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Scrapbox知的生産術01/マンダラートと上にあがる感覚/真なるボトムアップ体験

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2022/05/02 第603号

「はじめに」

ポッドキャスト配信されております。

◇BC036『CONFLICTED 衝突を成果に変える方法』 | ブックカタリスト

今回は倉下のターンで、『CONFLICTED 衝突を成果に変える方法』を取り上げました。インターネットでさまざまな人たちと意見を交わすようになった今の時代だからこそ読んでもらいたい本です。

倉下の読書メモは以下。

◇『CONFLICTED(コンフリクテッド) 衝突を成果に変える方法』 - 倉下忠憲の発想工房

〜〜〜複数プロジェクトの効能〜〜〜

以前と違って、最近は複数プロジェクトを並行して進めているという話をどこかで書きましたが、ふらふらした足取りながらもなんとか継続できています。

作業をスムーズに切り替えるための環境作りが必要なので(メモリマネジメントですね)、その分手間はかかるのですが、その手間が意外な効果を発揮してくれます。

どんな効果かと言えば、「頭を切り替えられる」のです。Aの作業からBの作業へシフトチェンジ。

当たり前だろうと思われるかもしれませんが、一時期に一プロジェクトにしかコミットしていないと、これが発生しないのです。言い換えれば、四六時中そのプロジェクトのことばかりを考えてしまうのです。

「集中できていていいじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、話はそんなに簡単ではありません。

まず第一に四六時中考えていてもそれに見合う進捗は得られません。人間が頭をフルに使って作業できる時間は限定的ですし、発想プロセスのモデル(『アイデアのつくり方』参照)から考えても「寝かせる」ことが必要な問題は少なからず発生します。

極端に言ってしまえば、四六時中思考というのは、「無駄」な思考を続けてしまっているのです。それよりも、別のことを考えたり、頭を休ませたりして、時間を置くほうが効果的な場合は多いでしょう。

第二に、四六時中思考は行き詰まったときにヤバいです。別の表現をすると、「思考の迷宮」に入り込んだとき、延々と認知的エネルギーを浪費する羽目になってしまいます。考えても仕方がないこと、その時点では考えても答えが出ない問題に取り組んでしまう、というのが「思考の迷宮」ですが、四六時中思考ではその迷宮をずっとうろつくことになるのです。

複数のプロジェクトを並行して走らせていると、その迷宮からの「切り上げどき」が生まれます。ここが大切なポイントです。

単に違う作業を行うだけではありません。四六時中思考のまま違う作業を行っても、注意はあいかわらずその問題に占められているでしょう。そうではなく、「今日は1時間作業をして、これだけの進捗をした。よし、じゃあ次の作業をしよう」と気持ちを切り替えることで、はじめて注意を対象の問題から開放することができます。

でもって、そのような切り替えを発生させるのが「作業の振り返り」です。その時点まで自分は何をやったのかの確認なのです。

そうして確認しておくと、次にその作業を再開したときにスムーズにスタートできるメリットがあるのですが(それがメモリマネジメントです)、それが同時に自分の頭を切り替える作業、というよりも儀式になっているのです。

逆に言えば、作業をやりっぱなしにしていると、思考の迷宮に入り込む危険性がグッとアップしてしまうとも言えるでしょう。その意味で、作業をクローズすることで「今日はもうこのことについては考えない」と切り替える行為は、精神衛生的に好ましいのものだと言えそうです。

とは言え、プロジェクトの数が増えすぎてしまうと破綻してしまう、というのは以前も書いたとおりです。何事も、ほどほどが大切ですね。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる質問ですので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 『Scrapbox知的生産術』という仮想の本があるとして、その本はどんな目次になっているでしょうか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。5月からは「Scrapbox知的生産術」(仮)の連載を始めます。一応5月いっぱいのテーマの予定ですが、状況次第では来月も続くかもしれません。とりあえず、今回は軽く導入部分をお送りします。それ以外に二つの原稿もありますのでお楽しみください。

「Scrapbox知的生産術01」

■はじめに

本連載では、最終的に電子書籍としてまとめることを目指して原稿を書いていく。タイトルは現状仮題であり、原稿がすべてできあがった後で、本式の書名が決定されることになるだろう。

一応、目指す方向性として最初に思い浮かんだのは、「Scrapboxではじめる"ものぐさ"知的生産」というものだ(*)。もちろん、「ものぐさ」がポイントである。つまり、すごく几帳面な人でなくても実践していける、というニュアンスがある。
*『ものぐさ精神分析』(岸田秀)インスパイアである。

しかし、本連載の箇条書きメモを書き出してみて、「これは、ものぐさにできることではないのではないか」という疑問が湧いてきた。自己理解として、私は「ものぐさ」に分類されるし、その私がScrapboxで続けられているのだから、おそらくそう断じても構わないと思うが、それでも一応この「ものぐさ的疑念」は維持し続けていこうと思う。

ともあれ、やりたいことは、「知的生産におけるScrapboxの位置づけを確認すること」だ。これは拙著『Scrapbox情報整理術』では為せなかった課題でもある。なぜ為せなかったと言えば、本を書いたときはまだ十分にScrapboxを使い込んでいなかったからだ。ページの蓄積が1000程度では──知的生産的には──たいしたことが言えない。よって、その可能性だけを提示して終わった。

しかし、そこから4年経った今、私のScrapboxには5000にせまるページがある。これはちょっとした知的生産資産と言える量である。それに、こうして使っている間中ずっと、「デジタルツールにおける知的生産活動」についても考え続けていた。そろそろその考えをまとめてみようという機運が(私の中だけで)高まっている。それを開示するのが本連載というわけだ。

この連載において、ぜひとも確認しておきたいのは以下の三点である。

・Scrapboxの良さを再確認する
・デジタルにおける「カード法」の要点を確認する
・2nd Brainという(甘美な)考えの限界を確認する

それぞれについては連載が進む中でその内容が明らかになるだろう。私自身ですらまだアウトラインは固まっていないので、どう展開していくか今から楽しみである。

ちなみに、本連載ではずっとScrapboxのことを話題にするが、別段「Scrapboxでなければならない」という教条主義的こだわりがあるわけではない。ある種のポイントさえ共有できるなら別のツールを使ってもまったく問題ない。ただ、私はScrapboxが好きであり、長い年使ってきたので、その具体的な事例を通して、「デジタルカード」の話をしていこうとしているだけである。

さて、前置きはこれくらいにして、さっそく「Scrapbox知的生産術」(仮)をさっそくはじめよう。

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     Scrapbox知的生産術(仮)
        倉下忠憲

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■情報カードに憧れて

『知的生産の技術』を読んで、情報カードに憧れたのはいったいどれくらい昔だろうか。大きめのカードに自分の着想を書き留めていき、それをベースに研究を進めて、論文や原稿を書き上げる。そんな情報管理のシステムは、たしかに一つの憧れであったと共に、なかなか到着できない理想郷でもあった。実現が難しいのだ。

デジタルツールが当たり前に浸かるようになって、やっと「情報カード」が使えるようになった。そんな感触がある。ようやく憧れのシステムが構築できつつあるだけでなく、「それ以上」の何かにも近づいている感触がある。素晴らしい感触だ。

とは言え、ここまでの道のりは平坦ではなかった。少しその歴史をひも解いてみよう。

■起点としてのEvernote

スタートはEvernoteだ。Evernote社が提供しているこのクラウド型のデジタルノートツールは、2008年の日本語化からずっと私の「お供」のツールである。

それまでの「情報をファイル単位でバラバラに保存する」という形式ではなく、情報をデータベースとしてとりまとめ、それを一つのアプリケーションから閲覧および検索できるという形式がまず新鮮だった。

それに加えて、データを個人パソコンに保存するだけでなく、企業のサーバーに預けるというクラウドシステムは高速なインターネット環境の整備で現実的なものになっていた点も大きい。それまでとは違ったツール利用のモデルが生まれつつあったのだ。

また、毎月料金を支払うことで保存できる領域が少しずつ増えていくという料金体系、それに基本的な機能は無料で使えるというフリーミアムのビジネスモデルは、それまで無料か買い切りが当たり前だった私たちの心に強いインパクトを与えた。

もちろん、それまでにも「データベース」を構築できる個人向けツールは存在していた。しかし、複雑な操作や概念理解が必要だったのは間違いない。それに対してEvernoteはとてもユーザーフレンドリーである。ノートを作り、そこに文字を書き足していく上で、ユーザーは「データベース」を意識することがない。SQL言語を覚える必要もないし、どんな属性が配置されているのかを思案する必要もない。あたかもノートを使うかのように、情報を保存していける。非常に新しい感覚のあるアプリケーションだったわけだ。

しかし、その斬新さ(≒ユーザーの馴染みのなさ)のゆえに、はじめはどう使えばいいのかわからない人が続出していた。私もその一人である。メーラーのようなペインで表示されるこのツールに一体何をどのように記述していけばいいのかはわからなかった。だから最初はWebクリップ置き場としてだけ利用していた。

天啓が得られたのは、まさに『知的生産の技術』を読んでからである。

(つづく)

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