見出し画像

「幻想夜話」新怪奇幻想倶楽部④

カゲヤマノ剣

佐脇様

佐脇様

あっしはお城におってもよろしいんで?

女房はこれからどうなるのでございますか?

けっきょく、奥の奥に連れて行かれてしまったでねぇか

ガコウソってのはなんなんですかね?

けったいな、なめぇですが、人・・なんですよねぇ?

あっしの女房はヒトウ・・なんとかなんて、なめぇじゃない
けど、女房がてめぇで・・ヒトウ・・
ああ、女房にいつもあたしを「てめぇおめぇ」呼ばわりするなと怒られるんですわー

口がわりぃのなんのって、そん時の女房の顔も夜叉のようでして・・
あっしもケンカした後で女房がかわいそうになるんですがね、あっしはもともと海育ちなもんで

浜育ちは口がわりぃんでぇ!!

それでいつも問答はおしめぇです

女房には一言も聞けませんでした

えらいお転婆なところがあるんで山育ちだとは思っちょりましたが、山を怖がる時がたまに・・原っぱなんかに行くとうれしそうに跳ねてましたがね。女房は森の部落出だったんだろうか・・?

薄々感じてはおりましたが、女房は訳ありなんだと・・これではっきりわかりましたよ
女房は底なしに明るくて働きもんなんですが、あっしがちょっかい出して女房をやじるとすごい剣幕で、ムキになるんでさ

そりゃあ女房が緊張しっぱなしであっしにも心を開いてくれないと、逆にあっしに無関心そうなのもなんだ気に入らねくて・・

あっしは女房の何を知っているつもりで、得意げに女房を品定めしていたんでしょうね

思えば女房がひらひらと現れたのだって、こんなご時世・・城はひっきりなしに御城主が代わられる・・天下統一だかなんか知りませんがね・・ああすんません恐れ多い
きっとお侍様たちの領地争いだなんだで住むところをなくしたんだなあ・・と
なんせ自分のことは一切いわんのです
どんなにか、こえぇ目にあったんだろうと・・
ぼんやりしていることはしょっちゅうでさ
きっとなにか思い出して、考えちまっているんでしょうな

あっしら水呑んで米作って、米食えずに田んぼのふちに生えてる茎っぱまで・・
ああいやなにも佐脇様を責めているわけじゃあ・・
佐脇様だって身なりはきちんとされているが、その丸鶴紋の羽織だって仕立て直しの染め直しでございましょ?

え、白い飯食えるだけありがたいですって
かたじけないなんて!
いまはお天道様が消えなさって、あいや罰当たりなことを!隠れなさってるから野良も出来ん
こんまま田んぼに病気が出んか、そりゃあ心配で・・

佐脇様

このさつま芋ガリガリしてますね
黒い点々がいっぱいあるなあ・・
痩せた土地に出来るっつっても、さつまがこんな出来じゃあ・・お天道様の力は偉大じゃあ
あっしらはなにか勘違いして暮らしているんじゃなかろうか?
だってお天道様が消えたんですよ?
ただごとではないでしょうよ
あっしらとっても大事なことを忘れてるような気がしてなんねぇ
強いもんに弱いもんは逆らえねぇ
だがその強いもんズルいもんの暮らしをかついで支えてんのは、あっしら弱いもんだ
あっしら弱いが、お天道様が出ては拝み、沈む時も拝み、なんだ時にたまらなく悔しく、悲しくなっても、強いもんが嫌がることをやって行くんでさ
お天道様を思えばまた頑張れるんですわ
あったけえ、お天道様の陽は人のうれしそうな笑い顔
人の体から出ているあったけえもんだ
女房の笑った顔が見てぇなあ・・
女房の顔が見てぇなあ

あっしは死にたくねぇです

こん町が、こん城がどうなるんか知りはしません
だが女房は守ってやらねぇと
上か下かの男なんて関係ねぇ
どんな男だって、女ひとり守れねぇなんて男じゃねぇです
女房じゃなかろうが娘じゃなかろうが関係ねぇ
男の風上にもおけねぇ
そもそも学がねぇんで、男の風上がどの辺かもわらりませんがね
とにかくクソです

佐脇様

あなた様はきっとそうだ
男気のあるお方だ
百姓だ、虫けらとおんなじだなんて
貴賎病みで高慢ちきに、人間を見ねえ

あっしはこのまま
足軽なんぞになっちまって
誰か人を突いたり刺したり
自分が生き残るためにするんだろうか
女房はそんなことは望んじゃいねぇ
きっと自分はそんなことしてまで生きたくねぇと、駄々をこねるに決まってる

ガコウソってなんなんですか
女房のなんなんですか
あっしはカタキだと思って、死ぬ気で戦う時がきっと来るんでしょう?
佐脇様実は
このみじかい刀なんですがね
川で拾ったんでございますよ
お武家紋のような刻みがありますよ
どうせあっしは人殺しだあ
拾った刀でいくさに出ても構いやしない
そう思ったんですがね

え?
どこで拾ったかですか?
どこって言われても・・
川はどこもおんなじでしょう?
子どもが遊んでるような、菜の花が咲いているような・・

「これは安房の影山の・・たしか主君が戦に勝ったが犬騒動に巻き込まれた・・なぜおぬしの所轄に・・いやおぬしの里は確か」

「あっしは寂れた漁村の生まれでしてー。わけぇ頃は転々としたもんでさー。安房とは格が違って田舎もんの田舎もんですわ。まあ安房にも寄りましたが、どの辺の川かも覚えて・・行けばあ、なんか思い出すかも知れませんがねぇ。佐脇様、この刀がなんかあるんですか?あっしは罰されるなら、佐脇様に預けますんで納めてくだせぇ」

「うむ・・どうしたものか・・おぬしに何か累が及ばねば良いが・・まあ持っておれ。ヒトウガのこともある。儂の目が届かぬうちは自分で身を守るのだぞ。それに貸し刀も具足も支給しておくか。あの金子はもうあるまい?何に使ったとは聞かぬが足軽一式も揃えていまい?おぬしにはその気がなかったからな、まあよい。儂からくれてやった品だとしてもやっかむ者も出てこよう。くれぐれもその刀の扱いには用心せよ?」

「へぇ、わかっておりやす」

面倒なことに巻き込まれんのはだから嫌なんでございますよ・・
人なんてくだらない、たいしたことでもねぇ、こまかっしいことで、どこで怨みを買うかわからねぇ

佐脇様は戻って行き、あっしはとうとう真っ暗い中に取り残されちまった
ところどころに、小さな器に油が燃えている

用足しくらいなら行けそうだなぁ

お庭なんぞでしたら、粗相をしたといきなり斬られるかもしんねぇなあ・・
はあ
くわばら・・
くわばら・・
変に歩いて来たから
余計腹減ってしまったなあ・・



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?