなく☗7七銀なら最終手☖4五角はありませんので、この変化は「かなり突っ張って得しようとした場合」に限ります。
ただ、私は6七銀型の角交換向かい飛車は優秀だと認識しているのでこの☖4五角を打たせてでもこの変化を選ぶ意義はあると思っています。
もう少し進めます。
(図18以下の指し手)
☗7八金☖2七角成☗3六角☖同 馬☗同 歩☖6二銀☗3八銀☖2二銀☗7七桂☖3二玉☗8九飛☖5二金右☗6八玉(図19)
先手は手得ですが、2筋で歩損しているので美濃には組みにくい。ということで左玉チックに組みます。
展開によっては☗7五歩~☗7六銀~☗8五銀のように歩損を取り返して☗8六歩から逆襲を狙うような変化も考えられるかも知れません。
(図19以下の指し手)
☖6四歩☗4六歩☖3三銀☗3七桂☖4四歩☗5八金☖6三銀☗4九飛☖4三金☗4五歩☖同 歩☗同 桂☖4四銀☗5三桂成☖同 銀☗2二歩(図20)
早い段階で地下鉄飛車が開通した先手は、1筋、2筋、4筋、8筋、9筋どこでも相手が隙を見せた筋から攻めかかることが出来ます。
こうなればほぼ相居飛車の将棋ですが、何でも指しこなせる佐藤天九段ならこの展開もいとわないだろうと思われるので、6手目角交換には☗6七銀~☗8八飛と指し手くれるのではないかなと期待しています。いつか公式戦でこの変化がみられる日が来ないか楽しみにしています。
最後に
…ということで、天彦流3手目☗6六角戦法の各種変化を軽く見てみました。
一手一手に整然とした理屈が用意されているような印象で、システム的に「この変化にはこう!」といった手の選び方がしやすく、特に私達のような持ち時間の短いアマチュア向けにも採用するメリットの大きい戦法だと感じました。
いつか動画でも採用した将棋をお見せ出来たら良いなと思います。
気が付いたら26時も過ぎてるので今日はこのあたりで。
おやすみなさい