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マッチングアプリで彼氏募集したらとんでもないゲーマーが釣れた件について〜再会編〜

6月、それはPS4の電源をつけた時のことだ。
ピロンと通知音がPSnetのアプリから流れてきた。どうやらメッセージからだ。送り主は見知らぬIDだった。

『元気?』

ボクは誰だろうと思ったが、昔ボクが撮った写真のアイコンで、紛れもなく元カレのIDに似ていたから、『ゲーマくん?』と返した。

『俺やで』

ゲーマーくんだった。
別れてから連絡が来たのは初めてで、僕は慌ててしまった。だって、もう連絡なんて絶対に来ないって思っていたし、なんならLINEなんてブロックして無かったから、僕は急いで連絡した。

『ひかり、元気そうでよかったよ。体調とか変わりない?』

僕はほんのり涙目になりながら、彼の文に返した。『元気だよ、そっちは?』と言ったら悪ふざけのスタンプで帰ってきた。

変わってないね、キミは。

僕は、すぐさまLINEのブロックを解き、彼にLINEのメッセージを返した。すると彼からいきなり電話が来たのだ。僕は緊張のあまり、お茶をひっくり返してしまった。

『もしもし、ひかり?大丈夫かいな。』

半年ぶりに聴く彼の声、僕はすでに涙目で声もひ弱になっていた。今でもすっかり変わらないちょっと高めの声、あと僕のことをまだ『ひかり』と呼んでくれたこと、それだけが嬉しくて言葉が出なかった。僕のこと、まだブロックなどしてなかったらしい。

『ゲーマくん、久しぶりやね。』
『ひかりこそ、てかどないしたん笑、そんな泣きそうな声して笑』

僕は涙を拭いて、彼にいろんなことを聞いて、いろんなことを話した。会社を辞めたこと、お母さんにドチャクソに叱られたこと、アルバイトの内定を勝ち取ったこと。しかし別れた理由だけは話してくれなかった。僕はどうしても聞きたかったから、彼に会う口実をつけたら『ほんなら、あったときに話したるわ』と言ってくれたのだ。

9月上旬、難波。

難波の高島屋正面玄関口で待ち合わせとのことで、僕は30分前に着いて、彼を待った。秋の夜の難波はまだまだ暑くて、人々がごった返していた。ストリートライブの人たちは今日もどんちゃん騒ぎで賑わっている。

『ひかり?』

後ろを振り返ったら、彼はいた。僕は思わず彼を抱きしめそうになったが、もう別れた間柄ともあって、一歩を踏み出せずにいた。『ひ、久しぶりやん!うわ、めっちゃ痩せてるやん!』彼は付き合っていた当初よりだいぶ小さくなっていた。僕は緊張のあまり、変な絡み方をしてしまったが、彼は笑って『ひかりはまた大きくなったな!アハハ』と返してくれた。何一つ変わらない笑顔が懐かしくてあったかい。

予約していた、居酒屋に行き、軽く一杯、お酒を一気に流し込んだ。もともと僕は極度に酔いが回りやすい体質だから、酎ハイ3口目あたりから、フラフラし始める。だめだ、目ん玉の奥でメリーゴーランドしてる。僕は顔を赤らめながら、酒を置くと、彼は笑って『やっぱまだ酒無理か』と飲みかけの酎ハイを飲んでくれた。僕はそっと、彼の目をじっと見つめながら、質問した。

『もう、終わった話かもせんけど、なんでうちと別れたん?』

そうすると、今まで笑顔で飲んでいた彼が急に暗い顔になって、僕を見た。

『あの時は…あの時は、俺、病んでたんよ。仕事も碌にできてへんくて。親には勘当されかけたし、もう全部切り離してふらっと生きてみたかったんよ。』

なんで今まで言わなかったのかと聞きたかったが、聞いちゃまずいような空気で、僕はそっと、彼の手を繋ぐ。あったかくて、細い手はそっと優しい。

『ごめんな、ひかり。光がショックせんように、俺言わんとこと思ったんやけど、どうしてもっていうから、言ってしまったんや。』

彼は変な空気になっていることを感じたのか、苦笑いだった。絶対無理をしている。僕はとっさに彼の手を握った、お酒が入っているのかほのかにあったかい。

『なんでこんなになるまで…言ってくれんかったんよ…』

ゲーマーくんに会えた事ややつれるにまで言ってくれなかった事が感情に出て、号泣してしまった。すると彼は、僕の顔を両手で包んだ。じんわりと彼の懐かしい匂いがする。『ひかり又、泣いてるやん。光は笑ってる方がべっぴんなんやからさ、な?笑ってや?』彼はいつもの笑顔で両手の親指で涙を拭ってくれた。

付き合う前に言った、あの一言と言ってくれた言葉にそっくりで、なんだか懐かしい匂い。自然と僕は涙が治まったような感覚、変な感じで、心地が良い。『あぁ、いつものゲーマーくんやん。なんで泣いてるんやろ、』僕は右手で涙を拭き、彼にニコッと笑って見せた。彼も嬉しくて、頭を撫でてくれた。

帰り道、難波はとっくに夜中のネオン街である。9月の中頃はもうすでに肌寒く、すっかり秋の夜の風が吹く。私は彼の手を繋ぎ、『ねぇ、お互いさ!落ち着いたらでいいからまた告白してきてよ!』と言ったら、彼はにっこり笑って、頷いた。

午後10時、帰り際のカップルがキスをした。

写真を撮るOLです。