「ハートフル日和」
「いるのに、いない。いま、一緒にいるのにいない。そう思うくらいさみしいの」
夜中に飲みかけの、底に沈んだチョコレートの泥
洗いながら、まっすぐ背中を向けて
自分に語るようにいうわたし
「エッチしに来ただけ?」
「ちがうよ、顔見たくてきたんだよ」
「女の機嫌を取るのは高いんだぁ。でも歩いていく時間、しゃべれるね」
「おれは、歩くの大好きだ」
自転車を押すわたし
あなたは自転車の向こう側歩く
なに、話して歩いたっけ
「よし、坂道終わり!はい、うしろ乗ってよ!早く~」
いいよ、いいよ、をしたって、うしろ乗るんじゃん
「二人乗りは禁止されてますー」
「いいの、いいの、だれも見てません~」
段差だ
そのまま、ガッタンコ
「いってぇ~」
「あ、ごめーん。足、上げといてよ~。あー、また段差だー」
「二人乗りは禁止されてますー」
前から来る散歩の女性を意識して、あなたは叫ぶ
自転車漕ぐわたしを見て目をそらす女性
「あと何年こんなこと出来るのかなー」
あなたはなんて答えたか、覚えてない
ちがうこと、考えていたから
「二人乗りは禁止されていますー」
「いいの、いいの」
自転車漕ぐわたしを見て、おじさんが目をそらす
「はい、坂道。降りよーっと」
「あ~、痛かったなぁー」
「なに、ちんちんが?」
ふざけるのも今だけ
自転車乗ったから、あと5分後に電車来ちゃう
「缶珈琲、二人で飲みたかった」
聞こえないふりで改札をくぐろうとするあなた
「じゃあな」
うらめしそうに見るわたし
あ、そうだ
駐車場に回って、ちょうど乗り込むところ
「お~い」
手を振って「気づいて」
赤い車の前にパパと男の子
電車来るのを喜んで見てた
かまわず手を振った
わたしが見えるところの車両の扉まで
ふたり、てをふる
てをおろしたら
あとはわたし、ひとりチャリをこぎいでな
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