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自分と向き合うことは愛だ。逆境を力に変える方法。

過去に虐待を受け、今を強く生きていく人たちを発信していくインタビューメディア「RASHISAストーリーズ」。第3回目は、田中さん(匿名/以下、田中さん)に登場いただきました。

現在は、起業し事業へ打ち込んでいる田中さん。しかし、幼少時代は母の死、父からの虐待と戦い続ける日々…。そんな過去をはねのけ、新卒で都内の企業に入社し、その後起業。その過程で得た学びや、コンプレックスとの向き合い方にフォーカスして、強さの根源へ迫ります。

田中さん|熊本県出身。都内K大学卒業後、都内の企業へ入社。数年で新規事業部の営業へ抜擢されるも、起業を決断。

辛いことが重なった幼少期。自衛の大切さを学んだ

――どんな幼少時代を過ごしてきましたか?

僕が生まれて半年後に母が亡くなり、祖父母の家で幼少期を過ごしました。祖父母にはたくさん甘えさせてもらいましたね。それを見かねた父に、小学校入学と同時に引き取られ、父、兄と一緒に3人で暮らしていました。

――小学生で環境が変わったんですね。お父さんとの暮らしはどうでしたか?

とにかく礼儀作法に厳格な人なので、かなり厳しく育てられました。茶碗の持ち方ひとつで青あざができるほど叩かれる、なんてこともありました。

――厳格な方だったんですね。

はい、絶対に自分を曲げない人です。祖父母に優しく育ててもらった僕を「ダメな大人になるんじゃないか」と心配していました。そのせいか、小さいころからやりたい事を快諾してもらったことがないんです。そのおかげと言っては何ですが、「やりたい事を、否定せずに応援してくれる方が力を発揮できる」と学びました。

――当時は、虐待行為からどんな風に身を守っていましたか?

出来る限り父から逃げていました。父の逆鱗に触れないよう、あまり話さないとか。

――家庭内で避けるのは相当なストレスですよね。心の拠り所はありましたか?

間違いなくいとこですね。僕の家族とは対照的に、みんながフォローしあって生活しているような家庭だったので。いとこの存在は現在の価値観に繋がっています。

――よく耐えられたなぁ、と思います。

兄と2人で「大人になったら父と縁を切ろう」と約束するくらいなので、かなり辛い思い出ですが。でも中学、高校と寮に住めたことは大きかったです。

――中学生でお家を離れたんですか?

はい、平日は父から距離を置けたので精神的には楽でした。大学入学と同時に上京しましたが、年に何度か顔を合わせる程度なら暴力を振るわれることもないので。「丁度いい距離感を保つことが大事だ」とも学びました。

――早くに決断できたことがターニングポイントになったのかもしれませんね。

取るべき行動を取れたのは、虐待を受けながらも自分と向き合い続けてきたおかげかなと思います。いとこの家庭がそうだったように、僕も自分を守る安全地帯を探すことができました。父からの暴力を受け止めるのは辛かったですが、思考を止めずにアクションを起こしたことで今の自分があります。

父とぶつかって獲得した内定。その先に見たものとは?

――自分と向き合うことが求められる就職活動は、相当辛い経験だったのでは?

そうですね、初めて父に逆らった時期でもあります。僕が新卒で入社した教育関係の事業をやっている会社はあまり有名ではなく、父からは認知されていませんでした。入社のOKをもらうために、かなり頭を捻りましたね。

――それは難しそうですね。どうやってOKをもらったんでしょうか?

父が社長だったので、そこに敬意を払いつつ承諾をもらった感じです。「お父さんのように自分で考えながら仕事がしたい」、「お父さんの言うことは正しいけど、言われた通りにしていたらお父さんのようにはなれない」とか、とにかく父への尊敬を前面に出して説得しました。

――かなり熱い気持ちを持って入社したんですね。

はじめこそ教育業界は視野に入れていなかったんですが、作りたい世界が僕と合致していたんです。就労支援とか、子供の教育を通して弾圧のない社会を目指したいと思いました。やっぱり、世の中に発信されるスピードはビジネスが一番早いので。

――そこではどんな学びがありましたか?

「教育はひとつの手段に過ぎない」ということです。結局、言葉で教えることができないところに本当の"教育"があるんです。それは、生きている中で直面する問題や、経験の中で成長することにあると思います。その結果、「やりたいことを否定されるような意味のない弾圧をなくそう」と決意し、起業に至りました。

――アツいものを感じました。現在はどんな事業を手掛けていますか?

最近、起業をして、代表をしています。現在はワインの販売ルートを開拓する営業が主な業務です。

――話の中でワインとありましたがどうしてワインを選んだんですか?

ワインの持つ背景が面白いなと思って事業に選びました。お酒の中でもワインは好きなボトルとか、テロワールでファンのコミュニティーができやすいと思うんです。「このボトルを飲みたいから集まろうよ」みたいな(笑)。

――確かに、ワインって人を繋ぎますね。

そうなんです。しかも、コミュニティが広がりやすいのも特徴だと思います。既にあるコミュニティーの誰かが人を誘って、その輪がどんどん大きくなっていく感じで。

――"ワインの持つ背景"に惚れ込む理由が分かった気がします。

日本人って割とせかせかしてる人が多いですよね。実際に、心の余裕がなくて、鬱になってしまった人たちのことを、何人も見てきました。でもワインを飲む時って、おつまみを食べながらゆっくり味わうことが多いと思うんです。そんな風に、自分を大切にする時間を提供したいですね。

――将来的にはどんなものを作りたいですか?

自分のやりたいことをやってお金を稼げる人を増やすのが目標です。好きな事を仕事にするのって誰しも憧れるとは思うんですが、諦める人が多いのも事実なんですよね。じゃあ、どうしたら解決できるのかと考えた時に、やっぱりお金のサイクルは必要となります。やりたい事をきちんとやる、同時にお金もしっかり稼ぐ。その先に夢があると思うので。

――現在の価値観は、過去の経験から得ている部分が多いのでしょうか

過去の出来事は辛いものですけど、その分前向きになれているのも事実です。誰よりも理不尽と戦ってきた自信がありますし。やりたい事を今できているからこそ、同じように夢を追う人たちの力になれればと思います。

過去やコンプレックスと向き合い、自分の力に変える方法

――最後に、過去の体験を乗り越えようとしている人へメッセージをお願いします。

なかなか克服できるものじゃないですが、”虐待”を捉え直してみてほしいです。もちろん許せない気持ちもあると思いますが、耐えてきた自分がいるのも事実。その経験があるからこそ、強い自分になれるのです。

――確かに、逆境を乗り越えてきた人は強いですよね。

そうです。強いコンプレックスや過去を持っている人は強く生きられると思っています。だから、すべての過去も含めて、自分のことを認めてあげて欲しいです。辛い経験をした唯一無二の人間として、社会に何ができるかを考えてみてください。

――「過去もすべて自分」と受け入れるには、かなり勇気が必要だったのでは?

小さい頃に「暴力からは何も生まれない」と気付けたので、受け入れるのに時間はかかりませんでした。虐待を通して何を学んだのか、どんな覚悟を見出せるかを真摯に考え続けたのが良かったと思います。

――自分と向き合い続けることが、自分を愛することなのかもしれませんね。

同じように悩んでいる人の助けに必ずなるので、自分の気持ちと向き合うことは大切です。「虐待を受けたから人生が終わり、ということは絶対にない」。これだけは言い切れます。僕の好きな言葉に「過去は変えられないけど、過去の捉え方は変えられる」というのがあるのすが、この事を忘れないでいただければと思います。

取材/岡本 翔
文/キムラアヤ
編集/角田尭史


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