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おかえりなさいEvernote

先日、iOS版のEvernoteがアップデートしました。

メジャーアップデートにふさわしい内容で、UI全体が刷新されています。動作もなかなか快適で、これまでの使い心地と比べると、天と地ほどの差があります。7万6000ものノートを保存してしまっている私であっても、「まあ、使えそう」という感じが持てるのが好感触です。

しかし、それはあくまで表面的な話です。個人的には、今回のアップデート内容そのものよりも、Evernoteが目指している方向がはっきりしてきたことを嬉しく思います。

一つには、Web版のEvernoteとUI・操作感が統一されたことです。Web版とiOS版が統一されるのですから、今後はその他のOS版でも同様の統一が進んでいくのでしょう。バラバラだった操作感が一体になっていくということです。

これまではOSごとに使い勝手や機能が異なっており、同じEvernoteを使っているといっても、そのユーザー体験はバラバラでした。それではユーザー同士の情報共有も進みませんし、それ以上にEvernoteが何を目指しているのかも曖昧としていました。それが変わりつつある、ということです。

UIのデザインは価値観の表れであり、方向性を示すものです。どこにどんな機能をおき、どのように見せるかは、開発者側の「ツールをこう使って欲しい」というメッセージを示すものなのです。少なくとも、良くできたデザインはそうなっているはずです。

統一したUIに向かって進んでいく、ということは、Evernoteが進むべき道を見つけたということでしょう。まずは、その点を言祝げると思います。どのような道であっても、迷走しているよりは、前に向かって進んでいく方が良いものです。

それだけではありません。もう一つには、今回のメジャーアップデートでは、大きな機能追加はなかった、ということです。この点は、さらに評価できます。

ごく普通に考えれば、目新しい機能の追加とアプリケーションのコアの改善であれば、前者の方がニュースバリューがあります。つまり話題になります。経営者としては、そうしたバリューを集めてなんとか企業価値(ようするに時価総額)を上げたいと望むものでしょう。

その点、アプリケーションのコアの改善は短期的にはまったく効いてきません。ニュースバリューは低いものです(その点は、今回のバージョンアップを紹介しているブログ記事の多寡で確認できるでしょう)。

しかし、真にこのアプリケーションを前進させるには、どこかのタイミングでコアの改善は実施されなければなりません。散らばりすぎた機能は、その管理コストを増大させることは、私も小さなアプリケーションを自分で書いているのでよくわかります。細かい機能のつぎ足しではなく、Evernoteをバージョンアップさせていくためには、いったんこれまでの成果をまとめて整理する必要があるのです。

言い換えれば、今回のバージョンアップはこれから5年、10年を見据えた施策と言えるでしょう。そういう「地味な」施策に経営資源を集中させる選択をしたCEOには、個人的な敬意を覚えます。なかなかできる判断ではありません。

Evernoteならではの強み

とりあえず、これまで浮き沈みのあったEvernoteではありますが、完全に沈没することはなく、今までやってこれました。その点は、まずすごいことだと思います。そして、これからの方向性が見えてきたことで、もっとシャープにEvernoteのバージョンアップは進んでいくことでしょう。

なんだかんだいって、私も長くEvernoteを使っていますし、いまだにプレミアムユーザーであり続けています。単なる惰性というのもあるかもしれませんが、やはりEvernoteの使い勝手は良いものなのです。

最近はさまざまなノートツールがライバルとして登場していますが、そうしたツールとEvernoteとの最大の違いはユーザーでしょう。10年近くそのツールに情報を保存してきた経験を持つユーザーをこれだけ大量に抱えているノートツールはどこにもありません。


また、忘れてはならないのがベータ版プログラムにご参加くださったテスターの皆様の存在です。世界中から 114,000 名を超える皆様にご参加いただき、貴重なフィードバックや評価を頂戴しました。

10年以上一つのツールに情報を蓄え続けてきた結果、10年前には想像もできなかったような課題が発生しています。そうした体験は、間違いなくこれからデジタルツールを使い始め、使い続けるユーザーにとって有益な情報になるでしょうし、Evernoteはその知見を織り込んでツールを開発していけるのです。この強力さは、どれだけ強調しても足りるものではないでしょう。

目新しい機能はたしかに便利であり、心躍るものではあります。しかし、ノートツールにおいてもっとも重要なのは、長期的に情報を保存していけることです。そして、その上で快適に使える環境です。それが欠けていれば、どれだけ便利であっても、その利用は短期的に終わってしまうでしょう。

その意味でも、Evernoteは、いや「これからのEvernote」には期待が持てます。きっとユーザーはこれからも新しい機能がバンバン追加されることを望むでしょう。しかし、フォードの箴言のように、それらに耳を傾けつつも、「Evernoteかくあるべし」という道を進んでもらいたいところです。

おかえりなさい、Evernote。これからもよろしくお願いします。

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