見出し画像

『虹と君とホトトギス』愛子と柏翠の見た夢


[愛子の場合]

ホー  ホケキョ
愛子が死んだ
ホー  ホケキョ
四月一日
何かの間違いだ
ホー  ホケキョ
私の方が先に逝くはずであったのに
御仏は私に何を試そうとしてあられる
ホー  ホケキョ

鶯(ウグイス)は喜んで枝から枝を金粉を撒き散らして飛び回る、その愛らしい姿と澄んだ声
鶯は愛子
私は不如帰(ホトトギス)
血を吐くまで鳴き、句を胸を掻きむしりながらまでうたいたい
ゆえに愛子は体調が優れなくても可能な限り、私の配膳や身仕度を気にかけた
いよいよ身体が衰弱して寝付くことになり、私は私と愛子の師をここ、三国にお呼びした
師も愛子も、ともに会いたくて仕方なかっであろう
愛子は師の土産話に夢見るように
「菜の花寿司食べたいなあ」
と言った
愛子がもう、飯粒すら喉を通らないと悟った師は、今にも泣き崩れそうであった
愛子よ
烏骨鶏を飼おう
来年の春はその卵を溶いて、三つ葉と焼き
菜の花の混ぜ飯を作り
あぶら菜の味噌汁を飲もう

私は師に
「近頃愛子と結婚しようと思います」
と告げた
師は
「二人とも身体が弱いのですから(おやめなさい)」
とのことだろう

だがここは師が「愛居」と名付けたくらいだから、愛子と(愛子の母さんと)私の居宅なのであるが、師がどれ程愛子がいとおしく思えて洒落てつけたのかよくわかる
後年、いくらかの人が師が愛子に抱いていた感情が男女のそれ、と間違っていたがそうではない
愛子は確かに、母さん似でとても美しい人であるが、心も優しく美しい
私たちの師もまた、穏やかで柔らかなところが愛子とよく合っていた

愛子が死んで少しして、師が家の前の庭先で写真を取ったのを見せてもらったが、日がまぶしくて厳しい顔をしているのか
愛子の死に不条理を感じて、お天道様の下でしかめっ面をしているのか
「愛居」は「愛虚」
だったのかも知れない


[梅に鶯]

仲睦まじい二人と言われた愛子と私
愛子(鶯)は私のところ(梅)には来ないが
私は雅号を「梅庵」とす

私は愛子の母さんと温泉に「虹屋旅館」を出した
結構繁盛して、何故か相撲取りがよく使ってくれた
ノミの夫婦ならぬ、ノミの店主とその客であろうか

それはそうと愛子
私は今度、結婚しようと思う

このあとのことはまた
書いていこうと思っているよ



つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?