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ツールを使う目的を持つ / NotionとCosenseで配信リストを作ってみる / もう一つのIT

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2024/07/29 第720号


はじめに

ポッドキャスト、配信されております。

◇第百五十六回:Tak.さんと考えるためのツールについて 作成者:うちあわせCast

今回は、最近使っている情報ツールについてお話しました。WorkflowyとEmacs(org-mode)は、それぞれ両方で使っていける感じがしております。

よろしければ、お聴きください。

〜〜〜はや20年〜〜〜

以下の記事を読んでちょっと驚きました。

◇Is GTD Still Relevant in 2024?. GTD became very popular in the years… | by FacileThings | Medium

デビット・アレンが『Getting Things Done』を著したのが2001年のことで、そこからもう20年以上も経っているのです。

上の記事では、2024年の現在でもGTDは有益である、という話が展開されていて、その点は私も同感ではあるのですが、私たちと情報の関係がややこしさを増している中で、GTDもまったく同じままでよいのか、という点は再考されるべきでしょう。

特に身近なガジェットがデジタル+スマートフォンの構成になり、またSlackなどのさまざまな情報源を並行的に使うことが求められるというややこしい環境において、いかにして高い能率性を維持するのかは新しい問題が含まれていますし、それ以上に「高い能率性を維持すること」の是非も問われなければならないでしょう。

もう一点面白かったのが、以下の指摘です。

>>
Interestingly, one of the groups in which GTD has been most successful is programmers, computer engineers and people related in some way to technology. The nature of all these jobs is to help people do more things with less effort, something that fits completely with the fundamentals of the methodology.
<<

ざっくり訳すると、GTDが効果を発揮していたグループは、プログラマーやコンピューター・エンジニアなど何かしらのテクのジーに関わる仕事をしている人々で、そうした人達は、より少ない労力でより多くのことを成し遂げることが本義としてある、というような話です。

たとえば、GTDなどのメソッドを駆使して、バリバリ作業を進めていた結果、周りをサポートする仕事が追加で割り振られるような環境の場合、燃えつき症候群を加速させることになりかねないのは自明です。

また、ただ一人が「高い生産性」を維持することで、周りの人からの反感や嫌悪感を買ってしまう、という状況も──日本企業であれば特に──容易に想像できてしまいます。

それぞれの人が割り振られた仕事に専念し、自分の作業をクリアしたらOK、という環境における「効率性」や「生産性」の追求と、そうではない環境における仕事のやり方は、一応切り分けて考えた方がいいのかもしれません。

そこまで含めて考えるのが、真なる「仕事術」なのでしょう。

〜〜〜事務メモ〜〜〜

これまで一度もやったことがなく、しかしこれからも繰り返し行う必要がありそうな事務作業をするときは、メモを取りながら進めるようにしています。事務処理とか何かしらの契約に関する作業とか、そういうものが多いです。

はっきり言って、めちゃくちゃウキウキで取り組んでいるわけではありません。面倒さは間違いなくあります。一方で、こうやって書いておけば、来年とか再来年とかの自分が「ああ、過去の自分が記録してくれておいてよかったな」と思うだろうというシミュレーションも立ち上がっています。

「今の自分」のためではなく、「未来の自分」のために記録する。

でもってこの図式に「未来の自分≒他人」という別の図式を当てはめれば、私がブログやCosenseなどにチマチマと記録を残していることも、同じように説明できそうです。

〜〜〜デジタルノート研究会〜〜〜

Substack でニュースレターを配信しております。

◇Rashita's Newsletter | 倉下忠憲@rashita2 | Substack

最初は活動報告として使っていたのですが、最近は読み物的な投稿もしています。特に一つのテーマで連載的に届ける文章が、このニュースレターという形式がフィットしているのではないかと推測しております。

で、Substackでも有料のサブスクリプションを設定できるので、思いついたままに「読み物」コンテンツを Paid Subscription 用に限定公開していたのですが、なんかちょっと違うよな〜と感じはじめて、そうしたコンテンツは「公開」に変更しました。

なにが「ちょっと違うのか」については改めて検討していきますが、この辺の問題は現状のWebで活動する人間にとって難しい課題を含んでいることだけは間違いありません。

というわけで、基本的な読み物は無料で公開、倉下の実践紹介については Paid Subscription 用に限定、という形でしばらくは進めていこうと思います。

さて、皆さんはいかがでしょうか。Webにおいて、有料のコンテンツはどの程度利用されているでしょうか。あるいは無料のコンテンツとの使い分けなどはありますでしょうか。よろしければ、倉下まで教えてください。

ではメルマガ本編をスタートしましょう。今回は、ツールとその目的、二つのツールの使用比較、そして「IT」という概念についてお送りします。

ツールを使う目的を持つ

さまざまな機能を備えている情報ツールは、便利な機能を提供してくれる嬉しさがあるわけですが、実はその手前に別の嬉しさも提供してくれています。

それは「自分が、何を、どんな目的で行おうとしているのか」という決定をしなくてもよいという嬉しさです。言い換えれば、目的が曖昧のままに使っていけるのです。

「なんだかよくわからないけども、ちょっと使ってみよう」

こういう動機づけでスタートが切れる。

実際、「自分が、何を、どんな目的で行おうとしているのか」を把握しようとするのは、けっこう"ダルい"作業です。辞書を引いても、ググっても「正解」が書いてあるわけではありません。自分の心が、自分の心に問いかける「自問」という非常に疲れることを行わなければなりません。

そうしたダルき門をくぐり抜けることなく、気楽に触れる。これは嬉しいことでしょう。

一方で、さまざまな機能を備えている情報ツールは、「自分が、何を、どんな目的で行おうとしているのか」を把握していないとうまく使えません。そりゃそうです。なにせ「うまく」使うことを定義するのが、その把握だからです。

「自分はAをしたいと思っている→Aができている→うまくいっている」

こういう構図でしょう。どれだけ操作が直感的でも、どれだけ作業が自動化できても、どれだけ圧倒的な量の情報が集まっても、自分がやりたいと思っていることが未達なら、それは「うまく」使えているとはいえません。

ツールをうまく使うためには、どうなったら「うまく」使えているのかを定義する必要がある。

自明なようですが、案外見逃されている事実です。特にツールを「使いこなす」という表現が使われているとき、その見逃しはいっそう強まっています。この表現には、目的感が欠如していて、むしろ動作・行為に注意が集まっているからです。

■〜〜として

たとえば、「弥生会計」というツール(これも情報ツールです)を導入するならば、何をしようとしているのかは自明でしょう。会計処理がスムーズに進んでいるならば、このツールを「うまく」使えていることになります。

一方で、EvernoteやNotion、Obsidianといったツールはどうでしょうか。これを弥生会計などのツールと同じように考えてはうまくいきません。これらのツールは汎用的な情報ツールであり、どのように使うのかはユーザー次第だからです。

・「ライフログとしてEvernoteを使う」
・「ナレッジベースとしてNotionを使う」
・「勉強ノートとしてObsidianを使う」

このような構図を立てることで、はじめてうまく使えているかどうかが判断できます。

ただし、「ライフログとして」といった表現が何を意味しているのかに注意を向けることがいっそう大切です。

会計処理は、かなりの部分法律的に定まったものがあり、それに準拠することが「正解」なわけですが、ライフログやナレッジベースなどにはそこまでの規定はありません。だから規定に沿うことではなく、自分なりの感触を言語化したもの(これを定義と呼びます)を、持っておくことが大切です。

「自分の日常に関する記述や写真を残しておき、必要に応じてそれを呼び出せるようにしておくこと」

こういう行為を自分がしたいと思っているならば、それが(自分の定義による)「ライフログ」であり、そのためにEvernoteを使う──こういう形ができあがっているのがグットな状態です。

一方で他の誰かが「これがライフログだ」と呼んでいるものを「正解」として、それに従うように使うことは、(当人にとっての)ライフログとは呼べません。

だから単純に名詞を先走らせるのではなく、そこにある情報を自分がどのように使いたいのか、というビジョンを描き、そこに名づけをしていく感覚が大切になってきます。

■お手本として

とは言えです。

情報を扱った経験がほとんどないならば、そのツールで何ができるのかをイメージすることすら難しいでしょう。そこは、他の人が「ほら、こうしているよ」という言説に触れる必要がある。学ぶ必要がある。

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