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第八回:アイデアの「整理」はいかに行うか その2

前回は「アイデア」のうち、ネタと呼びうるものの整理について検討した。漠然とした思いつきのうち、「使い先」が見えているものはそれを集めるための場所(ネタ帳)を作っておき、そこに保管する。ただし、それを「タスク」と同じように扱わないほうがいい。でないと、どんどん精神的苦痛が積み上がってしまう。こういう話であった。

今回は、ネタ以外の「アイデア」について検討しよう。

やりたいこと

「アイデア」と呼びうるもののうち、飛び抜けて扱いが難しいのが「やりたいこと」である。あるいは「やりたいことに関する思いつき」である。

たとえば、散歩していて急に「こういうメモアプリ作ったらいいんじゃね?」と思いついたとする。これをどう「整理」したらいいのか。

一見するとこれは「ネタ帳案件」に思える。アプリ開発という「使い先」があるのだから、そのための「ネタ帳」を作り、保存しておけばいいのではないか、と。

しかし、私はアプリ開発者ではないし、アプリ開発者になろうともしていない。日常に「アプリ開発」というアクションはまったく存在しないのだ。よって、その「ネタ帳」は永遠に参照されることはない。単にそのように「分類」して保存されたまま、永遠とわなる眠りにつくことになる。アーメン。

逆に言えば、それは「ネタ帳」ではない、ということだ。

ネタ帳の「使い先」とはイマジナリーなものではない。実際に自分がそれを「使う」というシチュエーションからの逆算が成立するものが「使い先」である。そうした「使う」がきちんと確保されているとき、「使い先」が確定できる。これが単純な「分類」との違いだ。

「使い先」がないのにネタ帳を作ってもたいして意味がない。細く分類していけばいくほど、それは役割をはたせなくなる。だから、逆のアプローチを採る。そうしたものは細く分類せずに、一緒くたにまとめておく。そうすることで、微かでもメモとの「邂逅可能性」(meetable)を上げるのだ。

「でも、そんな整理で大丈夫なの。ぜんぜん利用できないかもしれないじゃん」と思われたかもしれない。まさにその通りだ。そんな一緒くたな管理では、ろくに利用はできない。で、それは別段構わないのだ。だって、それらは「使い先」を持ちえていない情報なのだから。

究極的に言えば、そうした情報群は一切失われてしまっても、あなたの日常を圧迫することはない。不都合は何も起こらない。そのように位置づけられるものが、つまりは「アイデア」なわけだ。

逆に言おう。「アイデア」以外の情報は適切に整理され、利用できるようにスタンバイされていることが肝要だ。だからこそ、「アイデア」はそこまでの整備は不要である。なくても困らないものがアイデアだからだ。

そのような「アイデア」と他の情報群と同じように管理しようとしたら、当然のように無理がやってくる。数も多いし、用途も不明であり、使うタイミングすら不確実だ。それらを「管理」できると思うだろうか。イナゴの大群を誘導するくらいに難しいに違いない。

だから、こうした「アイデア」は別段無理して「活用」しようとしなくていい。もちろん、保存し、参照できるようにし、何かしらに役立てられることを目指しはするが、"十全な活用"ははじめから諦めた方がいい。使えたらラッキー、くらいの感覚で十分である。

まとめておき、そこに記入する

そうした保存(一緒くたの保存)の際に重要なのが、メモを「送らない」ということである。どういうことだろうか。

メモ帳であれば切りとるタイプのメモに書いて、そのまま「箱」に入れておく。あるいはデジタルならばメモの入力画面が即座に立ち上がって、そのままメモを書いて終わりにする、というタイプのものが多い。これは入力に関してはきわめて快適であるが、そのままだとそうしたメモはほぼ「埋葬」されたことになる。メモを「送った」だけで終わりになっている、ということだ。

そうではなく、一緒くたにまとめているその場所に「書き込み」にいくのだ。書き込みにいくと、過去の書き込みが目に触れる。そうして「あっ、そういえば」と思い出し、かつてのアイデアを現状の状況で再検討することになる。もしかしたら、そのときちょっとアプリ開発をはじめちゃっているかもしれない。そうしたらメモアプリのアイデアは「ネタ帳」へと移動することになるだろう。

こうした「一手間」をかけることによって、埋葬されがちなアイデアメモを発掘することができる。逆に、効率的にメモを処理してしまうと、それらのメモはそのまま沈黙する。ここが分水嶺である。

手書きならまとめてある場所に直接書くか、あるいは別の場所に書いたものを書き写す。デジタルでも直接入力するか、最低限コピペして文面を整える。そういう「手間」をかけることによって、過去のメモが目に触れる可能性が生まれる。

細く分類してしまうと、こうした書き込み作業そのものが煩雑化するし、普段思いつかないジャンルのものはほとんど目に触れなくもなってしまう。だから一緒くたにしておくのだ。

さいごに

環境によって、実装のされ方はさまざまに考えられるだろう。別にどういう実装でも構わない。デジタルでもアナログでも、自分に合った方法を選択すればいい。

とにかく、細く分類しようとはしないこと、新しいものを書き込むときに古いものが目に触れるようにすること、そして「すべてを十全に活用する」という気持ちを捨てること。それが肝要である。

これでだいたいの「アイデア」との付き合い方は確認したわけだが、最後に一つだけ特殊なものが残っている。それは次回検討しよう。

(つづく)

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