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適切な全体のサイズについて/電子書籍時代の新書的役割とは?/タスク管理における分類問題

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/03/08 第543号

○「はじめに」

毎度恒例、ポッドキャストが配信されております。

◇第六十二回:Tak.さんとアジャイル・ライティングについて by うちあわせCast | A podcast on Anchor

◇ブックカタリスト007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 - ブックカタリスト

うちあわせCastでは、以前このメルマガで書いた「アジャイル・ライティング」についてお話しました。文章の書き方も、そろそろ原稿用紙時代からアップデートされるべきでしょう。

よろしければお聴きください。

〜〜〜独学ラジオ〜〜〜

ゆうびんやさんの独学同好会通信にて、「独学ラジオ」というポッドキャストが配信されております。その第一回(実は第0回もあります)、にいつもうちあわせCastでお世話になっているTak.さんが出演されていました。

◇第1回(前半)「アウトライナーは文章を書いて考えるツール」(Tak.さん) - 独学同好会通信

◇第1回(後半)「アウトライナーで本の構造を体感する」(Tak.さん) - 独学同好会通信

◇第1回(ボーナストラック)Tak.さんへの質問コーナー - 独学同好会通信

普段うちあわせCastではあまり出てこないTak.さんのお話が聴けてたいへん面白かったです。というか、たぶんうちあわせCastで、私がしゃべりすぎているんですね(妻にも言われました)。

ともあれ、こういう私好みの話題を扱うポッドキャストが増えるのはとても嬉しいことです。

〜〜〜Notaのイベント〜〜〜

Scrapboxを展開しているNotaがオンラインのイベントを開催されるようです。3月9日から11日までの三日間、それぞれ19時からの開催です。

◇Nota Tech Conf 2021 Spring - connpass

少し前までは、Notaさんはよくイベントを開催されていたのですが、もちろん昨今ではそういうわけもいきません。ひさびさのイベント開催ということで、今から楽しみの風船が膨らんでおります。

〜〜〜かーそる第四号の足音〜〜〜

ええ、かーそる第四号。きちんと企画は生きています。ここ一年はコミットするプロジェクトを絞りに絞っていたのでずいぶん放置状態が続いていましたが、皆さんの原稿もほぼ揃い、あとは私──なんと編集長なのです──がそれらの原稿を按配していくだけです。

さすがにあと一ヶ月で発売、というのは難しいでしょうが、今年の上半期中には発売できそうです。今回も面白い原稿が集まっておりますのでご期待ください。

〜〜〜音声の振り返り〜〜〜

最近振り返りが大切だな、と感じています。振り返りというか、「読み返し」ですね。自分が過去に書いたものを読み返すこと。時間が経ったのちに、再確認すること。そうした行為によって、過去の自分の考えが、今の自分の元で再編(ないしは統合)されていくような感覚があります。もちろん、そうした振り返りが起点となって、過去原稿をまとめる本作りを進めようという心積もりもあります。

しかしながらやっかいなのがポッドキャストです。書いた文章は「速読」できますが、ポッドキャストはなかなかそうはいきません。しかも、何の因果か私がやっているポッドキャストは致命的に時間が長いので(最低一時間)、聞き返すにしても膨大な時間がかかります。
*もちろん自業自得です。

すでに60回を超えているうちあわせCastも、飛び上がるくらい面白い話があり、本としてまとめる価値は十分にあると思うのですが、もはやどの回で何を話したのかの断片的な記憶すら残っていません。この状態から「編集」をスタートするのは無理です。要素がわからないので、どんな軸でまとめたらよいのかというアイデアすら浮かんできません。

なので、自分がポッドキャストで話したことを、適当にランダムに10分程度切りとって、それをタイムラインに流してくれたり、あるいは環境音として流してくれたりしたら、たいへん素晴らしいのですが、そういう需要を持つ人は、めちゃくちゃ限られているので、実現は難しいでしょう。

自分で音声ファイルを加工して、プログラムを組めばなんとかなるかもしれませんが、そんな時間があるならば……という感じが強くしますね。

〜〜〜いつもの一年の振り返り〜〜〜

確定申告の季節です。今年は締め切りが一ヶ月延長されているので、「まあ、余裕じゃん」と夏休みの宿題を抱えた小学生みたいに気楽に構えていたら、もうあと一ヶ月で締め切りです。さすがにこれ以上余裕をこいていると、4月の頭くらいにやばいことになっていそうなので、いよいよ取りかかることにしました。

といっても、ここ1〜2ヶ月は書籍原稿にかかりっきりになっており、かつ「一日の仕事量を増やしすぎないようにする」という目標を抱えていたので、やろうと思ってもそのための時間的スペースがなかった状況がありました。開き直るわけではありませんが、「できなくても、しゃーないよね」という状態だったわけです。

もちろん、毎月きちんと経費を処理しておけば、申告書の作成なんてちゃちゃっと終わるのですが、去年は「何よりも復調を第一とする」がモットーだったので、あらゆる細かい作業を「一時停止」にしておりました。この判断は悪くなかったと思います。

とは言え、そろそろ再生ボタンを押すタイミングです。今年に申告書を提出する分を進めつつ、来年用にコツコツ経費整理を進められる体制を整えたいと思います。

という話はさておき、やはり一年の経費を振り返るのは面白いですね。私の経費の大半は書籍代なのですが、2020年の1月はほぼその出費がなく、そこからひと月経つごとに明らかに出費が増えていき、12月くらいは、「お前こんなに本を買って読めるのかよ」とセルフツッコミしたくなる量になっていました。

元気になっている、一つのデータではあるでしょう。

〜〜〜コミュニケーションの基本〜〜〜

人と人が交流するときに、以下のことができるとその交流がとても良いものになります。

・率直に質問する
・気兼ねなく相談する
・物おじせずに意見を述べる
・楽しく笑う

「それって何ですか?」と聞いてみること。「すいません手伝っていただけませんか」と要請すること。「それはちょっと違うんじゃないかと僕は思います」と発言すること。そして、馬鹿にするのではなく楽しいことで笑うこと。

ある種の「配慮」が強すぎるとき、上記のような交流を妨げます。でもって、それはとてももったいないことです。上記のようなやりとりが開ける扉は少なくありません。

もちろんこれらは、「相手への最低限の敬意を持った上で」という前提があります。遠慮をしないことと、横暴であることはまったく別のことですので、その点は忘れないようにしたいものです。

〜〜〜今読んでいる本〜〜〜

今読んでいる本を三冊紹介します。

『うまくいっている人の考え方 完全版』(ジェリー・ミンチントン)

名前だけは知っているけども一度も読んだことがない系の書籍だったので、改めて読んでみることにしました。現状までの感想は「めっちゃライトな『七つの習慣』」です。

『大人のADHD ――もっとも身近な発達障害』(岩波明)

ADHDは昨今よく話題に上がっていますし、個人的にも興味があるので入門として新書を読んでみることにしました。ただ、序盤でいろいろデータが示されていて、それはとても大切なことだとは思うのですが、入門者にとってはわりと辛さが多いです。はたして読み進められるのか。

『ヒューマン・ネットワーク 人づきあいの経済学』(マシュー・O・ジャクソン)

私は「やじるし」(二つのオブジェクトの間にある関係や影響の構造と形状のシンボル表現)が好きなので、「ネットワーク」という概念も大好物です。最近は、情報をネットワーク構造で管理するという話題もよく扱っているので、ネットワーク論の面白そうな書籍は手に取るようにしています。次回のうちあわせCastで取り上げる予定なので、なるべく優先的に読み進めていきます。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 『たったこれだけで人生が変わるhogehogeの魔法』。hogehogeに入れるとしたら、どんな言葉を選びますか。

では、メルマガ本編を始めましょう。

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○「適切な全体のサイズについて」

Gyazo、Scrapboxを開発・提供しているNota株式会社が5億円の資金調達に成功した、というニュースを見かけました。

◇検索型FAQ SaaS「Helpfeel」を提供するNotaが5億円を調達。問い合わせ数を削減しセルフサービスセンターを業界標準に|Nota Inc.のプレスリリース

記事では、「検索型FAQ SaaS「Helpfeel」」というNotaが提供するもう一つのサービスが見出しとして使われています。Helpfeelとは何でしょうか。以下の記事を読むと、その概要が少し掴めます。

◇“日本の非効率なカスタマーサポートをUIで変える”Nota株式会社 CEO 洛西 一周さん|YJキャピタル株式会社|note

Helpfeelの公式サイトは以下です。

◇Helpfeel - どんな質問にも答えられる本当に役に立つFAQシステム

実際にHelpfeelが使われている企業サイトはこちら。

◇くらしのマーケット よくある質問
https://faq.curama.jp/

ページ上部に入力欄があるので、こういうサイトで使われそうな用語(たとえば、キャンセルとか出店とか)を入れてみると、その使い勝手が実地的に理解できるでしょう。

・入力欄に言葉を入れる
・言葉を入力している最中に(つまりリターンキーを押すまでもなく)候補のページタイトルが表示される
・ページをクリックすると重要な語句がリンクになっており、関連ページも表示される
・語句のリンクは、その語句を含む他のページの一覧にジャンプする

上記の体験を総合的に表現すると、「Scrapbox的」となります。Scrapboxの、あの使い勝手の良いシステムをそのまま顧客向けのFAQ(Frequently Asked Questions)サイトに展開できるのがHelpfeelというわけです。

これはまあ、すごい便利だろうなと思い、一体その何が便利なのだろうかと考えたのが、本稿の立ち上がりです。

■ユーザーというもの

まず、「ユーザー」について考えましょう。この場合の「ユーザー」とは、商品やサービスを利用する人といった意味です。たまに利用者であるにも関わらず開発者ばりに詳しい人もいますが、そういうマニアックな人はいったん横においておき、単に商品やサービスを利用する人としてユーザーをイメージします。

そのユーザーが、何か困ったことがあってヘルプサイトを訪れたとしましょう。問題を解決することを欲してサイトを訪問したわけです。その際に、ユーザーが求めているものと、サービス提供者がユーザーに要求できるものはなんでしょうか。とりあえず、その中身が何であれ、そのサイズはとても小さいものになるでしょう。

たとえば、紙に印刷された取り扱い説明書があり、それを読めば問題が解決するとします。しかし、その取り扱い説明書の内容を理解するためには、全体の構造を先に理解しなければいけないとします。そのようなヘルプ設計は適切といえるでしょうか。もちろんNoです。

ユーザーが求めているのは取り扱い説明書の全体を理解することではありません。目の前の問題を解決したいことなのです。そのために、いちいち取り扱い説明書の全体の理解を求めるのは、かなりハードモードな設計と言えるでしょう。

■必要なだけの全体性

一方で、あらゆる全体性が否定されるかというと、そこまでの極端さはありません。すべてがバラバラに存在していると、効率性やセレンディピティが殺がれてしまいます。

たとえば、最近購入した新しいカーステの機能について調べたくなったとします。BluetoothでiPhoneとカーステを接続して、音楽を流したり電話したりできるらしいので、まずはBluetoothの接続方法を知りたい、といったシチュエーションです。

その場合、一番端的な解決はBluetoothの接続方法だけを知ることですが、そうではないパターンもあります。

たとえば、ボリュームのつまみを押し込むとファンクションのメニューが表示され、その中にBT settings的な項目があるので、それを選んでさらにつまみをプッシュするとBluetooth関係の設定メニューが表示されるので、そこでiPhoneのBluetooth設定からカーステと接続してうんぬん、という手順があったとします。

そして、上記の操作を説明を読みながら進めていくと、「Bluetooth接続の具体的な方法」以外の情報が手に入ることがわかります。まず、つまみのプッシュが「決定ボタン」として機能していること。そして、つまみを回すことがパソコンのカーソル移動に相当すること。この二つです。当然これは、他の操作においても適用できる基本的な知識となります。

また、Bluetooth周りの他の設定項目がBT settingsのメニューに存在していることもわかります。もしBluetoothの接続をオフにしたり、あるいは別のものに切り替えたくなったら、取り扱い説明書を読まずとも、その当りの設定項目を探せばなんとかなるだろう、というあたりがつけられるわけです。

つまり、説明書のその部分を読むことで、Bluetoothの設定に関するある体系だった(≒ミクロな全体像を持つ)情報を得られるわけです。単に結果そのものにアクセスするだけでなく、周辺情報も同時に入手できていることになります。

■部分的な全体

上記のように、たとえ部分的であっても、その部分に関する「全体像」を手に入れておくことは有益です。なぜならBluetoothを使っている人は、Bluetoothの他の情報を必要とする可能性が極めて高いからです。一方で、ユーザーはカーステの他の設定や操作方法を理解したいとは思っていません。その意味での全体的な知識はないのです。そして、その状態でまったく問題ありません。

ユーザーが問題解決のために欲する情報は、全体ではなく、自分が求めている情報を含む最小の構造であり(正規表現で言うと「?」をつける感じ)、その構造にある関連性だけです。そうした情報を得るだけで、自分で問題を解決できますし、他の類する情報にもアプローチできるようになるのです。

これで十分と言えば、十分でしょう。

■部分的で利用できるヘルプサイトを敷延すると?

もし、ヘルプサイトが、

「ユーザーがページの全体を理解していて、どこに何があるのかを完全に把握できていないと求める情報にアクセスできない」

という形で設計されているならば、それは役目を果たすことは期待できないでしょう。

同様に、

「ユーザーが自分が求めている説明に使われているキーワードを、一字一句間違えずに言語化できないと求める情報にアクセスできない」

というのでもやはり機能不全になりそうです。

良きヘルプサイトとは、上記のような状態になっていないものを指すのだと考えられます。

では、上記の話を敷延するとどうなるでしょうか。ヘルプサイト以外に拡張してみるのです。

たとえば、知識やノウハウを伝える、という場面に。

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