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Textboxについて 内装編

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/11/15 第579号

○「はじめに」

デイブ・ワイナーが開発している Drummer というツールを最近触っています。Webブラウザから使えるアウトライナーで、それ以外にもさまざまな機能を持っています。非常に面白いツールです。

残念ながら日本語での情報が存在しておらず今後拡充されることも期待できないので、自分でScrapboxのプロジェクトも作ってみました。

で、このDrummerの面白い機能の一つに「項目をツイートできる」機能があります。Dummer上の項目を、ボタン一つでTweetできる便利機能です。

耳にした話によると、一度アウトライナーで文章を整えてからツイートする、という方もおられるようで、そういう方にとってはいちいちコピペしなくてもよくなるのでたいへん嬉しい機能でしょう。

それだけでなく、たとえば日々のメモや考え事をアウトライナー内で行い、その一部を切り出してツイートする、という使い方もできます。そうした運用であれば、ツイートした「考え事」を後から操作・編集することも容易です。

私は毎週一度、自分のツイートを読み返して、有用そうなものをコピペして別の場所に移す、という情報運用を行っているのですが、Drummerを自分の本拠地(home)にすれば、そのようなコピペの手間からは解放されます。ツイートしたものを並び替え、構成し、何らかの文章にすることも、ずっとスムーズにできるようになるでしょう。

デイブ・ワイナーが見据えているのもそうした環境なのだと思います。Drummerを自分の思考home/baseにし、そこで考えを発展させながら、その「外」に出られるようにすること。Twitterやブログに投稿できたり、現在整備されているGitHubと連携できるようにすること。こういう内外の接続の意図が、Drummerからは感じられます。

実際にDrummerを今後も使っていくかどうかは別にして、こうした「野心」を持つツールを触っていると、実にドキドキしてきます。「道具」が未来を変えていくのだ、という強い思いが感じられます。

たしかに「道具」にはそうした力があるでしょう。でもってソフトウェアは、先達の成果をうまく活用することで、少人数であっても、「力ある道具」を自分たちの手で作り出すことができます。

それが、パーソナル・コンピューティングのコアになる考え方なのだと個人的には思います。

〜〜〜紙の手帳への憧れ〜〜〜

いろいろ考えたあげく、来年は紙の手帳を買わないでおこうと決心したのですが、そうはいっても折りに触れて「ちょっと手帳があったほうがいいかもしれないな」という思いがふつふつと湧き上がってきます。不思議なものです。

おそらくは、私が欲しているのは「普段作業している場所とは違う場所で何か自分のための書き込みをする」という行為なのでしょう。パソコンでも、タブレットでも、スマートフォンでも、何かしら「自分の仕事」に関わる情報や道具があります。それとちょっと距離を置きたい瞬間があり、その瞬間に「紙の手帳」を欲するのだと推測します。

私はかなりアクティビティホリックな傾向があって、落ち着いてゆっくりすることが苦手です。"TODO蛇口"なるものがあるとしたら、それが極めてがゆるゆるで、あっという間にタスクを抱え、ありとあらゆる時間を「作業」で埋めようとしてしまいます。

それはたしかに充足感があるのですが、疲れることも間違いありません。そういう「アクティビティオン」のスイッチをオフにしてくれるようなツール/環境を求めているのだと思います。

もしそうだとしたら、別に「手帳」である必要はないのでしょう。普段使うツールとは別のツールを使うだけで、だいたいは充足されそうな気がします。

もちろん、そのツールを普段使うツールと「同期」させない、というのが最低限の条件ですが。

〜〜〜いかにプロジェクトを進めるのか〜〜〜

タスク管理についてもう一つ。こちらも憧れのお話です。

料理屋さんにいくと、お客さんのオーダーを書き留めた注文メモをボードなどに貼り付けて、それを一つひとつ順番に片づけていく「タスク管理」の風景を目にします。そういう「処理」にずいぶんと憧れを感じていました。付箋を使ったタスク管理なんかも、その延長線上にあると思います。

こうしたやり方は、一見するとカンバン式と似ているように思いますが、実体は違います。カンバン式はタスクの状態を管理しながら、並行で作業を進めることを可能にする方法であり、注文書貼り付け方式は「次はこれ、その次はこれ」と明確にリニアな順番を決定する方法です。後者は「ただやるだけ」という状態になり、その順序(ステップ)を注文書によって表現しているだけです。乱暴に言えば「単純」なのです(その代わり、調理師の頭の中では複雑な処理が行われているのでしょう)。

こういうテキパキしたやり方は本当に恰好良く感じられます。物書きでいえば、締め切り日に合わせた適切な書き物の順番を制定し、その通りに進めて行くやり方になるでしょう。いかにも「大人」な進め方です。

しかしながら、このやり方は、「書きたいことを書きたいときに書く」というコンセプトとは致命的に相性が悪くなります。自分が書きたいかどうかは二の次で、今必要な原稿を書いていくのですから、まったく反対です。

でもって、私は「書きたいことを書きたいときに書く」というコンセプトにも憧れを感じます。むしろ「そうすべきだ」とすら思います。

以上のように、私はねじれた欲求を持っています。これを「単純な方法」で解消することはできないでしょう。たぶん、それを、つまり自分がねじれた欲求を持っていることを理解しているだけでも、ずいぶんと「欲求不満」は変わってくると想像します。

〜〜〜わかったことにしない〜〜〜

つい先日、現在進行中企画の「アウトライン」ができました。あるいは「できた」という感覚が生まれました。

とは言え、その感覚が生まれる前にも、執筆作業は進めていたのです。「目次案」っぽいものを作り、それに合わせて冒頭部分の原稿も書いていました。それを何度も書き直したりもしていました。

その何度目かとなる書き直し作業をしているときに、「いや、やっぱりなんか違うな」と思い至り、全体のコンセプトを再構成し始めたのです。その「再構成」すら二、三度目の作業です。

全体的に、非常に回りくどいことをやっていると言えるでしょう。しかし、焦りの気持ちもなければ、行き詰まっている感覚もありません。なぜなら、最初から「自分はまだこの原稿のことがわかっていない」とわかっていたからです。

だから最初に作ったのは、「目次案」ではなく「目次案っぽい」ものでした。名前がそうというのではなく、自分の意識の中で「これはまだ"目次案"には至っていないものなのだ」という感覚があった、ということです。書き進めていた原稿も「初稿」などではなく、「プロトタイプ稿」と呼んでいました。感触を確かめるための原稿、という位置づけです。

自分が進めている作業について、そうした「未完」のイメージを持っていたので、別段焦りもせず、また書き直すことを厭うこともありませんでした。ある意味で「想定内」だったわけです。

もちろん、そんな回りくどいことをせずに、最初にばしっとアウトラインを決めて、それに沿って書いていくのがベストでしょう。が、結局どうあがいてもそうはらないのだし、そうなってはいけないのだと最近は考えるようになりました。途中で変わっていいし、なんなら変わったほうがいい。だったら、はじめから「途中で変わるつもり」で進めていく。そんな気持ちの変転があったのです。

ここで重要なのは、自分の感覚を誤魔化さないことです。自分の中ではっきり「できた」という感覚がないのに、何かしらの制約によってそれを「できた」と思い込んでしまうこと。そういう誤魔化しは、ほとんど確実に後々の自分に厄災を連れてきます。

後で大幅なつじつま合わせが必要になったり、あるいは時間がとれずに不十分な原稿を決定稿にしてしまったり、といった「出来事」が生じてしまうのです。職業的物書きとしては是非とも避けたい出来事でしょう。

「できていない」ならば、できていないなりに進めること。腕を組んで頭をひねるだけでなく、少しでもいいから文章を書いてみること。その中で「自分が書きたいこと/書こうとしていること」をすくい上げようとすること。

そのような「直接的進捗」でも「完全な静止」でもない狭間の状態で手を動かすことが必要なんじゃないかと最近は考えています。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 仕事を進める上での「憧れ」のようなものを何かお持ちでしょうか。

では、メルマガ本編をはじめましょう。今回はTextboxについての第三回で、どんな情報をそこに保存しているのかを紹介します。

○「Textboxについて 内装編」

前回と前々回で、Textboxの「外側」について紹介しました。今回は、いよいよその「中身」について紹介しています。私がどんなファイルをTextboxに作っているのか。その実際例です。

■ファイル一覧

現時点(2021年11月14日)で、「Textbox」フォルダ内の「list」フォルダには、82個のmdファイルが入っています。二ヶ月ほどの使用でこの量なのですが、多いのか少ないのかはまだわかりません。

 #tips  #Macのターミナルで以下のコマンドを叩けばcurrentなフォルダ内のファイルの数がわかります

ls -1 | wc -l

では、どんなファイルが含まれているかというと、以下のようなファイルが含まれています(lsの結果)。

・20210726.『すべてはノートからはじまる』応募企画で頂いたコメント.md
・202109buybooklist.md
・20211018.大学授業一歩前の原稿.md
・2021年10月に買った本.md
・2021年10月に読んだ本.md
・2021年10月のあとで読む.md
・2021年10月のカレンダー.md
・2021年11月に買った本.md
・2021年11月のカレンダー.md
・2021年8月に買った本.md
・2021年9月に買った本.md
・2021年9月に読んだ本.md
・2021年の購入本リスト.mdBoard.mdHotTex.mdHotText.mdNLの販促をどうするか.mdTextfield.mdTwiiter的生活(仮).mdWorkFlowyのデビッド・アレンの記事.mdhelp.mdpickupArticle.mdproject-th.mdreadme.mdrefarencebooklist.mdsearch.mdtemp.mdtextbox-systemの構築.mdyet.md
・『TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになる』.md
・年表.md
・願い.md
・論文PDF.md
・引用集.md
・断片集.md
・旧鉱山.md
・断片集2019.md
・参考文献.md
・今日のメモ.md
・図書リスト.md
・カレンダー.md
・中公新書目録.md
・今週やること.md
・小倉百人一首.md
・気になるメモ.md
・アイデアメモ.md
・アルコール履歴.md
・ブックマーク.md
・ブログ運営.md
・ページ呼出.md
・マネジメント.md
・ラノベログ.md
・幸福論?(仮).md
・漫画ヒストリー.md
・お気に入りの記事.md
・エッセイ単発ネタ.md
・映画観たいリスト.md
・気になっている本.md
・主夫エッセイ(仮).md
・気になっていること.md
・物書きの一年(仮).md
・ショートショートネタ.md
・ツイートノートまとめ.md
・モンテスキューの名言.md
・人文的実用書に向けて.md
・教え方・伝え方・表現.md
・ゆっくりするときリスト.md
・中公新書目録元データ.md
・思考法・問題解決(仮).md
・掃除のときに気にしたい.md
・読書メモ作りたいリスト.md
・『書物と貨幣の五千年史』(集英社新書).md
・すべノー公式読本(仮).md
・不調の君に送る手紙(仮).md
・夫婦に関するエッセイ(仮).md
・時間があるときにやること.md
・現代における知的生産の技術.md
・覚えておきたい映画のリスト.md
・ウィンストン・チャーチルの名言.md
・『メメント』から考える記憶と記録.md
・ブログの書き方・続け方(仮).md
・『すべてはノートからはじまる』の売り場写真.md

上記のようなファイル群が、一切のフォルダ分けなく保存されています。実に乱雑ですが、Textbox上ではまったく問題ありません。ボタンとリンクで、うまくオーガナイズできています。

ちなみに命名規則を眺めてみると、

・頭にタイムスタンプがついたもの
・頭に年月がついたもの
・英単語になっているもの
・ごく普通の日本語のタイトル
・『』付きの書籍名
・接頭語に(仮)がついた企画案

あたりがあることがわかります。しかし、これはあらかじめ決めたものではありません。単に、なんとなくこうなった、というだけです。"命名規則"とすら呼べないかもしれません。

この点が、Textboxの良いところです。大きな情報構造を作り、その中に情報を保存していく場合は、名前と配置にずいぶん気を遣う必要があります。それが崩れると、情報を見つけ出せなくなるからです。一方で、Textboxでは、別段どういう名前がついていても構いません。その名前のボタン=リンクがあればそれでいいのです。

だから、10月は「2021年10月に買った本.md」だったものが、11月には「2021年11月買った本.md」になっていても、ぜんぜん構いません。少なくとも構造的破綻が訪れることはありません。ただ、リンクを作るときに名前が揃っているとコピペで楽に作れるから、結果的に名前が揃っている、というだけです。

その他のファイル名も、同じです。なんとなく名前をつけて、その具合がよかったものは引き続き同種のファイルに同種の名前付けを行う。そのようにしてボトムアップ的に「仲間」(近しいファイル群)ができてくるのが、Textboxです。

■5つのタイプ

せっかくファイル一覧をお見せしたので、それぞれのファイルが具体的にどういう情報を、どのように管理しているのかをお伝えしたいところですが、さすがに82個もあるので紙面が足りません。そこで、抽象的なモデルを提示し、それについての説明を簡単に行います。

まず、Textboxに含まれるファイル(以降ノートと呼びます)は、おおむね以下の五つのタイプに分類できます。

・utility note(機能を持ったノート)
・reference note(リンクを集めたノート)
・org note(自己管理のためのノート)
・list note(リストのノート)
・flat note(普通のテキストのノート)

それぞれについて見ていきましょう。

(下に続く)

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