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「幻想夜話」新怪奇幻想倶楽部③

獣御殿

ヒトウガとガコウソ

あっしはのこのこ、出かけてまいりました

町がある日を境に真っ黒になってしまったんでさ

だもんで野良が出来ねぇ

うちん中もまっ暗くて、夜中みたいなんでさ

そしたらうちの戸をだんだん叩くもんがおりやして、わしだわしだと騒ぐんで

わしだわしださんには、こころあたりないもんで

あっしの女房なんかは怖がってしまって
開けるな行くな無視してろと
わたしらは年中引っ付いて、お互い丸まって這うようにして、暮らしているんでさ
お天道様は出てこない
真冬だってこんな寒さじゃありませんよ
とにかく真っ暗続きの、なにをするにも、灯りが必要で、こんなことならスス煙しか出なくとも、毎日松ヤニを集めておくんでしたわ
油なんて買えやしませんよ
町方やなんやで油をたくさん使うから、油すましなんて妖怪が、いましめのために真っ暗なまぼろしを見せているんでは?

おおそだ、あっしは、お~いわしじゃ~丸鶴紋の侍じゃ~と聞こえて、ああ、あの時のお人かと安心して戸を開けたんでさ

開ける前にもさあ~と血の気が引きました
金子を返せと来ても、返せないのですから
あっしは女房をなだめて、四つん這いで土間におりました

「おお、儂じゃよ、暗くてわからんが、佐脇と申す。あの時は名乗らずすまんかった」

「いいえ、あのような金子まで頂き、お返ししたほうがよろしいようで?しかしつい足軽の衣装みたいなものを買って来てしまいまして・・他にもいろいろと・・それになにゆえ、あっしのうちがおわかりに・・あっしこそ、村もなめえもいいませんのに」

「時にそのほうの女房殿だが、貸してはもらえぬか」

「はあっ!?いくらご立派なあなた様でもなんという、おっしゃりようで!あのようにご立派な佇まいでいらしたのに・・野良の女房までご所望とは、お侍さま。お侍さまはかわいそうですね。やはりひところしですよ。ご自分が殺される前に、殺すので?そうすれば助かりますので?」

あっしは真っ赤になり、ぶるぶる震えながら文句をたれやした

「おい、まあ待て。違うのだ。儂も焦っておって悪かった。城に来てはくれまいか。おぬしも一緒で良いから。女房殿が必要なのだ」

佐脇さまはあっしの肩をつかんで、ものすごい迫力でいうんでさ
なにがなんやらわかりません

「そのほう、轟きの村の者だと聞いた。女房殿、どうなのだ」

佐脇さまはあっしの頭を通りこして、壁に引っ付いて黙って息を飲んでる女房にたずねるんでさ

女房は「とどろ・・きの・・わたし・・」

かわいそうに、おびえていました
あっしは佐脇さまの手をふり払って、女房のところに行こうとしたんでさ

「ガコウソを知っておるな?ガコウソは今、城におるのだ。我らはガコウソの為に問題を抱えておる。吉と出るか凶と出るか、まだわからぬが。女房殿のことが亀甲と夢うらに表れたのだ。かしこみの卦・・おそろしの卦に何か変われるものが、あるやもしれぬ」

「・・・・・」

女房は黙っているし、あっしもぽかんとしてしまいやした
はて女房はとどろきなんて村の出だったか、と・・

「ガコウソが・・あの人なにを・・」

「道中話す。来てくれるか。いや、参れ。先日、そのほうの主人に支度金を渡した。まさかこうなるとは露とも思わなんだが」

あっしはまたも仰天の助で、お侍さまを見上げやした
女房はいったい、あっしはいったい・・

ごくりと固唾を飲んで、佐脇さまとあっしは女房を見たのでございやす
女房は真っ暗闇の中で、あらためて座るとまっすぐな一本木のようでありやした

「参ります・・あたしは轟き村のヒトウガ。鍛冶部と錬金のたたら女です」




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