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○新刊の舞台裏 『タスク管理の用語集』

Weekly R-style Magazine 2017/07/03 第351号より)

新刊『タスク管理の用語集』のお話をします。


まずこの本は、メルマガで連載していたBizArts 2ndの原稿がベースになっています。Evernoteで調べてみると、2014年11月03日号から始まり、2015年02月23日号でその連載は終了していました。当メルマガの連載としては比較的短い方だと言えるでしょう。

だから、月くら計画ZZで、この本をやろうと決めたときも、結構楽勝だと踏んでいました。「タスク管理の用語をまとめる」というコンセプトとそれに沿った原稿はもうあるのだから、後はそれを本の体裁に整えればいいし、分量も5万字ほどなので、すぐに終わるはずだ、と。

大きな勘違いでした。結果的に、本書の出版プロジェクトは、そんな風には進みませんでした。まったく、ぜんぜん、皆目、徹頭徹尾、そんな風には進みませんでした。

■手順紹介

実際の手順を振り返ってみましょう。

1. Evernoteから連載原稿を引っ張り出す
2. それをScrivenerに入れる
3. 構成を整える
4. 文章をリライトする
5. 推敲し脱稿
6. 販促計画へ

1は簡単でした。2も簡単でした。実質この2つには二日もかかっていません。問題は3からです。

■当初の構成

当初BizArts 2ndの連載では以下のような構成になっていました。

・Section1:タスク編
・Section2:リスト編
・Section3:チェックリスト編
・Section4:タスク管理の補佐ツール編
・Section5:テクニカル・ターム編
・Section6:レビュー編
・Section7:各種メソッド・ワークフロー編

問題は二つあります。一つはそれぞれのセクションの粒度がバラバラなこと。たとえば、Section2では「リスト」という包括的な概念が章題になっていますが、Section3ではその概念の下位である「チェックリスト」が章題になっています。どうにも納まりが悪い感じです。さらに、それぞれのSectionのボリュームもバラバラです。これはちょっと「本」としてはいかがなものだろうか、という感覚がぬぐえません。

それでも最初は、(ある程度は)それで良いと思っていました。本書の一つの指針となったのが、『いかにして問題をとくか』というポリアの本で、この本は章ごとにかなりバラバラな内容なので、そういう本であってもいいかな、と思っていたのです。

が、仮組みした原稿でEPUBファイルを作って、実際に読んでみたら、まったくぜんぜんダメだということがわかりました。「本」の体裁をなしていません。つなぎを入れ忘れて作ったハンバーグを食べているような気分になります。

だから改めて全体の構成を練り直すことにしました。すべての要素の配置を、ゼロベースで考え直す作業です。

■再構築

まず、〈タスク〉が冒頭に来るのは決定でしょう(※)。でもって、〈GTD〉などのワークフローの話が最後の方に配置されることも問題なさそうです。後は、その間をどう埋めるか。
※実際の本では、〈タスク〉の前に〈タスク管理〉が来ていますが、これは後から書き足したものです。

タスクの次にTodoを持ってくるのは悪くありません。その対比が本書の目的の一つでもあります。するとスケジュールがその次あたりに来てもよさそうです。この辺りはもともとあった構成と変わりません。問題は「リスト」の扱いです。

タスクとリストは別の概念ですが、タスクリストはその両方にまたがっています。でもって、タスクはTodoやスケジュールなどと関連を持ち、リストはタスクリストやDoingリストを下位の概念に持ちます。今こうして文章で書いていてもなかなか複雑ですが、その関係に沿ってリニアに記述しようとすると、さまざまなパターンが考えられます。

タスクを紹介→タスクリストを紹介
タスクを紹介→リストを紹介→タスクリストを紹介
タスクを紹介→タスクリストを紹介→リストを紹介
タスクを紹介→→→リストを紹介

これを決定するために、かなりのパターンを試しました。というか、本書の構成案作りで一番時間を使ったのはこの部分です(本書の用語を使うなら、〈ブラックホールタスク〉と呼ばれるタスクです)。おそらく二週間くらいはこの作業に使ったのではないかと思います。

結局、〈リスト〉という包括的な概念をタスクの近くで紹介しておき、その後章一つを使ってその下位概念を紹介した上で、独立していた〈チェックリス〉トもその傘下に加える形に落ち着きました。この形に至るまでに、Scrivenerで相当あっちいったりこっちいったりを繰り返しています。というか、Scrivenerだからそうしたいくつものパターンを試すことができた、と言えるかもしれません。ノーマルなテキストエディタだけだったら、お手上げだったでしょう。

■さらなる制約

ともかくそれで、「3. 構成を整える」の工程は終わったのですが、次の「4. 文章をリライトする」がこれまた厄介でした。section1(完成版では第一章)の文章を手直しているときに、ふと閃いたのです。「一段落を140字以内にしよう」と。

なぜそんなことを思いついたのかはまったく不明ですが、そうすることで、普段SNSには親しんでいるけども、長い文章はあまり読まない、という世代にフィットした本になるのではないか、という考えがあったことはたしかです。すでにその時点で、「この本は用語集である」という予感が湧いており、用語集はダラダラした文章ではなく、キビキビしたシャープな文章だろう、ということで、この本の文章も、それに準じることにしました。そのための制約が140字制限です。

本当に途中ぐらいから、「なんで俺、こんなルール設けたんだろう……」となるくらいシンドイリライト作業となりましたが、おかげで文体力(というものがあるとすれば※)は向上したかと思います。
※140字制限だと、括弧内のような余分なことは一切書けなくなります。泣く泣く削った文章が大量にありました。

■最終結果

最終的に章は以下の四章立てとなり、

・第一章 タスクの基本
・第二章 リストの性質と種類
・第三章 タスクのメタ情報と操作
・第四章 各種メソッド・ワークフロー

本文部分は約4万字とシャープにまとまりました。私が書いた本の中では一番か二番目くらいに「余計なこと」が書いていない本だと思います。おそらく、一人の書き手として、こういう書き方もできた方がいいのだろうな、とは感じています。

というわけで、本書にも実験的要素がたっぷり詰まっています。が、一方で完成品としてのクオリティもなかなか高いのではとも感じています。やはり三ヶ月使えるとなると、やれることは一杯あります(それでも完全にはほど遠いわけですが)。それも一つの収穫です。

とりあえず、頑張って完成させたものの、本書がどう評価されるのかはまだわかりません。いつもとは違う文章の書き方なので、その分不安も大きくなります。でもまあ、役に立つ本になっている自負だけはあります。それは間違いありません。

(了)

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