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Fat Albert Rotunda/Harbie Hancock-ギタリスト前原孝紀さんへ-Tell Me A Bedtime Story

突然の訃報に頭も心もまだついてゆかない。
なので少し気持ちを整理するために、あえて細やかにちゃんと文章にしてみたいと思う。

先日2/4、ギタリスト前原孝紀さんが逝去された。

歌を始めてから、セッションやショーケース的なお試しライブのようなもので何度かお世話になり、昨年12月に日暮里のポルトというお店で初めてデュオで共演させていただいた。
ポルトのマスター伊藤さんとの事前のやり取りで、前原さんのギターが好きなんだと伝えたところ、「じゃあ前原くんとやってみようか」と仰っていただけたのだ。

前原さんは個性が強く独自の世界をお持ちでありながら、一緒に演奏すると非常に合わせやすく、しかしそれは彼が大きな器でもってして、こちらの世界をしっかりと受け止め、人一倍寄り添ってくれるからに他ならないのであった。

仏頂面で寡黙でこだわりが強いと同時に、優しく面白くおおらかな方だった。
基本ステージでは喋らないのに終演後お酒が入ると意外なほど喋るギャップも面白い。
そんな人柄がみんなに好かれていて、もちろん私も彼の人柄を愛してやまない1人であった。
器用に振る舞う事はなくとも、優しく実直な人なんだという事が自然に伝わってくる。そんな人だった。

12月のライブが終わり、伊藤さんから次のライブのブッキングの連絡をいただく。
前原さんとのデュオ再演である。
そうなると次回は選曲なども、さらに「前原さんとやると面白くなりそうな曲」という意識で考えて選ぶわけで、とても楽しい。
ずっとお蔵入りにさせていた自分のオリジナルも少し整えてやってもらえるか相談してみようか。
きっと前原さんとなら面白くできるのではないか。
そんな事をわくわくしながら考えていた。

そこからまた少しして、伊藤さんから前原さんのトラを探して欲しいとの連絡が来る。
このところ体調が悪いと聞いてはいたが、ちょっと長すぎやしないか。
もしかすると少し厄介な病気なのだろうか。
そんな風に心配はしていた。
そしていきなりの訃報である。

これからデュオを重ねていくはずが、いきなり最初で最後の一度きりのデュオとなってしまった。

12月のライブのあの日、既にとても体調が悪そうであったにも関わらず終始包容力を発揮してくれた前原さんだが、特に私が忘れられないのは「Tell Me A Bedtime Story」である。

この曲には自分にとっての難所がある上、大好きな曲であるにも関わらず、一緒に演奏する方に自分のやりたい形をなかなかうまく提示できずにいる曲でもあった。
なので「この曲にはこういう不安があるから、リハで少し合わせてみて良い感じにならなさそうなら他の曲に差し替えようかと思ってます」と前原さんに伝えた。
だけど、そんな心配はなかった。

前原さんのギターは、私が向かわんとする方向をばっちり捉え、そこへ心地よく泳げる場所をふんだんに作り、膨らませ、インピレーションを与えてくれた。
そのおかげでこの日の「Tell Me A Bedtime Story」は、難所をするりと乗り越え、流れるように自然に、心地よく、我々デュオによって作られたもの、としての形になった。

そんな時に限ってレコーダーを回し忘れているというポカをやらかしており、リプレイして後からその場で起きていた事を精査したり単純に懐かしんだりする事もできないのだけど、最後にこういった機会をいただけたのは本当にありがたい事だったと思う。

この曲を聴くたび、前原さんを思い出すだろう。

前原さん、本当にありがとう。またね。






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