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業務日誌を書く / AmazonからopenBDを引くブックマークレット4 / 新書について

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2022/09/17 第623号

「はじめに」

ポッドキャスト、配信されております。

◇BC046「オープンさと知的好奇心」 | ブックカタリスト

今回は、「オープンさと知的好奇心」というテーマを掲げて、倉下が二冊の本を紹介しました。どちらも面白い本なのでチェックしてみてください。

〜〜〜読書会〜〜〜

ブックカタリスト主催の読書会が行われました。テーマは拙著『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』です。

◇2022年9月16日『すべてはノートからはじまる』読書会 | BCBookReadingCircle

発売してから一年以上経つので、自分の中ではずいぶん懐かしい感じがありました。何を書いたのか、具体的には覚えていないことも多数あります。

それでも、読者さんからの感想を聞くと「ああ、たしかにそういうこと書いていた」と思い出せます。脳は、iCloud Driveと同じように直近必要性が低い記憶を一旦「外」に追いやっているのでしょう。なかなか面白いものです。

また、皆さんの感想を聞きながら、あらためて「自分が書いたことは、そういうことだったのか」を理解が深まった部分もたくさんありました。

この本は「ノートとのつきあい方」を教えるノウハウ本ではあるのですが、それに加えて「ノウハウとどう付きあうのか」を提示するメタ・ノウハウ本でもあります。

これくらいノウハウ情報があふれ返る現代だからこそ、そうした「メタ・ノウハウ」の重要性も上がっているのかもしれません。

〜〜〜「無理している」のサイン〜〜〜

先日、「スーパー銭湯にでも行きたいな」とふと思いました。そして、気がつきました。ここ一週間で似たようなことを何回か思ったな、と。

ポイントは、「スーパー銭湯にでも」の「でも」の部分です。この言葉遣いからわかるのは、是が非でもスーパー銭湯に行きたい気持ちがわるわけではない、ということです。そうではなく、単に仕事=日常から乖離できる「どこか」に行きたい、という気持ちなのでしょう。

それに気がついた後、振り返ってみると、たしかに仕事を詰め込みすぎていました。タスク総数が多かったというよりも、「考えなければならないこと」をせっせこ自分で増やしていた、という感じです。

「考えなければならないこと」があると、脳の一部は常にそれに注意を払うので、リソースが減ってしまいます。そうしたものがどんどん増えていくと、ますます脳のリソースが圧迫されて……みたいな状況に陥ってしまうのです。

とりあえず、それに気がついた時点で「考えなければならないこと」の新規募集は一旦停止しました。水道の栓を閉じたわけです。

その次に、すでに溜まっている「考えなければならないこと」を、実際に考えていく作業が待っています。それまだ十分に終わっていませんが、とりあえず目の前の原稿作業を一旦お休みして、そうしたことを考えていこう、という気持ちは高まっています。

なんにせよ、「自分が無理している」ということは、直接的な体感ではまずわかりません。むしろ、その無理から生じる余波を捉えることが精一杯でしょう。

私の場合は、「スーパー銭湯にでも行きたいな」という漠然とした離脱意識が出てきたときが要注意のサインでした。こうしたサインをいくつか持っておくと、ブレーキをかけやすくなるのではないかと思います。

〜〜〜読了本〜〜〜

以下の本を読み終えました。

『脳の地図を書き換える: 神経科学の冒険』(デイヴィッド・イーグルマン)

デイヴィッド・イーグルマンの本はどれも面白く(『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』『あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎 』)、今回も期待して読んだのですが、期待通りでした。

脳が変化していくその様子を「ライブワイヤード」と名付け、私たちの「脳」観を気持ちよくアップデートしてくれる一冊です。

いかに脳が変化に対応していけるのか。その素晴らしさを語りながらも、「変化していけない部分もある」と至極当然の話が語られています。その二つの差を見極めるためには、「脳がどう変化しているのか」を学ぶ必要があります。

単に変化していることではなく、どのように変化しているのかを知れば、私たち一人ひとりがどのような可能性を持つのかが明らかになるでしょう。

ストア哲学には「自分で対処できることには注意を払い、そうでないことは気にしない」というマインドセットがありますが、脳の性質を知ることは、その線引きの解像度を上げることにもつながるでしょう。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 疲れの予兆みたいなものをお持ちでしょうか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、倉下のタスク管理の続きと、二つのエッセイをお送りします。

「業務日誌を書く」

一日の「やること」はデイリーのリストで管理する、という話を前回までで書いてきました。

そうしたリストはあくまで「リスト」なので、長々と書くことはしません。追記などが後からあったとしても、基本的には一行に収まるように書きます。

そうすることで、俯瞰性を確保できるのがポイントです。ぱっと見て、何をやったのか、何が残っているのかがわかる。その「一目でわかる感」を維持するためには長々とは書いていられません。リストは、そうしたときに役立ちます。

一方で、それだけでは情報不足は否めません。それを補うのが今回紹介する業務日誌です。

■倉下の業務日誌

「業務日誌」と言っても、たいしたものではありません。テキストファイルにやったこと・考えたことを書いているだけです。私はフリーランスなのでその日誌を誰かに提出することもありません。基本的には、自分のための記録です。

一方で、その業務日誌は、noteのメンバーシップやPixivFanboxで共有もしています。他の誰かが見る(かもしれない)前提で書いているのです。

よって業務日誌の文章は、ラフでありながらも、一応「文章」の体裁が整っています。フレーズや単語を書き留めて終わり、ということはありません。

この点がけっこう重要で、他の人が読んでもわかるように書くと、未来の自分が読んでもわかるようになります。また、説明するように書くと、自分でも理解が深まります。「他人のため」と「自分のため」が重なり合うのが、この「共有する自分だけの業務日誌」なわけです。

■記録の重みづけ

業務日誌は、業務に関する記録を残すものですが、すべての作業に対してまんべんなく記録を残すことはありません。

単純作業なら、何も書かずリストにチェックをつけて終わりにします。毎週繰り返すような作業は、こうなることがけっこう多いです。

一方で、新しいことに挑戦すると、だいたいトラブルが起こります。そうしたとき、どういうトラブルがあって、どんな風に対処したのかを書き留めます。

作業しながら、新しいアイデアがひらめいたときも、それを記録します。どんなことがあり、どんなことを考えたのか、どんな結果が予想されるか、といったことを書き留めるのです。

紙ツールを使っていたときは、そうした詳細な記録を「デイリー」に残すのは難しいものがありました。紙面サイズに制約があったからです。

デジタルツールを使うようになり、そうした制約から解放されて、書こうと思えばいくらでも書けるようになりました。その反面、あまりに長く書きすぎると全体の見通しが悪くなります。そこで役立つのが「リスト」です。

全体を一望できるリストと、細かい記述が残っている業務日誌。この二つがセットになったことで、デジタルベースの記録がうまく回るようになりました。

(注:アウトライナー論に引きつけて言えば、リストがアウトラインで、日誌部分が本文に相当するでしょう)

■業務日誌の書き方

業務日誌の書き方は、きわめて単純です。

まず、時間帯ごとに見出しを作ります。マークダウンの##の記法(H2相当)を使い、時間で区切ります。

次に、「プロジェクト」の名前を、###hoge:という形で記述します。

あとは、その下に「やろうと思うこと、やったこと、考えたこと」を書いていきます。

https://i.gyazo.com/a1e40d5f7956d4c6615a6b8bf3321c2c.png

この日誌は、日記的でもあるので、買った本や観た映画などの情報も記述されます。とは言え、あまり厳密に「何を書くのか・書かないのか」を定めているわけではありません。雑多なことを書き込んでいます。

■雑多な記録

この「雑多さ」は一つのポイントでしょう。

たとえば、明確な「プロジェクト」についてはプロジェクトノートを作り、そこに集中的に書き込む方が使いやすくなります。しかし、そうしてしまうと明確にプロジェクトになっていない事柄について記述する場所がなくなります。でもって、一日においてそうした「非プロジェクト的プロジェクト」な出来事は多いのです。

そこでまずは、業務日誌に区別なく書いてしまう。必要あれば、プロジェクトノートに別途転記する(コピペする)という形をとっています。

なんにせよ、###hoge: のような記法を守ってさえ入れば、後から検索することは用意です。このごく簡単なフォーマットを守ることで、雑多な私の業務日誌の唯一の「ルール」と言えるでしょう。

■一つのツール上で

『Re:vision』の連載を書いていた頃は、このリストとノート(日誌)はそれぞれ別のツールを使っていました。

しかし今は、一つのツール(というかテキストファイル)に統合されています。

8桁の年月日をタイトルにしたテキストファイル一枚が、その日の「デイリーノート」になり、その上部にリストが書き込まれ、リストの下からがノートの領域になります。

パソコンではファイルの「一番上」と「一番下」に移動するのはショートカットキーで一発なので、

・タスクリストを見たければ「一番上」に
・業務日誌を新しく書き足したければ「一番下」に

と行き来しながら使っています。

もちろん、別のツールを使っても構いません。特に、リスト部分はアウトライン操作ができるツールを選択するのがベストでしょう。幸い、VS Codeでは行移動などのショートカットキーが使えるので、一階層だけのリストの操作であれば特に不便はありません。

■業務日誌の利用

さて、ここからが若干マニアックな話になってきます。書き留めた業務日誌は、基本的に「そのまま読み返す」ことはないのですが、データとして利用されることはあります。

どういうことでしょうか。

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7,891字 / 3画像 / 1ファイル

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