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Scrapboxとカード法 デジタルノートエクスプレスvol.4

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/05/24 第554号

○「はじめに」

ポッドキャスト、配信されております。

◇第七十回:Tak.さんとiPadとアナログについて by うちあわせCast | A podcast on Anchor

◇BC012アフターショー - ブックカタリスト

iPad Airを購入したので、うちあわせCastではその辺のお話をしました。ブックカタリストは、Tak.さん回のアフタートークです。

ちなみに、iPadというかApple Pencil 2はとてもよいです。少々お値段が張るだけの価値が感じられます。

〜〜〜ネクストステップ〜〜〜

着手している出版企画案の初稿が送信できたことで、切り替えのタイミングがやってきました。

もう新しく大量に書き下ろすことはないので、執筆のために使っていたもろもろの「素材」を片づけられるようになったのです。

もちろん、まだ脱稿したわけではないので置いておいてもよいのですが、ちょうど次の本のお話も頂いているので、切り替えるタイミングだと判断しました。

で、まっさきに取りかかったのが「情報カードボックス」の整理です。

机の上に5×3サイズのカードが入るボックスを設置していて(妻によるDIY作品)、そこに各章の執筆に入る前に書き出したカードを保存していたのですが、その中身をまるっと処分しました。

どこかの巨大なキャビネットに移動させるのでもなく、すべてを撮影してデジタル化するのでもなく、Go to ゴミ箱という大胆な処理です。

いささかもったいないように思えますが(紙資源の無駄遣いではありますね)、そこに集められた情報的マテリアルは本の中で使われているので、カードそのものを保存しておく必要はありません。参照したいなら本を(あるいは原稿データを)引っ張り出せばよいのです。

というわけで、カード群はゴミ箱に直行したわけですが、それでも一応捨てる前に頭からパラパラと読み返してみると、かなりの枚数の「未使用」が見つかりました。書こうと思っていたけども、原稿には残らなかった素材たちです。

そうしたもののうち、まだ有用性がありそうなカード群(約20枚)だけはピックアップしておきました。でもって、単にピックアップするだけでなく、後から「処理」を施す予定です。具体的には、次の本に使ったり、Scrapboxに転記したりといった処理を行うわけです。

保存されていたのが、完璧な情報カード(つまり豆論文的カード)であるならば、単に新しい箱に移し替えれば済むのですが、今回使ったのは「この本で使う」という文脈の上で書かれたカードでした。だから、そのまま箱を移し替えただけでは利用できません。書き直す必要があります。

逆に言えば、そうしたカード箱の移動を経てもなお同じように利用できるカードの書き方が「豆論文的」ということです。

こうしたことは『知的生産の技術』でも言及されている話ではあるのですが、自分で一通りやってみることで、それを実感として理解できるようになりつつあります。

〜〜〜WorkFlowyへのプラグイン〜〜〜

最近、WorkFlowyを「ハック」するのがマイブームです。

◇WorkFlowyで選択項目をトップに移動するブックマークレット - 倉下忠憲の発想工房

◇WorkFlowyで親項目を閉じるショートカットキーを追加するブックマークレット - 倉下忠憲の発想工房

どちらも、特定の操作を行うためのショートカットキーを追加できるブックマークレットです。

あくまで個人的な用途ですが、似たようなことをやりたい方は多いかもしれませんので、ご参考になれば幸いです。

でもって、WorkFlowyが使っているコマンドを解析し、それを自分用途にアレンジして使おうと試みていると、「ああ、これがコンピューティングだな」という感じが強くしてきます。むしろ、パーソナルなコンピュータとはこのように扱えるべきなのだとすら感じます。

もちろん、上記のような「ハック」が可能なのは、WorkFlowyの開発者がコードをきちんと整備しているからです。コードがとっちらかっていたり、コマンドを関数にまとめていなければ、とても外部者が利用できるものではありません。

そうしたコード整備の目的は、開発者が自分の開発を進めやすいようにするためです。しかし、結果的にそうした整備が開発者以外の人たちにもWorkFlowyを「ハック」しやすくしてくれています。それが「ひらいている」ということなのだと、個人的には思います。

〜〜〜インフォメーション〜〜〜

まだ確定はしていませんが、私が大きなヘマをしない限りは、新刊は7月の後半に発売となりそうです。フォーマットは新書で、電子書籍も発売になるようです(ぱちぱちぱち)。

題材は「ノート」で、これまで自分が書いてきたのとは一風違った本になりました。でもって、すごく面白いです。

追加で情報がわかり次第お知らせしていきますが、とりあえずは乞うご期待、ということで、よろしくお願いいたします。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. プロジェクトを切り替えるタイミングで行うことは何かありますか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回はデジタルノートエクスプレスのvol.4として、Scrapboxについて書いてみます。

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○「Scrapboxとカード法 デジタルノートエクスプレスvol.4」

前回は、WorkFlowyが「動き」のある情報の置き場所として最適であると確認しました。情報を構造下に配置するだけでなく、構造そのものを変化させていけるWorkFlowyはまさにactiveな情報を扱うにふさわしい機能を持っています。

それらを踏まえてこれまでの話をまとめると、

「動きがないもの」→アーカイブツール(たとえばEvernote)
「動きがあるもの」→アウトライナー(たとえばWorkFlowy)

という対比が作れます。

もちろん、この二つで終わりではありません。これに加えて、「動き続けるもの」の扱いが問題となります。

今回はその問題を検討しましょう。

■ネバーエンディング

「動きのある情報」で想定していたのは、「はじまりとおわりがある」情報でした。ある期間にスタートし、一定の期間が過ぎるか、目標が達成できたときに、「もう、それについては今後は考えなくてよい」という状態に至れるものです。

前回考えた「プロジェクト」は、まさにそのようなものです。執筆にせよ、模様替えにせよ、転職にせよ、試験勉強にせよ、中期的な期間を使ってある状態に達するための活動であり、そのプロセスを追いかけていけるところに、構造的柔軟さを持つアウトライナーが役立ちます。

また、「おわり」があるからこそ、「もう、この情報はここに置いておかなくてもよいな」という判断が可能となります。WorkFlowyなら削除するなりエクスポートするなりして、Homeから消してしまう。Dynalistなら「archive」指定をして日常の検索から見えなくしてしまう。そうした判断は、プロジェクトに「おわり」があるからこそ可能なものでしょう。

逆に言えば、その対象に「おわり」がないならば、アウトライナー上には情報がただただ蓄積していくことになります。それは、前回確認したようにアウトライナー向きの情報傾向ではありません。むしろ、アーカイブに近いと言えるでしょう。

ただし、アーカイブでは「おわった」ものが保存され、人は日々何かをおわらせているので、そこに情報が蓄積されるわけですが、「動き続けるもの」はおわりがないゆえに一つの場所に情報が増え続けていきます。

両者は、単純な情報増加のグラフを見ればよく似ているでしょうが、しかし性質的に異なっている点には注意が必要です。その違いに気がつかずに、手つきを同じにしてしまうと、うまくいかなくなります。

■両方の性質をもつ

上記の話をまとめておきましょう。

・「動き続ける」情報は、「動く」という点においてアクティブな情報と同じ性質を持つ
・「動き続ける」情報は、「続ける」という点においてアーカイブな情報と同じ性質を持つ

上記のどちらかだけに注目すると、その情報を扱うのが得意なツールを選択したくなりますが、結局中途半端な結果にならざるを得ません。アウトライナーでは情報量が肥大化し、ノートツールでは情報の動きが阻害されるのです。

だからこそ、第三のツールに注目する必要があります。それがリンクノートツールであり、その代表格であるScrapboxです。

Scrapboxは、これまでに出てきたツールと似通っていながらも大きく異なった機能を有しています。そしてそれが、「動き続ける」情報を扱うのに適しているのです。

■Scrapboxとは

この連載では、基本的にツールの解説はすっ飛ばして話を高速道路的に進めていますが、一応確認しておきましょう。

Scrapboxは、Nota株式会社が提供する情報整理ツールです。

◇Nota
https://notainc.com/ja/home

◇Scrapbox - チームのための新しい共有ノート
https://scrapbox.io/product?lang=ja

NotaのWebサイトにはScrapboxの説明として、"チームのための新しい共有ノート。あらゆる情報を整理することができる。画期的な知識共有サービス"と書かれていますが、この説明だけでこのツールのすごさが伝わるのかどうかは自信がありません。

Evernoteに浸かりきりだった人間にとってWorkFlowyはほとんど異端とも呼べる衝撃を与えるツールでしたが、Scrapboxはより大きい異端的衝撃がありました。パソコンを使うならばお馴染みの「階層構造」を使った情報整理を採用していないからです。

「新しい車が生まれました。この車はなんとブレーキがありません」

と言われたくらいの衝撃がそこにはあります。

だって、考えてもみてください。情報を階層構造下におかず、ただ保存するままに任せておくなんて、「整理」できるわけないじゃないですか。まるで買ってきたものをどんどん押し入れに入れっぱなしにしているようなものです。だいたい、私たちはそうしてWebクリップを無放任に保存してきた結果、どうにもならない状態になったんですよ、という気持ちが湧いてきます。

しかしそれは、未来のテクノロジーで作られた車を恐れるのと同じような気持ちです。ごく簡単に言えば、「慣れていないから、怖い」だけなのです。しかしこれは自然な反応でしょう。これまであたり前に必要だと思っていたものから急に解放されると怖くなってきます。不安になってきます。

でも、Scrapboxを使っていればわかります。階層構造下にぎちぎちに配置しなくても、情報を「整理」することはできるのだ、と。

ただし、「デジタルなら」という条件はつきますが。

■情報の整理の手つき

情報を「整理」することについては、『Scrapbox情報整理術』で論じてありますので、ここで詳細に立ち入ることはしません。簡単にいえば、整理の目的とは「使える」ようにすることであり、置き場所を決めたりするのはまさに使えるようにするためなのだが、別段それだけが唯一の方法ではない、といったことを理解していただければ十分です。

では、なぜ置き場所を決めることが「使える」ことにつながるのかと言えば、「使う」ためにはそれを見つけ出す必要があるからです。あたり前の話ですが、これが「整理」のスタートになります。

Evernoteでは、まずノートブックという大きな分類を作り、その中にノートを保存していきます。このノートは順番は固定されておらず、任意の条件で並び替えることができる反面、自分でノートの配置を決定することはできません。

一方で、アウトライナーでは、ノートブックのような整理の単位があらかじめ決定されておらず、そのときどきの自分の判断で整理の構造を作ることができます。そしてその構造は、Evernoteとは逆で任意の順番を設定するしかありません。保存したら時系列で自動的にソートされるといったことはなく、並び替えることには自分の意志が介在しています。言い換えれば、意志がないところでは順番の変化は起こりません。

これは特に難しい話ではありませんね。

では、それぞれのツールの「整理」がどうなっているのかを、もう一段深く確認していきましょう。

■in Evernote

Evernoteで情報を使うために取り出す場合、まずノートブックを選び、その中から目視で探すか、ないしはその中身を検索することで情報を見つけます。

ノートの数が万を超えたら(もっと早い段階かもしれませんが)Evernote全体を検索することはまずありません。少なくともファーストステップでそれをすることはないでしょう。まず、ノートブックでおおまかな絞り込み(位置の特定)を行い、その中からさらに絞り込んでお目当ての情報を見つけ出す、というプロセスになります。

このEvernoteにおいて、ノートブックリストは極めて固定的なリストになっています。そうそう容易く順番は動かず、アルファベット順にノートブック名が固定されています。だから、私たちはその「場所」をすぐに覚えます。

たとえば、「inboxは上のほうにあって、scrapは真ん中にあって、備忘録は一番下にある」ということは、暗記しようとしなくてもすぐに手が(あるいは目が)覚えるでしょう。最初の大きな絞り込みが、そのような身体的な直感で行えるのは、きわめて便利です。ノートブックの正式名称を覚えておく必要すらなく、場所と名前のうろ覚えだけで最初の絞り込みが達成できるのです。

このことが、Evernoteにおいてノートブックを束ねる「スタック」という機能を使い、ノートブックの数を大量に増やすと急激に扱いにくさが増える理由にもなっています。数が増えることで短期記憶の限界を超えるだけでなく、ノートブックがスタックの下に入って「見えなく」なると、目が覚えなくなるのです。

そうなると、最初の絞り込みに時間がかかるようになります。心理的な距離が開くには十分な理由でしょう。

一応、ノートブックリストを使わずに、検索から"notebook:inbox"のように絞り込みを行うこともできるのですが、これは正式な名称と完全に一致している必要があり、ノートブックの数が増えたら無理が多くなります。

ちなみに、Evernoteの10からは、この問題が解消されています。検索で「book」と文字列を入力すると、「book_shelf」というノートブックがサジェストされるので、そこから絞り込んでいけるのです(ちなみにshelfの入力でも出てきます)。これであれば、位置を把握できていなくても、名前を完全に覚えていなくても、ノートブックを使っていけます。

上記の変化は大きなインパクトを持つと思うのですが、多くのEvernoteユーザーが、そうしたサジェストなしで使えるようにノートブック環境を構築しているので、あまり有り難がられている様子はありません。ちょっと残念です。

ともかくとして、Evernoteでは最初にノートブックという大分類で情報を絞り込み、その後、目視・キーワードやタグによる検索を使って、さらに絞り込むことで「目当ての情報」を見つけ出す探索ルートになっています。

■in アウトライナー

一方アウトライナーでは、どうでしょうか。Dynalistの場合はEvernoteとほぼ同じなので割愛するとして、ファイル/フォルダ分けをしないWorkFlowyにおいても、大きな違いはありません。

結局は、Home直下の項目から「目的の情報を含むであろう」大項目を探し、後はその下に潜っていく、という探索ルートをとることになります。むしろ、そうした探索が可能なように構造を作るのが一般的ですらあるでしょう(DoMAはちょっと違うのですが話が逸れるのでここでは省略します)。

では、探している項目がどの大項目に置いてあるのかがわからなくなってしまったら、どうするのでしょうか。もちろん検索です。Evernoteも、目当ての情報が所属しているであろうノートブックが不明な場合は──非効率的であることを承知しつつも──すべてのノートからの検索を行いますが、WorkFlowyでも同じです。キーワードで検索して、検索結果の中から目視で探すのです。

そうなのです。そこで行われる検索は、構造に対して超越的なのです。そこにどんな構造が構築されていようとも、それを無視して全体から情報を抽出すること。それがここで行われる検索です。

この検索の力強さこそがデジタルツールの特徴であり、だからこそデジタルツールでは無茶な使い方も可能になります。どれほど情報が要求する構造と違ったものがそこにあっても「まあ、検索すれば見つかるし」が実現できてしまうのです。これがデジタルの強力さです。

(下につづく)

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