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『TAKE NOTES!』を読む その3 / 最近の倉下のレビューシステム

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2022/04/18 第601号

「はじめに」

ポッドキャスト、配信されております。

◇BC035 『情動はこうして作られる』 - by goryugo - ブックカタリスト

今回はごりゅごさんのターンで、『情動はこうして作られる』というかなり分厚めの本を紹介していただきました。

〜〜〜Logseq〜〜〜

最近、「Logseq」というツールに関心を持っています。

◇Logseq: A privacy-first, open-source knowledge base
https://logseq.com/

簡単に言えば、「ローカル環境で使えるRoam Research」であり、「アウトライナー機能をメインにしたObsidian」です。

もう少し説明すると、

・クラウドではなくローカル環境にファイルを保存し
・mdファイルを用い
・tabでのインデントなどのアウトライン機能を実装した
・ネットワーク型ノートテイキングアプリ

となります。

現状私がメインで使っているScrapboxとWorkFlowyに機能が重複しているので、本環境として使うことは当分なさそうですが、それでも「いざ」というときの選択肢として魅力ある候補となっています。

ちなみに、Logseqは「タスク」の扱いがorg-modeの思想を引き継いでいて非常に柔軟です。個人的にはそこが高評価のポイントです。

〜〜〜メタ・ノウハウ〜〜〜

情報化社会の定義は判然としませんが、それでも現代の私たちが圧倒的な「ノウハウ」に囲まれていることは間違いないでしょう。

50年くらい前であれば、個人が触れられる「ノウハウ」はごく身近な人に限られていたと思います。料理であれば、生まれた家の方法か、あるいは嫁ぎ先(別に女性に限定しているわけではありませんが、とりあえず)の家の方法。これくらいだったでしょう。「料理教室」「料理本」「料理YouTube動画」といったものは無縁か極小で、たいていは「身近なノウハウ」が伝承されるにまかされていたでしょう。

そうした「身近なノウハウ」は、生活や文化のレベルが近しいことが多く、自分の人生においても有用性がある程度は担保されていたと想像できます。

一方で、現代のノウハウはそのようなレベル揃えがまったくありません。非常に多彩で、非常に雑多です。

加えて、私たちの人生が「個性的」で「多様」になっている点もあります。一般的な(ジェネラルな)ノウハウが、自分にも通用するかはまったくわかりません。

その意味で、現代で必要なのは「個々人に合わせたノウハウの開発」なのでしょう。理想的なことを言えば、トレーナーについてもらって、アドバイスを受けながら、少しずつ開発していくのがベストです。しかしながら、そこまで余裕のある人は多くないでしょう。

そうなると、「ノウハウ情報とのつきあい方」というノウハウが必要となります。メタ・ノウハウです。

この「メタ・ノウハウ」は真剣に考える必要があるテーマだと、最近思っています。

〜〜〜仕事のサイズ感〜〜〜

今書き進めている本では、章のサイズがいつもよりも小さめです。

だいたいいつもは一章2万字程度で、それが五〜六個集まって全体を構成しているのですが、今回は一つの章が5000〜7000字のサイズになっています。

最初のうちはそのサイズ感に慣れずに、執筆にてこずっていたのですが、最近は少しずつ書けるようになってきました。よかった、よかった。

それに加えて、サイズが小さいことで「取り回し」がやりやすいことに気がつきました。2万字の内容を一覧し、制御し、展望するのは認知的に結構疲れますが、5000字ならばそうたいした作業ではありません(あくまで比較して、という話です)。

そして、「そうたいした作業ではない」と感じていると、細かい時間でもとりかかろうという気持ちになります。使用する脳内のメモリサイズが小さいので、15分くらいでもちょっとやってみるか、という意欲が立ち上がりやすいのです。

逆に言うと、一章2万字のときは、かなり「よっこらしょ」という気持ちで作業に取り掛かっていたような気がします。それに比べれば、現状はずいぶん気楽です。

もちろん、この気楽さが良い結果をもたらすのかどうかは、今はまだわかりませんが。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりでも考えてみてください。

Q. 文章を書き始めるときに考えていることは何でしょうか。あるいは書いているときはどうでしょうか。

では、メルマガ本編をスタートします。今回は「『TAKE NOTES!』を読む」続きと最近の倉下の「レビュー」についてお送りします。

「『TAKE NOTES!』を読む その3」

前回に引き続き、ズンク・アーレンスの『TAKE NOTES!』を読んでいきます。

・「考える」ためには書くことが必要
・完成品をゼロから作るのは無謀
・日々の材料集めが大切
・では、どうやってそれを行うか

今回は四つ目、最後の項目です。

■ツェッテルカステン改め

ここまで検討してきた内容を踏まえた上で、「じゃあ、どういう〈書く〉を実践していけばいいのか」として紹介されるのが、「ツェッテルカステン」です。ドイツ語ではZettelkastenと書きます。

なかなか格好良い響きの言葉なのですが、キーボードで入力するのが面倒なので、ここでは別の名前で省略することにしましょう。Zettelkastenは「カードボックス」という意味であり、原著ではslip-boxと呼ばれているので、「slip-box法」と呼称することにします。

■道具とプロセス

さて、そのslip-box法は、道具とプロセスの二軸を持ちます。複数の道具を、一つのプロセスのもとで使用していく、というイメージです。これはGTDを思い浮かべればよいでしょう。GTDでは、さまざまなリストを、一つのプロセスのもとで運用していきますが、slip-box法も同様です。道具をバラバラに運用するのではなく、包括的なプロセスのもとで運用すること。これが著者の考える「情報システム」の胆でもあります。

ではまず、道具からいきましょう。大きく3つの「箱」(slip-box)があります。

・文献管理用のslip-box
・メインのslip-box
・プロジェクト用のslip-box

すべての箱がslipを入れるために使われるのですから、共通要素は約分しておきましょう。

・文献管理box
・メインbox
・プロジェクトbox

ずいぶんすっきりしましたね。それぞれを見ていきます。

■文献管理box

読んだ本や論文の「書誌情報」を扱うための箱です。書誌情報に加えて、その本のどの部分に、何が書いてあったのかのメモを書き残すこともあります。いわば自分用の本の「索引」です。

全般的に、この箱で管理されるのは「自分の頭の外」の情報だと捉えておいてよいでしょう。

■メインbox

文献管理boxが「自分の頭の外」の情報だとすれば、この箱は「自分の頭の中」の情報を保存する道具となります。

具体的には後述しますが、自分の考えを短くまとめた文章がこの箱に保存されます。いわば「知的生産」の本拠地となる装置です。

■プロジェクトbox

上の二つの箱が、「通時」的な道具だとすると、この箱は「時限」的な道具です。特定のプロジェクト(たとえば書籍の執筆)に関する情報を入れておくための箱です。いわゆる「タスクフォース」的な存在で、プロジェクト実施期間中は稼働し、それが終了したら解散するというアドホックな運用になります。

■メモ、ノート、カード

上記三つの箱を運用していくわけですが、当然箱なので、その中に何かを入れることになります。それは何か。

ここに翻訳的な難しさがあります。『TAKE NOTES!』ではそれは「メモ」と呼ばれています。以下に列挙してみましょう。

・走り書きメモ
・永久保存版のメモ
・文献メモ
・索引のメモ
・プロジェクトのメモ

一方で、原著ではこれらは「notes」となっています。

・fleeting notes
・permanent notes
・literature notes
・index notes(具体的な名前は出てこないが名付けるとこうなる)
・project notes

原著が「notes」で統一されているので、日本語訳も「メモ」で統一したのでしょうが、この二つの言葉はまったく同じではありません。もう少し言うと、日本語の「メモ」よりも、英語の「notes」の方が指し示す範囲が広い感覚があります。だから、英語でnotesとは言えても、日本語でメモと言ってしまうと、不都合が起きかねないのです。

具体的には「永久保存版のメモ」です。一般的にメモとは、「永久保存しないもの」というニュアンスがあるのではないでしょうか。日本語の場合は、永久保存するものはノート、ないしはカードと呼ぶのが適切だと感じます。

もちろん、本来永久保存しないメモを「永久保存」と呼ぶことでトリッキーな印象を作り出そうとしている可能性もありますが、実際は「メモ」と「notes」の範囲に違いがあることによる翻訳のズレなのでしょう。

そもそも「永久保存版のメモ」という言い方そのものが、あまりしっくりきません。口に出しずらいのです。当然、そういう呼称は使われにくいでしょう。「よし、今日は永久保存版のメモを作ろう」などと言いたくなるでしょうか。あまりにも長すぎます。

とは言え、語義としてはまったく問題ありません。permanentは、「永続する、(半)永久的な、耐久の、常置の、終身の」という意味ですし(Magic The Gatheringプレイヤーならおなじみの単語ですね)、permanent notesはまさに「永久保存版のメモ」を意味します。

さて、どうしましょうか。

梅棹忠夫はこの違いに敏感でした。彼はノートとカードの違いに加えて、メモとカードの違いにも言及していました。先ほどの列挙を梅棹風に言い直せば以下のようになるでしょう。

・(走り書き)メモ
・カード
・文献カード
・索引カード
・プロジェクトのメモ

一時的なものがメモであり、何かしらの形で保存され、長期間残っていくものがカード。こういう仕分けです。

とりあえず、どういう表現(単語)を選ぶにせよ、ここには二つの区分が存在している点が重要です。すなわち、「短期で使い捨てられる情報」と「長期に保存される情報」の二つです。GTDでは、これを「inbox」と「各種リスト」という形で仕分けしました。その他の情報整理システムでもおそらく同様でしょう。

『TAKE NOTES!』の場合は、すべてを「メモ」として統一し、そこに具体的な性質名を付与することで、どのような扱いをすればいいのかをわかりやすく提示していると考えられます。その分、呼称が長くなったわけです。

一方で梅棹は、もともとその単語が持っている語感を活かす形でそれぞれに別の名前を与えています。おかげで短い呼び方が可能ですが、語感が統一されずに、どのように利用されるのかがそれぞれのコンテキスト次第、というデメリットを持ちます。
*たとえば私は情報カードとこざねの違いが最初はうまく理解できていませんでした。

いまのところ、うまい解決は思い浮かびません。トレードオフになっているので、どちらの長所を採用するのかを決める必要があります。というわけで、呼称問題はさておきそれぞれの道具の具体的な中身を先にみていきましょう。

■走り書きメモ/fleeting notes

名前の通り走り書きのメモです。思いついたことをざっと書き留めておくものです。基本的には、「処理」待ちの情報で、処理されたらお役ごめんとなります。まさしく「メモ」です。

■永久保存版のメモ/permanent notes

上記が使い捨てのメモであるならば、こちらは保存・蓄積されるメモです。梅棹で言うところの「カード」が相当します。

梅棹のカードが「豆論文」といって、短くてもしっかりとした文章を書くことを指向していたのと同じく、永久保存版のメモも他の人が読める程度のまとまった文章を書くことが要請されます。

なぜかと言えば、長期保存されるメモは、時間が経った後の自分(つまり未来の自分)が読み返すからです。そのときに、完全な文章になっていないと意味がとれません。それを避けるために文章化しておくのです。

つまり、流れとしてはこうです。

・まず、走り書きメモを書き留める
・そのメモを参照しながらしっかりとした文章で永久保存版のメモを書く

これがslip-box法の基本となります。

また、永久保存版のメモを書くときは、それまでの自分の考えと何か関連性がないだろうかと思いを巡らせることが重要だと説かれています。「それまでの自分の考え」は、すでに書かれてメインboxに保存されているわけですから、その箱の中身との関連性を探ることになります。

■文献メモ/literature notes

文献メモは二つの役割を持ちます。一つは、読んだ本や論文の書誌情報を保存すること。もう一つは、その中身で自分が参照したい(あるいは重要だと思った)箇所の場所を書き込んでおくことです。たとえば、「産業革命については、p.145」などと書くわけですね。

後者の書き込みは、自分用の索引でもありますし、「永久保存版のメモ」の手がかりでもあります。つまり、本を読み終えた後に、その索引を手がかりにして本のページを再度開き、内容を振り返りながら自分の考えを「永久保存版のメモ」にまとめる、というわけです。

逆に言えば、上記のような索引は、「これについては後で永久保存版のメモを書こう」と思った対象のみを残す、ということです。むしろ、slip-box法では、メインboxをすべての着想の到着点とし、いかにそこに向かって情報/着想を流し込んでいけるのかにアプローチが最適化されていると言ってもよいでしょう。

前述したように、文献メモは文献管理boxに保存され、文献メモから生成された「永久保存版のメモ」はメインのボックスに保存されます。

■索引メモ/index notes

上記で、本の(自分用の)索引を作りましたが、ここでの索引は少し意味が違っています。本や論文の索引ではなく、「これまでの自分の考え」の索引を作るのです。つまり、メインboxの中に入っているメモたちの索引です。

slip-box法では、永久保存版のメモにナンバーを振ります。その番号を参照しながら、自分の考えを整理していくのです。たとえば、「知的生産の技術の流れについては、メモ101,103,110.120」などと書くわけです。

もし後になって、「知的生産の技術の流れ」に関して振り返りたくなったなら、そのカードを取り出して、記述してあるメモを引っ張り出して読み返せばOKなわけです。

先ほど、永久保存版のメモを作成するときは、「それまでの自分の考えと何か関連性がないだろうかと思いを巡らせること」が重要だと書きましたが、そうした思いを巡らせていると、「ああ、あれとこれとそれが同じ文脈だな」と気付けることがあるので、それもメモしておくのがこのタイプのメモです。つまり、メモに関してのメモということで、メタ・メモと呼ぶこともできるでしょう。

当然このメモもメインのboxに保存されます。

■プロジェクトのメモ/project notes

特定のプロジェクトに関するメモです。具体的には以下のようなものが含まれます。

・リマインダー
・プロジェクトの構成
・プロジェクトの原稿
・ToDoリスト
・そのプロジェクトだけのメモ
・永久保存版のメモから内容を変えたもの

基本的にはタスク管理の話になるので、内容は割愛します。もし、永久保存版のメモで使いたいものがある場合は、別にメモを作りプロジェクトボックスに入れることになります。

■全体的な流れ

以上がslip-box法のプロセスと道具になります。全体をもう一度確認しておきましょう。まず、用意するのは二つの箱です。

・メインbox
・文献管理box

これらは基本的にずっと使うことになります。対して、特定のプロジェクトを進めるときに使う「箱」もあります。ややこしいので、箱と区別して「フォルダ」と呼ぶことにしましょう。

・プロジェクト用フォルダ

こちらはプロジェクトが達成されたら解散することになります。

つまり、

・メインbox
・文献管理box
・プロジェクト用フォルダ

この2+αがslip-box法のベースです。

(下につづく)

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