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水中鳥居の世界〜第1回

豊岬金比羅神宮(北海道初山別)

 日本海に面した北海道苫前郡初山別(とままえぐんしょさんべつ)にある豊岬金比羅神宮の海中鳥居は私が撮影対象として水中鳥居に興味を持つきっかけとなった両部鳥居だ。忘れもしない、実家のある旭川に帰省した2013年、Flickrで知り合った同郷のフォトグラファ「Iさん」が見せてくれたマイケル・ケンナ著『HOKKAIDO』に収録されているこの鳥居の写真に一瞬で魅了された。その数日後Iさんの運転する車で初山別を訪れ初撮影を実現。その時はデジタル一眼レフカメラ以外に中判と大判フィルムでも撮影をし、いずれの作品も記憶に鮮明に残っている。当時はまだ意識できていなかったかもしれないが、水中鳥居撮影をライフワークにしようと決心する発端でもあったので、いわゆる運命の出会いというやつだ。

 金比羅神宮は、明治の神仏分離令までは主祭神が金毘羅権現だった香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう)を総本宮とする社だ。初山別の金比羅神社は明治40年ごろの建立で、小さな本殿は岸壁に設けられている(上図)。その前の海中に立つ大鳥居は昭和56年に大漁祈願の意味を込めて、地元の名士、岩田金蔵氏が私財を投じて自ら建てたものと言われている。金比羅権現はインドの鰐神クンビーラが由来といわれ海上交通の守り神として信仰される神仏習合の神であるし、それゆえか、主祭神が大物主神となってからも金比羅神宮は海運の守護神とされる。自然と参拝者の多くは海運業者や漁師であり、この辺りのことも水中鳥居の多くに共通している特徴かもしれない。
 2013年に初めて初山別を訪れたときはとにかく行ってみたい撮ってみたいの思いで特に計画も立てずに赴いたのだが、到着した後で、たまたま曇天だったため逆光なのに何とか上手く撮影できたこと、そして思った以上に水に「浸からない」ものだと気付いた。初めての海中鳥居撮影で天候と潮の満ち引きの二点でちょっとした幸運が重なったわけだが、同時に天気、太陽の位置、潮の干満が作品作りに重要な要素だと思い知った。その教訓は現在に至るまで水中鳥居撮影に役立っているし、本シリーズを通して伝えていきたいと思っている。トップの作品はその5年後の2018年に再訪したときのパノラマ写真。この時はしっかりと計画を立て、条件を揃えて撮影に出向いた。

[撮影条件]
カメラ
:ソニーα7rII
レンズ:キヤノンTS-E 24mm F3.5LII
フィルタ:FORMATT-HITECH Firecrest 16(16段NDフィルタ)
詳細:ティルトシフトレンズを左右へ8mmずつシフトして3枚撮影(いずれもF8/120秒)したものをスティッチしてパノラマ作成

以下では、一年の内どの時期に訪れれば「ちょうど鳥居の中で沈んでいく太陽」が撮影できるか? 水中鳥居として撮影するために気を付けなければならない要素とは何か? 何ミリのレンズで撮影するのがいいのか、他に近くにどんな興味深い撮影対象があるのか? などを説明する。

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