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2022年のテーマ設定/プロトタイプ稿の公開その1

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/01/03 第586号

○「はじめに」

明けましておめでとうございます。

何がどうなるのかはぜんぜんわかりませんが、これからもGoodな本を作っていければいいなと考えております。

今年もよろしくお願いいたします。

m(_ _)m

〜〜〜『ライフハックの道具箱 2022年版』〜〜〜

予告していた通り、『ライフハックの道具箱 2022年版』が発売となりました。

で、十分に校正していたつもりですが、やはりミスはあるもの。すでにいくつかのご指摘を頂いており、それを修正したバージョンをストアにアップロードしてあります。

修正した箇所については以下のページでまとめていくことにしました。

◇『ライフハックの道具箱 2021年版』 - 倉下忠憲のポートフォリオ

来年こそはミスゼロを目指したいところです。

〜〜〜ポッドキャスト〜〜〜

ポッドキャスト、配信されております。

◇第九十三回:Tak.さんと今年の振り返りについて by うちあわせCast

年末恒例コンテンツです。途中、ツールの引っ越し話などもしております。

〜〜〜連載の終わりとはじまり〜〜〜

一年間シゴタノ!で連載していた「デジタルノートテイキング」が終了しました。

◇デジタルノートテイキング連載のまとめ | シゴタノ!

これまではずっと「R25の知的生産」という連載だったのですが、10年以上経って私も40代に足を踏み入れているので、さすがにもうそのタイトルではなあという気持ちと、漠然と書き続けているだけでは「まとめて本にする」のが難しいという判断があり、一年区切りで連載を切り替えていくことを(勝手に)決めました。

今年はまた別の切り口で知的生産に書いていきますので、そちらもよろしくお願いいたします。

〜〜〜『Re:vision』進捗〜〜〜

Tak.さんと進めている『Re:vision』制作プロジェクトですが、ほぼほぼ終わりを迎えています。

あとは、本当に細かい最後の詰めですね。それが終わり次第発売できるかと思います。

ちなみに毎回思うのですが、文章の直しというのは「よし、これでだいたいOK」となってからが本番です。もう十分に提出できるクオリティになっている、というところからもう一段階推敲を進めると、全体的にはたいして違いはなくても、読んだときの「読書体験」(ようするに読みやすさ)はかなり違ってきます。

たとえるならば、職人がすでに平らになっている木材に、さらにかんなをかける、という感じでしょうか。

でもって、今その作業を進めております。

〜〜〜最近のBGM〜〜〜

基本的に作業中はずっと何かしら音楽を流しているのですが、最近はYouTubeで川の音とか、滝の音とか、たき火の音などを流すことが増えてきました。聞きなれている音楽ですら、たまに「うるさく」感じることがあるのです。

たぶん、疲れかストレスがたまっているのでしょう。要注意ですね。

〜〜〜「これは良い」ゲーム〜〜〜

人間は、ネガティブな情報に注意を向けやすい傾向があります。つまり、「これはダメだ」と気がつきやすいのです。

であれば、そのバイアスにカウンターを加えるために、意識的に「これは良い」と言ってみるゲームを自分でプレイしてみてもよいでしょう。ある種のアファーマティブアクションです。

〜〜〜自分の声に慣れた〜〜〜

必要があって、過去の「うちあわせCast」を聴き返していました。私は自分のポッドキャストをまず聴き返さないので、かなり珍しいことです。

で、そうして聴いているうちに気がつきました。自分の声がそれほど嫌ではない、と。

一年前くらいは、自分の声を音声で聞くのが嫌で嫌で仕方がなかったのですが、今それを耳に入れてみてもあまり嫌な感じはしません。「大好き」というレベルではありませんが、十分に聞くにたえうる感じがします。

慣れ、なのでしょう。

人間というのは、このようにして環境に適応していくのだと思います。ちょっと格好をつけていえば、「生きることとは、変化すること」なのです。「今の自分」がずっと続いていくわけではない、というのはある種の希望にもなる話です。

ちなみに、そうやって自分の声を聴くのが嫌ではなくなったおかげで、うちあわせCastを聴き返すことも心理的抵抗感がなくなりました。で、そうやって聴き返してみると存外に面白い番組だなと思うようになりました。まあ、自分の興味ある話題を話しているから当然と言えば当然なのですが、意外なところから「贈り物」をもらったような感覚があります。

〜〜〜難しい中庸さ〜〜〜

中庸の大切さはよく語られます。何事もほどほどが大切です。

一方で、その大切さがよく語られるということは、私たちがその大切さをよく忘れてしまう、ということでもあります。十分に実践されていることはアドバイスにはなりません。実践しづらいからこそ、アドバイスが求められるわけです。

たとえば、自分の中に好嫌の気持ちのパラメータがあったとしましょう。6:4くらいで対象Aが好ましいと感じている。そんな感覚です。

そのとき、その対象と逆のものを良いとする意見を見かけたとします。自分があまり好きではない事柄を肯定している態度、ということです。

そういう態度を見かけても、「他人は他人、自分は自分」と割り切ってしまえば問題ないのですが、ついつい何か言いたくなってしまうのが心情でしょう。

そのとき、いったいどんなトーンで発言するのか。

たとえば、「Aの方がちょっとだけ良いですよ」と言うか。つまり差分の2(6−4)だけを提示するか。

たぶんそうはならないでしょう。きっと、対抗意識をバネにして「Aはすごく良いんだぞ」と言いたくなると思います。つまり、パラメータが8:2とか9:1に動いてしまうのです。

それが一時的なものであれば構いません。でも、そういう発言を繰り返していくうちに、少しずつパラメータの目盛りが元に戻らなくなり、8や9や、なんなら10に固定されてしまう。そんなことが起こりそうです。

その上に、です。

この作用は、もう一方にも起こりえます。つまり、「Aはすごく良いんだぞ」という発言を受けて、「いや、Bこそがもっとも良いのだ」という発言が引き出されてしまうのです。むしろ、そういう反動的発言のやりとりによって、それぞれのパラメータが8から9に、9から10に移動してしまうのでしょう。

もっともベーシックな解決策は「対抗意識を燃やさない」ですが、それが簡単にできたら苦労しないわけですから、やっぱり「中庸は大切」というアドバイスをときどき思い出しておくことが必要なのでしょう。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 今年の目標・テーマ・キャッチコピーは何かあるでしょうか。

では、メルマガ本編をはじめましょう。今週は、倉下の2022年のテーマ設定と、おまけコンテンツとして「プロトタイプ稿」をお送りします。

加えて、新春特別号として本号は全文を無料公開しております。epubは以下からダウンロードできます。


○「2022年のテーマ設定」

さて、一年のはじまりですので、今年一年の「目標」を設定しましょう。ちなみに、目標については以下の本なども面白いのでぜひ。

◇「目標」の研究 | 倉下忠憲  | Amazon

■二つの視点

まずは、二つの視点に注意します。未来を見据える二つの視点です。

たとえば、前号で一年の振り返りを行ったときに、「目標ベースではなく実績ベースで振り返ろう」と書いたのを覚えておられるでしょうか。「こうしよう」と思ったことと、「実際にこうした」という二つの視点があり、前者ではなく後者を中心に据えよう、というアドバイスです。

そうした視点を持たない限り、私たちは「目標以外でやったこと」を取りこぼしてしまいます。それはもちろん、よいことではありません。「目標以外でやったこと」であっても、自分の人生の一部であることには変わりないからです。だからこそ、二つの視点を持つことが大切になってきます。

目標設定についても同じことが言えるでしょう。

自分のそれまでの「実績」をまったく無視して目標を立てても、きっととんちんかんな目標にしかなりません。一方で、今自分がやっていることだけを対象にすれば、そつの無い目標は立てられるでしょうが、新しいものが生まれてくる余地はきわめて少なくなります。

できれば、両方を視野に入れたいところです。

■ノートからはじめる

とは言え、両方の視点を同時に惹起させることは困難なので、どちらかをスタートに選ぶ必要があります。今年の私は、実績ベースをスタートに選びました。今、自分が抱えているプロジェクトをどう持っていきたいのかを書き出すところからはじめたのです。

特に定まった書式はありません。冒頭に「一年のキャッチコピー」という欄を作り、その欄は空白にしておいて、その下に手持ちのプロジェクトについて書き並べていきます。

その際、詳細な書き込みはしません。いちいち書いていたらあっという間にノートが埋まってしまいます。プロジェクトの名前と、最終的にやりたいことを端的に記述します。もし、そこからの展開が何か考えられるならば、矢印を引いて、追加で記述します。

実際にご覧頂くのが手っ取り早いでしょう。

前回行った振り返りと揃えて「仕事、健康、日常」という分類を一応作ってありますが、後半の書き込みはたいした量がありません。新しくやることは特にはなくて、去年にやろうと思ったことをもう少し実行できるようにするくらいしか打てる手がないからでしょう。

ともかくこのノーティングで、「自分が今からやろうとしていること」の全体像が──粗い解像度ではありつつも──視野に入ってきます。

これが第一の準備です。

■階層を一つのぼる その1

こうして書き出したものを眺めた上で、少し頭をひねります。そのときの、思考プロセスは簡単に明言できるものではありませんが、仮にそれを翻訳するとしたら「これって、どういうことだろう?」となるでしょう。アウトライン・プロセッシングの用語を拝借すれば、階層を一つ上にのぼろうとする感じです。

たとえば、手持ちのプロジェクトを眺めてみると、「まとめ本」というキーワードが浮かび上がってきました。自分が書いてきた原稿や連載をベースに本を作る、というプロジェクトが複数存在していることに気がついて、そこに名前を与えたわけです。

そのような「まとめ本」を単に作っていくだけでなく、その作成プロセスを確立することが今年一年の課題になるな、という予感があります。なぜなら、今の私の仕事体制の中に、そうしたプロセスがまったく確立されていないからです。

なんとなく、この段階で目標の枝が「新しいこと」に向けて伸びているのを感じます。単に、直近の「やること」を片づけるだけでなく、これまで自分がやってこなかった「新しいこと」に取り組むような感覚があるのです。

とは言え、この段階では具体的にそれをどのように行えばいいのかはまったくわかりません。少し考えてみましたが、はっきりした答えは出なさそうだとわかったところで、次に移ります。

■階層を一つのぼる その2

もう一つ頭に浮かんだのが、プロジェクトを進める順番です。

去年の経験から、同時並行でプロジェクトを進めていく数には限界があり、その限界はそうとう小さいことがわかったので、一つひとつ段階的に進めていく必要があります。

となれば、「順番」を決めなければなりません。まずこれをやって、それが終わったら次にこれをやって、と決めていくわけです。ただし、あまり先のことまで考えても意味はないので、直近三つくらいのプロジェクトの着手順を決めました。プロジェクトの「流れ」を決定したわけです。

このあたりで、ふむ、という感覚が湧いてきます。

■さらに階層をのぼる

再び、「まとめ本」に注意を向けます。

<自分が今必要としているのは、「まとめ本」という完成物を作るためのプロセスである。そのプロセスは、いかに連載の原稿を書き、いかにそれをまとめるのか、どのようにしてそのための時間を作るか、という要素から構成されている。それらの要素の Good なデザインこそが自分の課題である>

「これって、どういうことだろう?」

………………

…………

……

流れを作ることだ!

私は上記の問題を、たとえば「商業出版の原稿を書き進める」というプロジェクトの進捗とからませながら解決しなければなりません。ものすごく効率的なプロセスをデザインできたとしても、それを実行したことで、商業出版の原稿が進まないようなことがあれば、それは Bad な結果になってしまうのです。

場合によっては、商業出版の原稿を進める期間と、まとめ本を進める期間を切り分けた方がよいのかもしれません。あるいは、何かしらうまく並行して進めていける方法があるのかもしれません。

どちらにせよ、私は二つの「流れ」に注目せざるを得ません。

一つひとつのプロジェクトの「流れ」と、それらを包括するより大きな「自分の時間」という「流れ」です。

去年に関しては、体調不良からの復帰で、とりあえず原稿が書ければOKという状況でしたが、今年はもう少しアクセルを踏むために、複数プロジェクトの適切な運用が課題となり、それは「流れ」のデザインの問題として立ち現れてくることがわかったのです。

■今年のキャッチコピー

そこまでわかれば、今年のキャッチコピーが作れます。

「ライティングフローを確立する一年」

これです。

最初は「ワークフロー」という言葉が思い浮かんだのですが、それだと指す範囲が広すぎて課題が曖昧になってしまうので、「書くことについて」という限定を強めるために"ライティングフロー"という言葉を生成しました。

なんであれ、注意のフォーカスは「流れ」です。いかに「流れる」ようにするのか。その探求が今年のテーマです。

注意したいのは、私が何か具体的な「進め方」を持っていて、それを今年一年で身につけようと思っているのではない、という点です。

先ほども書きましたが、進め方については具体的な決定は何もありません。アイデアだけは──なにせたくさんその手の本を読んでいるので──いくつも湧いていますが、「これだ!」という確信を持てるものは見つけていません。でも、それでいいのです。

今年行うのは、あくまで探求です。どのやり方であればしっくりくるのかを確かめること。性急に結論を出す必要はありません。最終的な目的は「確立」であっても、最初に行うのは探索であり、実験です。

このメルマガも、一時期はアラカルト方式で書いていましたが、最近はテーマ方式で書いています。もしかしたら、「流れ」を意識することで、それらとは違う書き方になるかもしれません。ブログやニュースレターも、これまでとは違った運用方法になるかもしれません。

それらの可能性を含めての「探求」です。

今までは、かなり場当たり的に作業を行ってきたので、今年はより明確な意志を持って、「どういう流れが良いのか」を探していくことになるでしょう。

■ツールの選定

こうやってなんとなく「わかった」気持ちになったら、第二の準備が終わったことになります。そうです。これはまだ作業の途中なのです。

なにせ、こうして手書きノートに書いたところで、一ヶ月後にはノートは見返されなくなり、書いたことの大半も忘れてしまうでしょう。経験から言える、帰納的事実です。

そこで、目標&キャッチコピーを普段使うツール──つまりはデジタルツール──に移します。

選択肢は主に3つ。WorkFlowy、Textbox、Scrapbox。

まず、WorkFlowyですが、こうした情報を扱うには非常に適したツールです。ちなみに「こうした情報」とは、セルフマネジメント/セルフオーナガイズに関する情報、ということです。

なぜWorkFlowy(というかアウトライナー)が適していかと言えば、こうして書いたものは書いた後に、確実に変化するからです。分裂したり、細分化したり、統合したり、入れ替えられたりする場合、アウトライナーというツールは非常に強力である、ということは今さら説明するまでもないでしょう。

とは言え、今回はWorkFlowyはパスします。なぜならツリー型の管理をしない予定だからです(それは後で説明します)。

では、Textboxか。

これはいちおう「アリ」です。ただし、どういうページを作ったらいいのかがまったくわかりません。Textboxは一つひとつ手探りで進めていく必要があるので、まとまった時間がないと適切なページングが難しいという課題を持ちます。よって、もし別のツールでうまくいったら、その後にTextboxでのページデザインを検討してもよいでしょう。

最後のScrapboxはどうか。

これはもう強いです。なぜなら、去年のキャッチコピーをScrapboxに保存しているからです。

◇本を読み、本を作る一年 - 倉下忠憲の発想工房

毎年同じツールを使わなければならない、という制約はどこにもありませんが、それでも去年のページを参考に今年のページ作りを進められるのはありがたいものです。

そこでまず、Scrapboxにページを作ります。当然のように、去年のキャッチコピーページからリンクを貼る形で作ります。

◇ライティングフローを確立する一年 - 倉下忠憲の発想工房

そして、紙のノートに書き出した内容を参照しながら、Scrapboxにも記述を進めていきます。基本的に、もう二度とアナログノートを参照しなくても大丈夫にする、という気持ちで進めて行くのが吉です。ただし、ノートを写真で撮影して、それをアップして終わりにする、というのは厳禁です。それをやるなら、Scrapboxを使う意味はありません。

なんとかがんばって、ノートの内容をテキストに起こしていきます。

もちろん、ノート紙面の記述の自由さは、Scrapboxにはありません。よって、記述の「翻訳」が必要となります。文章だけを使い、インデントを用いて、情報の「構造」をそこに再現(ないしは再構築)するのです。

ここでも詳細は記述は不要です。まずは、ざっと全体像を捕まえられるようにします。

■去年のキャッチコピー

それが終わったら、今度は去年のキャッチコピーページを読み返します。そして、今年のページに引き継げそうなもの(引き継ぎたいもの)を探します。

この「引き継ぎ」に関しては、明瞭な方法論はありません。つまり「こういう項目を作って、そこにコピペすればOK」のようにはまとめることは不可能です。そのたびごとに必要とされる作業が違ってくるからです。

とりあえず、私がやったのは、今年のキャッチコピーページで中身が欠けていた「メルマガで何を書くか」という項目の下に、去年のページで書いていた「自分が書きたいと思っている企画案」をコピペしたことです。

こういうやり方が唯一ではありませんし、そもそも「正解」かもわかりません。単に両方のページを読み返していたら、「この部分、ここにうまくはまるな」という直感が湧いてきただけです。情報のうまい使い道(あるいはよい嫁ぎ先)が見つかった感覚でしょうか。その感覚に従って処理を進めていきます(というか、それ以外の何に従えばよいのでしょうか)。

その際、単にコピペして終わりにするのではなく、独立したページにできそうなものは、切り出して独立したページにしておきます。本来これは、去年のうちにやっておくべきものですが、細かいことを気にしても仕方がありません。できるときに、できる範囲でリファクタリングするのが、Scrapboxのほどよい運用方法です。

■ネットワーク型目標管理

このあたりからScrapboxの「良さ」が生きてきます。

たとえば、以下のページの上部には「ライティングフロー」という項目があります。

◇ライティングフローを確立する一年 - 倉下忠憲の発想工房

その下に、「エッセイ集をどうやってつくるか」と「自分の大きな執筆に向けて」というリンクがあります。ここまではアウトライナーでもよくある風景です。

では、「自分の大きな執筆に向けて」のページを開いてみましょう。

◇自分の大きな執筆に向けて - 倉下忠憲の発想工房

ページの下部に「エッセイ集をどうやってつくるか」が出てきます。そうなのです。ここではページの言及が単純なツリー構造になっていません。兄弟項目でありつつ、あるページの「下」に(実際は「先に」)その兄弟項目が含まれているのです。

もちろん、WorkFlowyでも、リンクやMirrorコピー機能を使えば同じような情報構造は作れるでしょう。しかしそれは「+α」の機能を使う感覚です。一方で、Scrapboxではまさにこのような使い方がベーシックだという感覚があります。親であるか子であるか(あるいは兄弟であるか)といったことはまったく考えずに、単に「関係する項目」を記述していけばいいのです。

この点は、きわめて大切です。特に目標を扱う上ではなおさらにそうです。

私が現時点で持っている目標/課題は、明確な形で切り分けられてはいません。問題そのものが未確定な状態にあるものがほとんどです。「Aについて」「Bについて」「Cについて」のようなラベルを貼ることはできても、実際その課題に取り組むときは、「Aについて」だけ考えればよい、というものではなく、BやCについての決定がAにも影響を与えることを考慮しなければなりません。

Scrapboxは、そのような「上も下も現段階ではぜんぜんわからない」情報を扱うのに適しているのです。

とにかく、個別に自分が思い浮かんだ対象について考え、記述する。関連しそうなことがあれば、それも記述してページを作る。

これを繰り返していくことで、自分の問題意識・課題群からなるネットワークが形成されます。そのネットワークの中で考えを進めていくのが、私が提唱している「ネットワーク型目標管理」です。

◇階層型目標管理からネットワーク型目標管理へ - 倉下忠憲の発想工房

自分の中に複数の問題意識があり、それに属するAという要素があるとして、そのAは排他的に問題意識に属するとは限りません。プロジェクトXにもプロジェクトYにもAという要素が出てくることはありえます。その上、プロジェクトXがプロジェクトYに属することもあるのです。

そうした関係性を、「うまく整えて」表示するのではなく、絡み合った状態のままで記述し、そのことについて考えていくこと。それがネットワーク型目標管理であり、私がScrapboxでやろうとしていることでもあります。

■整理されたリストではない形で

上記は、自分の問題意識・課題についての話ですが、同じことは「企画案」や「テーマ」についても言えます。「ライティングフローを確立する一年」ページの中盤には、たくさんの企画案ページへのリンクが並んでいますが、これらは別に粒度がそろっているわけでもありませんし、排他的に整理されているわけでもありません。情報が絡み合ったまま、並んでいるだけです。

でも、それでよいのです。

明確に決まったタスクがあり、それらを順々に片づけていくことが最高の解法であるならば、整理されたリスト(排他的にカテゴライズされたリスト)は役立つでしょう。

しかし、私がこのページで扱おうとしている情報はそうしたものではありません。明瞭な切り分けが、この時点では不可能な対象ばかりです。

そうした情報をうまく扱うために、むしろ「個別にページを切り分けていく」作業が必要になる、というのはなかなか皮肉な話ですが、たしかに必要なことであるように思えます。

■さいごに

というわけで、一年のキャッチコピーができ、その上で考えるべきテーマも浮かび上がってきました。後は、それらについてページを作り、そのページの中で思索を続けていくだけです。

このページもまた、今年一年かけて作り込んでいくことになるでしょう。一年後にどんな振り返りの記事を自分が書いているのか、今から楽しみです。

○「プロトタイプ稿の公開その1」

お年玉、というわけではありませんが、普段はまず公開されない倉下の「プロトタイプ稿」をちょっとだけ披露してみようと思います。

一気にどーんと公開しても目を通すのが難しいでしょうから、小分けにしてみます。まずは、『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』の第一章から。

202年10月30日
chapter01.md

https://www.dropbox.com/s/9w526qad8x9p5v7/chapter01.md?dl=0

202年11月18日
001.txt

https://www.dropbox.com/s/wk7a969kf45p3xi/001.txt?dl=0

202年11月23日
chapter001.txt

https://www.dropbox.com/s/2eypoe5vnd9kgkh/chapter001.txt?dl=0

202年11月30日
20201130Chapter001.txt

https://www.dropbox.com/s/4ta4gp50lzcwsjn/20201130Chapter001.txt?dl=0

ファイルの命名規則がばらばらなのは気にしないでください。自分の中でまだやり方が定まっていなかったので、そのときの気分で付けていただけです。

また、これらは基本的に「プロトタイプ稿」であり、読み物としての推敲はかなり低いレベルになっています。「一応読めなくはないかな」という程度。こうしたものを書き出していき、自分が書こうとしている対象について明らかにするのがバザール執筆法の胆です。

ちなみに、上記のプロトタイプ稿を経て、これらとはまた別に「初稿」を書きましたが、それはかなり完成版に近いので今回は割愛します。

『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』全体を通して、この第一章が構成レベルで大きく変化した章になっているので、一番「変遷」を楽しめる章かもしれません。

(次回に、つづく)

○「おわりに」

お疲れ様でした。本編は以上です。

さて、2022年が始まりました。今年もできれば何冊かの本作りを達成したいところです。無理しない程度に、しかしできるかぎりのことを。なかなか難しい目標ですが、がんばりましょう。

それでは、来週またお目にかかれるのを楽しみにしております。

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