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知をわたるというスタート地点 / 手動でRSSを更新する / 疑問文で保存する

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/04/24 第654号

はじめに

ポッドキャスト、配信されております。

◇第百二十五回:Tak.さんと二冊の本について 作成者:うちあわせCast

配信の中でも触れていますが、LISTENというサービスに「うちあわせCast」を登録してみました。

◇うちあわせCast | LISTEN

自分のポッドキャストのRSSを登録しておくと、配信された回の文字おこしを自動的にやってくれるというアンビリバボに便利なサイトです。上の回の配信後にアップデートが行われて、文字起こしされたテキストを後から(人間の手で)編集できるようにもなりました。

これまでポッドキャストは、テキストでの検索に弱いという弱点を抱えていましたが、これで結構潮目が変わりそうな気がしています。

〜〜〜『Re:vision』セール〜〜〜

Kindleでゴールデンウィークセールが始まっております。でもって、倉下&Tak.の『Re:vision』もセールに選出されました。

『Re:vision: タスクリストとアウトライン』

今Amazonのページを覗いてみたら、星評価総数が81個、平均が4.3と光栄な評価を頂いておりました。ありがとうございます。

この本はよくあるビジネス書と同じようなテーマを扱っていながらも、内容はそうした本たちとかなり>けっこう>すごく違っています。でもって、大規模ではなくてもそれなりの数の販売数があり、こうして評価も頂けています。

すべてがこういうタイプの本になる必要はありませんが、それでも1割くらいはこんなテイストの本が出てきたらノウハウ書の多様性はアップするのにな、とは思います。

〜〜〜隔離と試用〜〜〜

勢いが止まらないChatGPTですが、行政において対照的な対応の記事を見かけました。

◇鳥取県、業務ではChatGPT禁止 知事「ちゃんとジーミーチー」 [ChatGPT]:朝日新聞デジタル

◇横須賀市が自治体初となるChatGPT導入へ。プレスリリース最後の一文が衝撃 | ギズモード・ジャパン

鳥取県では「県議会の答弁資料作成や予算編成、政策策定など県庁の業務で職員が使用すること」が禁止されたようです。理由の一つには、「個人情報の漏洩や回答での著作権侵害への懸念」があるということで、これは適切な懸念でしょう。ただ、いくつか気になる言葉もありました。

「いくら端末をたたいたところで、そこから出てくるのは世間で言われているいろんな話や情報の混合体で、せいぜい現在か過去の問題だ」

たしかにその通りなのですが、日常的な資料作成の大部分は過去のフォーマットの踏襲ではないでしょうか。それとも鳥取県では書類一枚一枚において新しいフォーマットを生成しているのでしょうか。役所というものの仕事の進めかたの基本を考えたときに、むしろ「過去の情報をいかに活かすか」が重要になるのではないかと思います。

また以下の言葉も気になります。

「チャットGPTよりは『ちゃんとジーミーチー(地道)』で地道にやったほうがよっぽど民主的で、地方自治の本旨が生かされる」

ダジャレがしょうもないというのではなく(それもありますが)、「地道にやったほうがよっぽど民主的で、地方自治の本旨が生かされる」からといって、すべての作業を手作業でやることが適切なのでしょうか。むしろ人と触れ合い、現場に赴き、対話するための時間を作る上で、地道にやる必要がないものは効率化した方が良い、という議論は成り立つでしょう。その意味で少し短絡的な結論だと感じます。

それだけではありません。「私有スマートフォンなどでの私的な利用は自由」となっている点が引っかかります。ようは、ChatGPTを使って効率化できる部分を改善できる人はそれができ、そうできない人はそのまま、ということです。ノウハウが属人化しているのです。それが望ましい組織の在り方だとはとても思えません。

一方で、横須賀市は「個人情報や機密情報の取り扱いはなく、あくまで職員が利用することで業務効率化のユースケースを創出するのが目的」とあります。つまり鳥取県が懸念していた部分での利用はせずに、「文章作成、文章の要約、誤字脱字のチェック、またアイデア創出」において利用するのです。

そうした利用を組織が認め、後押ししているなら、職員が気兼ねなく使えるだけでなく、どのように利用すれば効果的なのかという知見も組織的に蓄積されていくでしょう。「使うべきところは使い、そうでないところは使わない」という共存のスタイルが見つけられるようになるはずです。むしろ、実際に導入してみないでどうしてその使い分けが確立できると信じているのか、その点が実に不思議です。

結局のところ、表面的に隔離してしまうと各々が勝手に利用するだけであって、「どう使えばいいのか」の知見は蓄積されていきません。その結果、よくない使い方をする人が出てくるのは当然の帰結でしょう。逆に、組織全体で利用方法の知見を蓄積すれば、それが組織内のリテラシーとして高まっていきます。

さて、どちらが組織運営として望ましいでしょうか。

あくまで一般論になりますが、日本組織において上層部が仕事の実態を把握しておらず、常に現場の人間がその尻拭いに走り回ることになり、結果個別的な解決ばかりが増えていって、組織の共通的な土台がまったく改善されないばかりかブラックな組織にどんどん近づいていってしまう、ということがよくあります。

もちろん、右に倣えでChatGPTを導入すればいいというものではありません。そうではなく、現場の仕事において何が問題で、どのような施策であればそれが改善されるのかを考えることが必要ということです。小奇麗なお題目だけ唱えているだけでは、何も変わらないのですから。

〜〜〜「テキストエディタ」を何と訳すか〜〜〜

あるときふと思いました。「テキストエディタ」という言葉を、あえて無理やり日本語にするとどうなるだろうか、と。存外に難しそうです。

Twitterにつぶやいてみたら、いくつか反応もいただけました。「文房具」路線に寄せる回答が多かった印象です。面白い結果です。

いちおうそのまま訳せば、「文章-編集-」まではすぐに出てきますが、最後のorを活かすのが難しいですね。「文章編集装置」? いや、そもそもテキストは「文章」としていいのだろうか……、などと疑問はつきません。

もちろん、テキストエディタはすでにパソコン界隈では通りがよい言葉なのであえて日本語にする必要はないのですが、英語に翻訳しようとするときに「これは何をしている道具なのだろうか?」と考えることになり、それがツールの理解を深めることにつながっていきます。

そこで皆さんにも質問です。「テキストエディタ」を無理やりであっても日本語にしてみてください。辞書的な正解は必要ありません。その翻訳を通して、皆さんがテキストエディタをどんなツールだと捉えているのかを表現してみてください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、「知をわたる」というフレーズがもたらした倉下のパラダイムシフトについて書いてみます。加えて、「RSSの手動更新」と「疑問文で保存する」ことについてのエッセイもお送りします。

知をわたるというスタート地点

以前、「Knowledge Walkers」というネーミングの来歴を紹介しました。最初はKnowledge Workerという知識労働者向けを意識したネーミングだったのが、すでに"先客"がいたので少しもじった言葉を採用した、という流れです。

そんな感じで言葉遊びで生まれたネーミングでしたが、意外なくらいにフィットした感覚があります。ちょっと大げさに言えば、さまざまな呪縛から開放されたかのような印象があります。大げさにいわないならすごく楽になった感覚です。

どういうことでしょうか。

このメルマガをお読みの方はご存知のように、ずっと私は「知的生産の技術」の提示を考えていました。それを体系的に論じたり、あるいは初心者向けに紹介したりと方向性はいろいろあったものの、総合的に言えば「知的生産の技術」を提供しようと考えていたのです。

しかし、そこに違和感もあった、という話を以前にもしました。間違ってはいないけども、完全にフィットしているわけではないという、音叉を使ってギターのチューニングをしているようなもどかしさがあったのです。

しかし、新しいサイトのタイトルを「Knowledge Walkers」としたことで、そのようなもどかしさがなくなりました。もう少し言えば、そのサイトのトップに掲示する三要素について検討しているときに考えがまるっとひっくりかえったのです。

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