犬と暮らせば、1

その日は夜勤明けだった。
小規模多機能型居宅介護という普通の人には聞き馴染みのないであろう介護サービスの種類。通いと訪問と宿泊を組み合わせてケアサービスを提供している事業所のオープンから管理職なので普段は夜勤がないのだが、イレギュラーで夜勤をした。
たまにある夜勤明けは非常にハイになってしまう傾向がある。

夜勤の内容は覚えてないけど、いつも通りの夜だったんだと思う。

会社から車で1分のショッピングモール。
何気なく入ったペットショップ。
ゲージに3匹くらい犬が入れられていたと思う。
あまりよく覚えてないけど、店員さんにどう話せば良いのか分からず、素直に言ったのは、
「この子、買って帰りますですかね、飼ってですかね?」
店員さんは『は?』という顔をしていた。

そりゃそうだろ。

文字にすれば分かりやすいけど、言葉だけでニュアンスは伝わりづらい。

とにかく、ATMでお金を下ろし、14万払って、犬と暮らす生活が始まった。

犬が困惑するから帰ってからもしばらくは静かに放っておいてくださいね的なことを言われていたのに、車に乗り込んでソッコー買ったばかりのキャリーバッグから犬を抱き上げた。
帰りの車中、間違いなく世界で一番の幸せ者だった。

当時、姉と姪っ子と猫1匹と暮らしていたアパートはちゃんとペットOKで、不動産屋からは『3匹まで』と言われていた。

前の年、姉が大学の頃に拾った猫を亡くした。とにかく良い奴だった。
名前は【エル】
名の通り、体も心も規格外に大きな猫だった。
もはやLLだった。
そんな彼が居なくなって、2匹目の猫である【ユイ】もどこか寂しそうに彼を求めて鳴いていま気がする。
ちなみに恋愛関係はなく、当時の年齢で言えばおじいちゃんと女子高生くらいだったのだが、エルがとにかく優しい猫だったので、若干思春期で反抗期の女子高生は素直に甘えられたのかもしれない。
私もおじいちゃん子なのでよく分かる。

我々家族に空いた穴は大きすぎていまだに思い出して泣いてしまう。

犬を買って帰ったのはある意味姉や姪っ子へのサプライズ的なところがあった。

ところが姉にこっぴどく叱られた。

いい年した大人がそれはもうすごい説教を食らった。

前述した通り、いつかやりたいサプライズだったのだ。

犬の飼い方もちゃんと読んだし、犬を飼ってる同僚にも相談したし、ある程度の貯金もしておいた。
知る由もない姉からしたらそりゃ無責任に見えるわな。

でもサプライズだったから!

犬と暮らす。
波乱の幕開けだった。

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