菜々河の筋違い角研究part2〜ハメ手△6四歩の向こう側〜

こんにちは、菜々河です。
前回の記事に引き続き筋違い角について書いて行こうと思います。

今回は筋違い角を受ける側のある有名なハメ手について。

§1:△6四歩の狙い

(初手からの指し手)
▲7六歩△3四歩▲2ニ角成△同銀▲4五角△5ニ金右▲3四角△6四歩(図1)


(図1は△6四歩まで)

▲4五角に対し、6三と4三を同時に受ける△5ニ金右がこの定跡の第一歩。▲3四角の瞬間に自由度が高く、後手の選択肢が多い変化です。
筋違い角党は△5ニ金右を見たらこの△6四歩と△6五角の相筋違い角を警戒します。

そして今回取り上げる△6四歩ですが、あるハメ手的な側面を持っており人気の高い変化です。

(図1以下の指し手)
▲6六歩△6五歩


(図2は△6五歩まで)

筋違い角党は角をいじめられる変化が怖いため▲6六歩を早めに突いて6七や7八に角を引きたいという習性があります。それを逆手に取った手が△6四歩で、▲6六歩を突かなければ△6五歩と突き、△6ニ飛と右四間に構える変化などを見せています(変化図1)


(変化図1は△6ニ飛まで)

それを嫌って▲6六歩と突くと、すぐさま△6五歩と突っ掛けるのが△6四歩の狙いです。▲6五同歩には△6六角(図3)と打って△9九角成と△5七角成が受からない。


(図3は△6六角まで)

こうなれば後手良し。かといって△6五歩を取り返せないようでは取り込んでこれも後手良し。従って△6四歩に▲6六歩は△6五歩で先手ハマり形。筋違い角側の勉強量が足りていなければ後手が簡単に勝てる…という認識だけが広まっており、それ以上掘り下げる人は殆ど居ませんでした。

しかし将棋ソフトの発達により、後手が良いとされているこの変化を「本当か?」と疑って検討し始める物好きな筋違い角党が現れ始めました。
(私は物好きは自分だけだと思っていましたが、この先述べる変化ははにみちゃんなども知っていたようで割と調べていた方は多いのかも知れません)

ということで、前置きが長くなりましたが今回の記事はハメ手△6四歩を更に掘り下げた内容となっております。

変化自体は本当に面白いので楽しんでいただけたらと思います。

§2:△6六角を打たせる変化

△6六角のその先A:千日手の変化その1

(図3以下の指し手)
▲5八飛△9九角成▲8八銀△9八馬▲7七銀(図4)


(図4は▲7七銀まで)

▲5八飛で5七の方を守り、なんと9九の香車を取らせる変化があります。
当然の△9九角成に▲8八銀。このとき遠く3四の角が8九の桂馬を守っており、後手は△9八馬の一手です。そこで▲7七銀と上がった図4が後手の分岐で、△9九馬と△8七馬のいずれも考えられる手です。まずは△9九馬から

(図4以下の指し手)
△9九馬▲8八銀△9八馬▲7七銀△9九馬▲8八銀△9八馬▲7七銀△9九馬▲8八銀(図5)まで千日手


(図5は▲8八銀まで)

後手が△9九馬と潜り直すと▲8八銀から千日手になります。
もっと良く出来ると思っていた後手は不満、先手も序盤早々に千日手で先手番を失ってしまい不満、というケースが多く、実は後述の△8七馬の変化と比較して人気の無い変化です。

しかし、後手がこの変化を承知の上で△6五歩と突くのであれば、先手が正しい対応を知らなければ優勢になることに加えてきちんと対応されても先手番を得られるためかなり有力な変化です。

先に結論を述べてしまうようですが、この変化を踏まえて今後も△5ニ金〜△6四歩の筋違い角対策は指され続けるのかなと考えています。

△6六角のその先B:千日手の変化その2

(再掲図4は▲7七銀まで)

(図4以下の指し手)
△8七馬▲7八金△9八馬▲7九金△9九馬▲8八銀△9八馬▲7七銀△9九馬▲8八銀△9八馬▲7七銀△9九馬▲8八銀△9八馬▲7七銀(図6)まで千日手


(図6は▲7七銀まで)

▲7七銀に対し△8七馬でも先手は千日手に持ち込むことが出来ます。
しかし△8七馬には▲7九金として次に▲8八金で確実に馬を捕獲しにいく順もあり(次の項)、私の場合△8七馬を見たら千日手にはしません。

ちなみに、△8七馬に対し▲7八金△9八馬▲8八金△9九馬▲9八金(図7)で馬を捕獲出来るじゃん!という手順を思い付いた方はかなり強い方だと思います。


(図7は▲9八金まで)

しかし、この場合△7七馬▲同桂△6六歩(図8)と垂らして△6七銀を狙う手がかなり嫌味になってしまうためやや後手良しになります。


(図8は△6六歩まで)

次の項で紹介する▲7九金は次に▲8八金で形良く馬を取る(△8八馬には同飛、△7七馬には▲同金で隙を作らない)ことが狙いです。

△6六角のその先C:馬捕獲の変化



(再掲図4は▲7七銀まで)

(図4以下の指し手)
△8七馬▲7九金△8四香▲6四歩△6ニ銀▲6八飛(図9)


(図9は▲6八飛まで)
▲8八金を防ぐには△8四香と打つ以外ありません。それ以外の手には▲8八金で先手が指しやすくなります。
▲6八飛と回った局面は、後手の駒の自由度が極めて低く、以降の変化さえ知っていれば先手が優位な展開になります。

一例を挙げると、△4ニ玉▲4八玉△6三歩▲同歩成△同銀▲4五角△6四歩▲6五歩△同歩▲8五歩(図10)で十字飛車を狙って先手優勢。

(図10は▲8五歩まで)
▲4五角には△6ニ歩と下から受けるのが正着ですが、知らなければ指し難くこの先の展開を研究しているならば先手が良くなると考えます。

△6五歩▲同歩△6六角の変化の結論

・△6六角に対する対応を知らずに▲8八銀などとしてしまうと後手が良くなる
・▲5八飛から正しく対応すれば先手が悪くなる訳では無い
・▲7七銀に△8七馬だった場合、良くしにいく変化が先手にもある
・千日手の権利は後手にある

後手にとって、先手が正しい対応を知らなければ良く出来るし、知っていれば千日手に持ち込めるためノーリスクの変化。手順は面白いが、先手は△6六角を打たせない方が良いと考えられる


§3:△6五歩を咎めに行く変化

本筋の変化「△6五歩に▲6八飛」

では△6五歩を突いた瞬間から後手にだけアドバンテージがあるのかと言われるとそうではありません。



(再掲図2は△6五歩まで)

ここで歩を取らず▲6八飛と回る手があります。
これは△6六歩に▲同飛と取り返せる訳ではありません(△4四角▲6八飛△9九角成▲8八銀以下例の手順で千日手になる)が、6七の地点を受けてから▲8八銀〜▲7七銀〜▲6六銀と歩を払う変化を見越しています。(6七の地点を受けつつ狙う場合、▲7八金〜▲7七金からでも6六の歩は払えますが作戦負けしやすいので割愛)

一例を挙げると
(図2以下の指し手)
▲6八飛△6六歩▲7八金△6ニ飛▲4八玉△7ニ銀▲8八銀△4ニ玉▲7七銀△3ニ玉▲6六銀(図11)


(図11は▲6六銀まで)

後手は6六の歩を守る手段が一つしかありません(後述)。
それ以外の手では▲8八銀〜▲7七銀〜▲6六銀が間に合います。歩を取り切った図10は互角ながら、歩得のアドバンテージを取り返して駒も前に伸びている先手が不満無い分かれと見ます。

なお、手順中▲7八金は△6七角▲同角△同歩成▲同飛△4五角を消した手、▲4八玉は当たりを避けて重要な手です。急がなくても6六の歩は払えることを見越しています。

後手が△6六歩を死守する変化

先程、後手が△6六歩を守る手段は一つしか無い、と述べました。
それが△4四角の自陣角から△6ニ飛の足し算の受けです。

(図2以下の指し手)
▲6八飛△4四角(図12)


(図12は△4四角まで)

この△4四角はすぐ打つ必要はありません(▲6八飛△6六歩▲7八金△4四角などでも本筋の変化に合流する)が、嵌め手の含みが多いため打つならこのタイミングが優れていると個人的に考えています。
△4四角に▲6五歩なら△9九角成から例の筋で千日手に出来ますし、▲7八金だと△6六角で両成狙いが受かりません。

この△4四角を打たれると、先手は6六の歩を取り返すことが困難になります。
一例を挙げると
(図12以下の指し手)
▲8八銀△6六歩▲7七銀△6ニ飛▲7八金△7ニ銀▲5六角△4ニ玉(図13)


(図13は△4ニ玉まで)

先手は左辺を手厚く構えます。
将棋ソフトは▲5八金右のような手を推奨するくらいに左辺を重視する局面のようです(ちょっと人間的に囲いが薄すぎて勝ちにくそうと考えるため割愛)。

後手は△7ニ銀〜△6三銀〜△5四銀や△7ニ銀〜△7四歩〜△7三桂と構えることが出来れば優勢です。
そのため、△7ニ銀の瞬間に先手は▲5六角と引いて防ぎます(△6三銀には▲8三角成、△7四歩には▲同角を用意)。

後手も囲いを開始する△4ニ玉で迎えた図13。ここが今回紹介する最後の分岐です。

強引に△6六歩を取りに行く▲6五歩の変化

(図13以下の指し手)
▲6五歩△6三銀▲6六銀△5四銀(図14)


(図14は△5四銀まで)
▲7七桂△7四歩▲4八玉△3ニ玉▲3八玉△4ニ金寄▲4八銀△3三桂▲2八玉△2一玉▲3八金△3一金▲4六歩△3ニ金寄(図15)が一例で先手作戦負けしやすい


(図15は△3ニ金寄まで)

▲6五歩と打って後手の飛車の利きを遮断することで先手は△6六歩を取ることが出来ます。しかし、この場合前述の変化と違い▲6五歩が飛車と角の利きを止めてしまっているため、△6三銀〜△5四銀と後手は腰掛け銀に構えることが出来ます。こう進むと、先手はまだ居玉な上駒が渋滞して自分から動くことが出来ません。

△4五銀で角を殺しに来る手には基本的に▲同角△同桂▲5六銀打で大丈夫ですが、そういった変化も後手の権利になっていることが先手は気掛かりです。

仕方なく右辺に玉を移動して囲いますが、後手も悠々とミレニアムに組みます。この際、先手を金美濃にしたのは片美濃だと後手の3筋の歩が切れているため将来の△3六歩が著しく厳しいためです。

図15は後手の囲いの方が堅く、更に△6六角▲同飛△5五銀のような仕掛けの権利が後手にあります。


(変化図16は△5五銀まで)

長々と進めてしまいましたが、結論としては長い目で見ると▲6五歩から強引に△6六歩を取りに行く変化は後手の方が堅く、かつ仕掛けの権利を握る展開になりやすいです。

従って私は▲6五歩は打ちません。

右玉含みで戦う変化

最後の項目になります。△6六歩を急いで取りに行かず、右辺でアドバンテージを狙いつつ、タイミング良く▲6六銀と歩を払いに行く変化です。

なお、後手(居飛車)の囲いによって先手の戦い方は大きく異なります。全てを紹介することは出来ないので、今回は一例として後手がミレニアムを組みに行った場合の咎め方を紹介します。

(再掲図13は△4ニ玉まで)

(図13以下の指し手)
▲4八玉△3ニ玉▲3八玉△3三桂▲4八銀△2一玉▲4六歩△3一金▲5八金△4ニ金寄▲3六歩△3ニ金寄(図17)


(図17は△3ニ金寄まで)
▲3五歩△同角▲4七金△3四歩▲6六銀(図18)


(図18は▲6六銀まで)

先手は右玉を組みに行きます。今回のミレニアムのように後手が隙のある駒組をしてきた場合、右辺から仕掛ける権利が先手にあります。

後手の角筋をずらし、▲6五歩を打たずに6六の歩を払うことが出来た図17はやや先手作戦勝ちと見ます。

総括

▲7六歩△3四歩▲2ニ角成△同銀▲4五角△5ニ金右▲3四角△6四歩に対し▲6六歩と突き△6五歩を誘う変化

・▲6五同歩△6六角▲5八飛△9九角成▲8八銀△9八馬▲7七銀
 →△9九馬…千日手
 →△8七馬…やや先手持ち

千日手の権利は後手にある。面白い変化だけど先手が嵌る変化が多いぶん後手に利が多い

・▲6八飛と回る変化
 →後手が△4四角を打たない…6六の歩が払えるため先手持ち。
 →△4四角を打つ変化…先手が網羅的かつ深く研究していれば作戦勝ちしやすい。ただ右玉の感覚など求められるため指しこなす難易度は高い。

こういった感じでしょうか。

当然、将棋ですので先手後手どちらを持っても簡単に良く出来る訳ではありません。より勉強している方が良くなるというありきたりな結論になってしまいました。

しかし、これまで先手嵌まり形とされていた変化が掘り下げてみれば互角であり、非常に複雑な千日手の変化やバリエーションがある、といった所に将棋の奥深さ、筋違い角という戦法の面白さを感じ取ってもらえたならこれに勝る喜びはありません。

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