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Scrapbox知的生産術09 / コンテンツの二段階設計 / WorkFlowyアプリのカスタマイズ

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2022/06/27 第611号

「はじめに」

『すべてはノートからはじまる』が2022年度の開智日本橋学園中学校入試の問題で使われたようです。

まさか中学校の入試問題で使われるとは思いませんでした。単純に計算すると、小学六年生が読むことになるわけで、大丈夫なのかなとちょっと心配になりましたが、むしろ私が小学六年生の読解力を侮っているだけなのでしょう。

なんにせよ、これで中学・高校・大学の入試で使われたことになります。もともと若い人向けに書いた本なので、幅広い年代に読んでもらえるのはとても嬉しいです。

〜〜〜ポッドキャスト〜〜〜

ポッドキャスト、配信されております。

◇BCB040『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』 | by 倉下忠憲@rashita2

今回は『脳は世界をどう見ているのか』を取り上げて、二人でその面白さをお話しました。この本は、本当に面白いのでぜひどうぞ。

〜〜〜求められているノウハウ〜〜〜

以下の記事を読みました。

◇人気のビジネス書ランキング 『人は聞き方が9割』を抑えた2作品は?:22年上半期 | ITmedia ビジネスオンライン

いわゆる「ビジネス書」のランキングです。ちなみに、「flier」という本の要約サービスの有料会員が、どれだけ書籍の要約にアクセスしたかで順位づけられているようです。

で、上位の10冊を眺めてみると、その「要約」も作れそうです。

"コミュニケーションにおいては聞くことが9割で、残りの1割は限定的なメッセージを1分で端的に話すこと"

"とにかく、「すぐやる人」になる"

たいへん忙しく、時間を無駄にしたくないビジネスパーソンの心境がうかがえます。適切なコミュニケーションのやり方がわからない、物事にすぐ取り掛かれない、といった悩みがあるのでしょう。

もちろん、この「flier」というサービスを利用しているという時点で、ある種のバイアスがかかっていることは間違いありませんが、書店のビジネス書コーナーを眺めてみても、本の並びはそう大差ないので、大筋ではこういう傾向があるのだと思います。

でもって、この二つ──コミュニケーションと動機づけ──は、たしかに大きな問題であり、よくよく考えればあまり義務教育では教えてもらえない課題なのかもしれません。ある種の社会人科目とは言えそうです。その意味で、上記のようなビジネス書は大人の教科書に位置づけられるのでしょう。

もちろん、どれほど効果があるのかは、まだちょっとわかりませんが。

〜〜〜書くことだけができる装置〜〜〜

自作ツールのTextboxは、基本的に「ビュアー」(閲覧するためのツール)なのですが、先日テキストファイルをブラウザ上で編集できる機能をつけました。二、三文字の書き換えのためにエディタでファイルを開くのが面倒だったからです。

その時点では、「簡易の編集機能」を想定しており、それ以上のことはまったく考えていなかったのですが、たまたま「書きかけの原稿」をTextboxに保存したところ、そのままTextbox上で執筆が進み、粗い状態ではあるものの、3000字ほどの原稿を一気に書き上げることができました。

不思議なものです。

Textboxにあるのは、ごくごく普通のTextareaであり、特殊な編集操作はまったくできません。ただ文字を打ち込むだけ。

でも、だからこそ執筆が進んだのかもしれません。まだ使ったことはありませんが、これが「ポメラ感」なのかも、とちょっと想像しました。

もちろん、原稿を最終的に仕上げるためには便利な編集機能が使えた方がよいことは間違いないので、本格的なエディタを使わなくなることはないでしょうが、それはそれとして「(不便だけども)書くことだけに集中できる環境」を整えてみるのは存外によい効果がありそうな気がしています。

〜〜〜読了本〜〜〜

以下の本を読了しました。

『Java言語で学ぶデザインパターン入門第3版』

結城浩さんの書籍です。名前の通り、Java言語をサンプルにして、「デザインパターン」を学習していく一冊です。

私は普段JavaScriptやPythonというプログラミング言語を使っており、Javaに関してははるか昔に基本情報技術者試験を受けたときにほんのり勉強しただけなので、今はまったく書けません。

だから最初はサンプルコードを「読む」のに非常に時間がかかりました。なにせ型が厳密です。

public static void main(String args[])

みたいな文字列をみるだけで頭がくらくらしてきます。日本語ですべての文に必ず主語をつけているような、そんな感覚があるのです。

とは言え、さすがにずっとこうしたコードを眺めて意味を汲み取ろうとしていると、いつしか「読める」ようになってきます。人間の脳とはすごいものです。

おかげで、Javaにおける「クラス」の概念もずいぶん理解できました。思わぬ副産物です。

で、肝心のデザインパターンですが、その実践的な利用はこれからだとして、一つ思ったのは「価値が見えにくいものなのだろうな」という点です。

コードが小規模であり、短期間しか使われないものであれば、デザインパターンを使うのは「わざわざ面倒にしている」ようなものでしょう。その真価は大規模かつ中長期的に運用されるときに発揮されると思います。

もちろん、コーディングのスタイルは状況によって使い分けるのがよいのだとは思いますが、問題は「短期的なコーディングの方法しかしらないことで、大規模な開発が縁遠いものになってしまう」という点でしょう。

つまり、ある人が短期的なコーディングの方法しか知らないと、大規模にしようと思ってもできなくなってしまう。言い換えれば、取得しているメソッドが規模の限界を定めてしまうわけです。

ここで先ほどの「価値が見えにくい」が効いてきます。最初は誰しも小さいコードを書くでしょう。その状況では、たしかに短期的なコーディングが適しています。その状態で、大規模なコーディングの方法を学ぶことの価値は見えてきません。

でも、そのままだとずっと同じ状態に留まることになります。新しい方法を手にしないと、新しい規模にたどり着けないからです。

付言すれば、「大規模なことはできないから、そもそもそれを欲しようとしない」という欲望の先回りの抑制が起こることすらあります。欲さないのだから、やろうとはせず、そのためのメソッドを学ぼうともしません。

人間の短期に偏った認知では、こういう「閉じ込め」(あるいは閉じこもり)が生まれてしまうものなのでしょう。ですので、好奇心はなるべく開いて持っておきたいところです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 集中して作業できるときは、どんな状況でしょうか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、Scrapbox知的生産術の09と二つのエッセイをお送りします。

「Scrapbox知的生産術09」

Scrapboxを、考えを駆動させるエンジンとして使う。それがデジタル・カード・システムの胆である。

もちろん、そのツールがScrapboxである必要がないことは冒頭でも触れた。アナログツールが主流だった時代ではツールの選択肢が限られていたので、「これでやりましょう!」で済んでいたが、現代ではまったく違った環境が広がっている。

だから別にScrapboxでなくても構わない。大切のは「自分の考え」を駆動させるための何らかのシステムを持つことだ。その実装としてどういうツールを選ぶのかは──重要ではあるが──決定的な要因ではない。

必要なのは、自分の考えを文章化して残しておくことであり、その文章にタイトルをつけることだ。そして、もう一つ「関連性を探る」ことも欠かせない。

■関連性を探る

Scrapboxに自分の考えを文章で書く。そしてタイトルをつける。それが終わったら、次にやるのが「関連性を探る」である。そうして書いた文章=自分の考えが、以前までに考えたことと何か関係していないか。それを頭の中で模索するのである。

言い換えれば、「関連する別のページがないかを考える」となる。

とは言え、Scrapboxを使いはじめるとき、誰しもが総ページ数1からスタートするだろう。最初の1ページを書くときには「以前書いたページ」は存在しないので、関連するページはそもそも探せない。

よってこのプロセスは、ある程度ページを書いてから行われることになる。原理的には。

しかし実際的には、あなたが5歳児でようやく言葉を使えるようになって今この瞬間に知的活動を始めた、というのでない限り、「以前に考えたこと」はいくつもあるだろう。そうした「以前に考えたこと」を捜索するのがこのプロセスである。

もし、「以前に考えたこと」と今書いたことが関係あるならば、それもまた文章に書き、タイトルをつける。つまり、新しいページを作ってそこに記述するわけだ。

逆に、「以前考えたこと」がすでにページになっているなら、そのページと今のページをつないでおく。具体的にはリンクをつけておく。そのようにして二つの考えを「接続」するのである。

■関連するページとリンクをつなぐ

上記の工程を、アルゴリズム風に表せば以下のようになるだろう。

ページを書く→「関連する自分の考えはあるか?」

ない→終了

ある→「その考えを書いたページがあるか?」

ある→そのページへのリンクを貼る

ない→新しくページを作り、そこに「自分の考え」を同じように書き、リンクをつなぐ

どちらにせよ、「関連する考え」が存在する場合は最終的にリンクをつなぐことになる。既存のページとリンクをつなぐか、新しくページを作ってリンクをつなぐかの違いがあるだけだ。

よってこの工程を「関連するページとリンクをつなぐ」と表現しておこう。その時点でリンク先があろうがなかろうが、もし関連する考えがあるならば、リンクでつなぐことを目指す。それがこのプロセスの趣旨である。

■進め方

では、上記のプロセスを実際にどのように進めればよいのだろうか。

おそらく初期の頃は、「既存のページが存在しない」ことが多いだろうから、そのバージョンから見てみよう。

まず、最初に自分の考えを文章で書き、タイトルをつける。それを読み返しながら、「ああ、そういればこれはあれとつながっているな」と思いついたとする。

そうしたとき、まずその「あれ」を表現する一文を書き表す。この時点では、精確な表現を追求する必要はない。自分が「あれ」だと認識できる表現で十分だ。

そうした一文を書いて、その文をブラケット([と])で囲む。すると、Scrapboxでは赤色(オレンジ色)のリンクになる。これで準備が整った。

その赤リンクを踏むと、新規ページの作成画面に飛ぶ。そのページでは、すでにタイトルが仮に挿入されている。当然そのタイトルは、先ほど書いた一文である。

あとは、その新しいページ(Bページと呼ぼう)において、「あれ」を文章化していく。ここからは最初のページ(Aページと呼ぼう)と同じ手順である。

違うのはすでにタイトルがついていることだが、これは仮タイトルだと考えておいた方がいい。文章化を終えた段階で、もう一度考えて、そのタイトルがふさわしいかを判断し、もし違っているなら気兼ねなく書き換えることだ。

Scrapboxでは、そうやってタイトルを書き換えると、「他のページでこのタイトルがリンクとして使われているので、そっちも書き換えますか?」という提案が(英語で)表示されるので、それにOKすれば、Aページのリンクも自動的に書き替わってくれる。

この機能があるからこそ、Aページで最初に作るリンクは大ざっぱでも構わないわけだ。最初のリンクは「新規作成ページにジャンプするためのボタン」くらいの気持ちで作ればいいだろう。

■先に文章を書く

上記の方法では先にリンクを作り、その後文章を書いたわけだが、順番を逆にしても構わない。

たとえば、ページAにおいて、思いつくことをばば〜っと書いてしまう。「これは関連することかもしれない」と思っても(つまり、「一つ」以外の要素であっても)、気にせずその内容も書ききる。

その後、文章を読み返したり、並び替えたりして、「これは一つではなく、関連することだな」と判断したら、タイトルになりそうな行を上に移動し、その文章全体を選択した後で、ポップアップメニューから「New Page」を選ぶ。そうすると、一行目をタイトルに、以降を本文にした新しいページが作成される。

やっていることは先ほどと同じで、ページを作るタイミングが先か後か、だけである。

ちなみに、この「New Page」機能で新しくページを作る行為は、よく「ページを切り出す」と表現される。一部を切り取って別の場所に持っていく、イメージとしては「のれん分け」が近いだろうか。

もちろん、そうして切り出したページ(Bページ)へのリンクも、もともとのページ(Aページ)に自動的にはりつけられる。ページは切り分けられるが、ページ同士の情報的なつながりは残されるわけだ。

この「New Page」機能があるおかげで、Scrapboxでは最初から「一つのこと」だけを書かなければならないという窮屈な制約から逃れることができる。

最初は雑多に書き出せばいいのだ。そうして書き出した後に、改めて読み返し、その対象について考え、「一つ」になるように整えていけばいい。これもまた、思考の負荷の分散と言える。

■すでにページがある場合

上記は既存の関連ページが存在しない場合であった。では、既存のページが存在しているときはどうすればいいか。

やりたいことは同じである。そのページへのリンクを貼ること。

たとえばこれが、Evernoteであれば、「そのページ」(ページB)をノートブックリストから探したり、キーワード検索した後目視したりして、まず発見する必要がある。その後、ページBのノートリンクを取得するか、あるいはそのノートをエディタにドラッグすると、リンクを貼り付けられる。

正直に言って、これは手間である。ノートの数が増えるほど、その「手間」度合いは上昇する。

一方で、Scrapboxではそうした手間は必要ない。

ブラケットの中に、求めているページのタイトルを入力すればいい。しかも、開きブラケット([)を入力したら、自動的に閉じブラケットも入力されて、その間にカーソルが移動するので、操作としてやることは、「開きブラケットの入力→テキスト入力」という簡易なものである。

しかも、このブラケット内ではサジェストが機能する。入力した言葉に適合するページタイトルが表示されるのだ。

たとえば、「Scrapboxの使い方」というページなら「Sc」と入力した辺りでサジェストが出てくるだろうし、似たタイトルのページが複数あっても、「Scrapboxの」まで入力すればだいたい見つかるはずである。

さらにこのサジェストは1文字分の誤差なら許容してくれる。たとえば、「Scrapboxの使い方」というページを探して「Scrapboxの遣い方」と入力しても、きちんと「Scrapboxの使い方」を提示してくれるのだ。

だいたいにして、人間の記憶はうろ覚えが多いわけで、たとえ一文字分であってもこうした誤字を許容してくれるのはたいへんありがたいものである。

ともかく上記のようにブラケット内に該当ページのタイトルを入力すれば(それも全文ではなく限定できるキーワードを入力すれば)、目的のページが見つかるので、あとはそれを選択すればいい。

非常に簡単に関連あるページと接続できる。

■改めてタイトルづけ

上記のようなタイトルによるリンク作りの簡便さがScrapboxを使うときの魅力であるわけだが、だからこそタイトルづけが重要になってくる。

なにせそうしてつけたタイトルによって、そのページを後から呼び出すのだ。思い出しにくいタイトルや、内容とあまりにもかけ離れたタイトルをつけると、上記のようなリンク作りが困難になることは想像に難くない。

Andy Matuschakが提唱したEvergreen Notesの考え方に「Evergreen note titles are like APIs」があるが、これは言い得て妙だろう。

API(Application Programming Interface)とは、ごく簡単に言えばソフトウェアが外部とやりとるする窓口のようなもので、その窓口を通すことで、簡易に情報のやり取りが可能になる。

たとえばTwitterにもAPIがあり、それを使えば私のような日曜大工プログラマーでも自分のプログラムからツイートを投稿したり、取得したりができる。Twitterページが提供している機能を、外部のプログラムでも簡単に使えるようにする仕組み。それがAPIである。

そのAPIは、Twitterの開発者ではない人が使うのだから、コマンドなどはわかりやすく命名されている必要がある。ツイートを取得するためのコマンドを適当に testDVSD などと名付けていたら、外部利用者はさっぱりだろう。それよりも getTweet などの方がはるかに親切である。名前の付け方が肝要なのだ。

同じことはScrapboxのページタイトルにも言える。

自分でつけたタイトルによって、未来の自分がそのページを引き出す。そのタイトルが適切であればあるほど、引き出しやすさが上がる。だからこそ、タイトルはそのページの要約になっているのが望ましい。なぜなら、要約とは「自分がその内容をどのように認識しているのか」の端的な表現(言語表現)だからだ。

その表現は、未来の自分が「あれ」について言語表現しようとしたときと高い確率で重なることになる。だから、引き出せるのだ。

よって、Scrapboxではひねったタイトルや格好をつけたタイトルはつけない方がいい。むしろ率直であればあるほど望ましい。その率直さこそが、将来の自分がブラケット内に入力するキーワードとの近接を生むことになる。

また、タイトルは多少長くなっても構わない。必要そうなキーワードを恐れずすべて入力すればいい。なにせ、ブラケット内でタイトルをすべて入力することはないのだ。だいたいはサジェストで絞り込まれる。だから、長いタイトルも気にしなくていい。

それよりも、適切なタイトルを(あるいはその一部を)思い出せないことの方を気にした方がいいだろう。

(つづく)

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