デイリーインボックスという選択 / Webで稼ぐ / セルフ・スタディーズからはじめる2
はじめに
ポッドキャスト、配信されております。
◇第百十七回:Tak.さんとタスク管理の基本について(前半) 作成者:うちあわせCast
今回は「インボックス」と「プロジェクト」について語ろうと思ったのですが、存外に長くなったので半分だけになりました。
あらためて確認したのは「基本的な情報」の重要さです。基本的な情報は馴染めば馴染むほど当たり前になり、言語化されなくなります。
「見様見まね」が効いた時代であれば行為からの模倣が可能だったので言語化されなくても問題はありませんでしたが、現代では言語化されない情報(=技能)は伝わらなくなる可能性が高い、という問題を抱えています。
なので奇抜なノウハウではなく、ごく基本的な情報を地道に確認していくのが大切なのでしょう。
〜〜〜時代の節目〜〜〜
二つの大きなニュースがありました。
一つはNotion AIの発表です。
◇Notion (ノーション) AI
こちらはまだα版なので自由に体験できるわけではありませんが、掲載されている動画を見ればどのような機能なのかはすぐにわかるでしょう。ユーザーが書いた文章に反応して、AIが自動的にコンテンツを生成してくれる機能です。
いかにもデジタルノートな感じがします。デジタルノートにおけるAIの活用は、Evernoteが少し前から言い続けていたことですが、結局Notionが先に実装に向けて動きだすことになりました。
*ちなみに、EvernoteにおけるAIはまた違った役割だったようです。
アナログノートは、どれだけ工夫したとしても上記のようなことはできません。言い換えれば、こうした機能は質的に異なる「ノーティング」を立ち上げていくことになります。単なる入力補助を超えた、コンテンツの自動生成。それがデジタルノートになにをもたらすのか。今から楽しみです。
そして、もう一つのニュースは先ほど挙げたEvernoteについて。
◇Evernote の次のステップ:Bending Spoons の一員になりました! | Evernote 日本語版ブログ
Evernote社が Bending Spoons に買収され、その経営権が移動することが決まったようです。
正直な感想を言えば、これはかなり大きな分水嶺だと感じます。経営基盤がより安定したことで、長期的なスパンでツール開発を進めていけるようになる可能性もある一方、Bending Spoons の意向によって、これまでのEvernoteとはまったく違った方針に転換していく可能性もあります。
個人的にはEvernoteの方針に賛同してユーザーになっている(有料ユーザでもある)側面が強いので、もし後者のような事態になればEvernoteに別れを告げなければならない決断も必要となるでしょう。
昨今はイーロン・マスクによるTwitterの買収でユーザー離れも起きつつあるようですが、ライフハックブームの終焉だけでなく、そうした営みを支えてきたツールそのものも大きな変化の渦に直面しているようです。
〜〜〜I/O比〜〜〜
知的生活や知的生産に単純な効率性を求めてしまうと、インプット対アウトプットの比率が悲惨なことになってきます。
一般的にそのI/O比は5対1や4対1、つまりたくさんインプットして、少しだけ出すくらいがちょうど良いと言われています。これは実感としても頷けます。一冊の本を書くために仕入れた情報をすべて使うことはありません。必ず選別が働きます。選別が働くからこそ、そこに残るものにより高い価値が生まれるわけです。
しかし、「資源の利用」という観点から見ればこれはたいへん不経済と言えるでしょう。単純な効率性を求めるならこの比率は「アップデート」すべき対象となります。
すると、4対1が3対1になり、2対1になり、やがては1対1になります。インプットしたものを、そのまま出す。梅棹が言う「頭を働かせて」という部分がすっかり抜け落ちています。
しかし、ここで留まるものではありません。より追求すれば、0.5対1や、0.25対1になってきます。整数に揃えると、1対2、1対4になるのです。
こうなると、剽窃やコピペが横行し、ありもしない妄想や論理の飛躍が大量に入り込んできます。ここまでくると、もう知的生活や知的生産とは呼べないものになるでしょう。
どんな価値観を持つのかはもちろん自由ですが、それでも「知的」な活動において「生産性が爆上がり!」みたいなことを謳う言説に出会ったら、上記の比率の話を思い返してみるとよいかと思います。
〜〜〜読了本〜〜〜
以下の本を読み終えました。出版社さんから献本いただいた本です。
『地球をハックして気候危機を解決しよう: 人類が生き残るためのイノベーション』(トーマス・コスティゲン)
本書ではジオエンジニアリングに関する実例がたくさん紹介されていて、その大半は私の日常的な感覚からすればかなりSFチックです。
雲にレーザー光線を照射することで雨を降らせる。海上の氷が溶けないようにバリゲードを張り巡らせる。砂漠一面にソーラーパネルを設置する。
どれも実際に実証されていたり、それを行うための企業が作られているものです。
こうした技術的介入によって「気候問題」を解決する(あるいは根本的な解決に至るまでの時間稼ぎをする)というのが、ジオエンジニアリングの目的なのですが、本書ではそうした技術的介入をしてしまうことの弊害も同時に言及されています。
たとえば砂漠一面にソーラーパネルを設置すればたしかに電力不足は解消できるかもしれないが、砂漠一帯の気温が少し変わることで、雲の形成や風の流れが変わってしまい、周囲の環境に深刻な弊害が出かねない、という指摘もあるようなのです。
そりゃそうですよね。人間が文化を発展させて環境を変えてきたのは、地球の歴史全体から見ればごく「短期間」な出来事ですが、こうした技術介入による問題解決は、それよりもさらに短期間で成果を上げようとするわけです。そのようなものに反動がないはずがありません。
地球環境はそれ自身で一つの圏を形成しており、しかもその内側にたくさんの圏があって、それぞれの相互作用によって全体の圏が影響を受けています。非常に複雑な(≒人間が理解するのが難しい)システムだと言えるでしょう。
そうしたシステムを、単純な介入によって問題解決することは、別の問題を生じさせる可能性があります。でもって、それは地球環境だけでなく、あらゆる「システム」について同じことが言えるのでしょう。
〜〜〜Q〜〜〜
さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。
Q. 最近使っているデジタルノートツールは何でしょうか?
では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は倉下の仕事術として「インボックス」の話の続きと、二つのエッセイをお送りします。
デイリーインボックスという選択
前回「インボックス」の重要性について書きました。
たまたま、Tak.さんの「アウトライナーライフ」でも同様のテーマが語られていたので、ご興味ある方はそちらもどうぞ。
◇ライフ・アウトライン実践1-7 DO-DAYSはインボックスでもある|Tak. (Word Piece)|note
今回は上の記事と似たようなお話をします。インボックス以外のインボックスについてです。
■日ごとのインボックス
インボックス(受信箱)は、情報をその中で一旦受け止めて、落ち着いて判断を下すための装置です。あるいは、そのようなワークフローを確立するための手段です。電子メールでははじめから受信箱が作られていますが、そうでない場所では自分で作らなければいけません。
では、どこにどうやって作るのか。それにはいくつかのバリエーションがあります。たとえば、Evernoteのノートブックに「inbox」といったものを作る方法。一般的な情報整理ツールなら、だいたいこの手法が使えますし、電子メールの受信箱のメタファーからすれば一番思いつきやすい方法でもあるでしょう。
しかし、別の方法もあります。それが「日ごとのインボックスを作る」というやり方です。今日が11月14日ならば11月14日用のインボックスを作り、11月15日になったら新しい箱を用意してそれを11月15日用とする。これを繰り返していくわけです。
本稿ではそのようなやり方を「デイリーインボックス方式」と呼びます。
■既存ツールでの運用
デイリーインボックス方式の運用に最適化されたツールもすでに存在しています。たとえば、クラウドで使える「Roam Research」や、ローカルで使える「Logseq」は、まさにその方式が中心となったツールです。
二つのツールはどちらも、「今日のページ」を作ります。2022年11月15日には、その日付のページを自動的に作り、翌日には2022年11月16日のページを自動的に作ります。単に作るだけでなく、ユーザーがその日にアプリを開いたら、そのページがHomeとして表示されます。常に「今日のページ」がホームポジションなのです。
このようなツールにおいては、だいたにして「その日発生した情報」は、その日のページに書き込まれることになります。もちろん、そうではない使い方もできますが、その場合はフォークを逆さまに持つような感触がするでしょう。ツールの自然なアフォーダンスに従えば、「その日発生した情報は、その日のページに書く」ことになります。
デイリーインボックス方式ではない、通常のインボックス方式(対比を強調するためにピュア・インボックス方式と呼びましょう)の場合、追加される場所は常に固定されています。電子メールの受信箱でも、Evernoteのノートブックでも同様です。何日経とうが、覗く箱は同じなのです。
一方で、デイリーインボックス方式の場合は、覗く箱が変わります。一日ごとに違った箱の中をチェックすることになるのです。
とは言え、注意してください。覗く箱そのものは違っていても、覗く「場所」は同じなのです。どういうことかと言えば、先ほど紹介したように「Roam Research」や「Logseq」では、その日のページがHome(あるいはTop)にきます。どの日に開いたとしても、アプリでは「その日のページ」が一番先頭に来るのです。つまり、相対的な位置は常に固定されているのです。
私たちの視線の流れや操作の流れを一つのパターンとして見た場合に、これらのツールでは「同じ位置」にそれぞれの「その日のページ」が表示されるのです。その意味で、箱そのものは流動的ですが、箱の場所は固定的だと言えるでしょう。
アナログでイメージすれば机の上に箱が置いてあって、次の日になったらその箱が右にズラされ、開いたスペースに当日の箱が新しく置かれる、といった感じです。視線を向けるべき場所がいつも同じになることがわかるでしょう。
その意味で、「Roam Research」や「Logseq」はデイリーインボックス方式に非常に向いたUIなっています。あちらこちらと場所が移り変わってしまうと「どこに目を向けるべきか」というヒントが失われてしまうので、箱の中身をチェックしなくなることを考えれば、こうしたUIは優秀だと言えるでしょう。
この点は重要なのでぜひ覚えておいてください。
■二つの方式の差異
では、ピュア・インボックス方式とデイリーインボックス方式は何が違うのでしょうか。実は、デジタルツールの場合、大きな違いはありません。ほとんど一緒と言ってもいいくらいです。
アナログの場合、箱が違えば、まったく違う場所に保存されたことになりますが、デジタルの場合は情報に越境性があります。
たとえばRoam ResearchやLogseqでは、すべての日付を串指して検索することができます。これは大きな箱に入っているのと同じことです。
逆に、電子メールの受信箱でも、もし日付ごとに区切り線が自動的に入るなら、大きな箱に仕切り板が入れられているのと同じような感覚になるでしょう。
結局はデータの見せ方(ビュー)の問題でしかありません。デジタルでは、別にどちらでも大差ないのです。
しかしながら、大差はなくても小差はあります。それがzero処理です。
■インボックス・ゼロの困難さ
仕事術において「インボックス」が注目されたのは、「得た情報をその場所で処理するのではなく、いったん置いておいて判断する」というプロセスが可能になるからですが、「判断」の億劫さが悪さをしてその処理がなかなか進まない問題も生まれました。
そこで出てきたのが「インボックス・ゼロ」という考え方です。受信箱を空っぽにしよう、という話なのですが、実際は「受信箱に案件を貯めて、そこをタスクリスト代わりにしないでおこう」というのがこのコンセプトが主張したいことです。
このコンセプトそのものは至極まっとうです。本来はそこに置かれたものを判断し、処理するための装置だったにも関わらず、未処理案件置き場として使われてしまえば「インボックス」というコンセプトそのものが崩れてしまいます。
だから一つの指針として、「できるだけその中身を処理しよう」と考えるのは悪くありません。むしろ必要なことです。
一方で、その指針が言葉通りに規範化されてしまい「インボックスに何かが残っているのは悪いことだ」となってしまうと問題が生じます。本来時間をかけて判断すべきものが、ざっとした判断で処理されてしまうのです。その事態もまた、本来期待されていたインボックスの役割を棄損してしまうでしょう。
さらに輪をかけて厄介なのが、「アイデア」です。アイデアと呼べる情報群と「インボックス・ゼロ」というコンセプトは非常に相性が悪いのです。
それについては次回検討しましょう。
(次回に続く)
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