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不敵な笑みと踏切

この物語は、出てくる場所以外は全てフィクションになります。ご承知おきください。
何の物語かは1番最後に分かる形になっています。

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2019年の春、撮影の仕事の依頼が入り、千葉県柏市の柏駅に来ていた。
17:00頃でもまだ空は明るく、日没の遅さが冬の終わりと春の到来を告げている。

『もう冬も終わりか…』

そう思いながら待ち合わせ場所で約束の時間まで待っていると、駅の方面から彼女が歩いてくるのが見えた。

制服姿の彼女は、周辺にいた部活終わりや塾に向かうであろう学生達に完全に溶け込んでいた。

私はそこに違和感を感じたが、そもそも彼女も学生なので、当然と言えば当然だった。

挨拶を含め、少し会話をした後に撮影をするために目的地に向かった。

場所は駅から歩いて15分くらいの場所にある公園で、駅前にも関わらずタクシーが捕まらなかった為仕方なく歩いて向かうことにした。

制服姿の女の子と一緒に夕方の駅前を歩くのは少々気が引けるが、やむを得ないため他人の目を気にしながら歩いた。

駅から少し歩くと栄えていた街とは一転落ち着いた街並みになり、住宅街が出てきた辺りで目的地に着いた。

[柏西口第一公園]

時間もそれなりに遅かった為、子供達は公園には見受けられず、閑散としていた。

ぱっと見住宅街の中の普通の公園といった感じだったが、少し変わった建造物が目についた。

本物の蒸気機関車だ。そしてその横にレール、その先には踏切まで丁寧に置いてある少し変わった公園だった。

蒸気機関車はわかる。オブジェクトとして映えるだろうし、公園の名物にもなる。だがそこにレールと踏切まで置くのは、公園を作った人の電車への大きなこだわりを感じる。

私は、彼女はこの公園のオブジェクトを入れた撮影をしたかったのかと勝手に納得していた。

ところが撮影に指定された場所は全くそのオブジェクトが見えない普通の遊具の前で、私はすこし拍子抜けした。

やはり彼女は何を考えているのかあまりわからないなぁと深々と思いながら撮影の準備をした。

日も落ちきり、公園の街灯ぱちぱちとつきはじめ、その光がが遊具の影を伸ばす。

彼女が遊具の前に立ち、撮影の準備が整った。

『では撮りますよー。3.2.1.』

シャッターを切る直前、何故か彼女は不敵な笑みを浮かべ、何故か公園内の踏切のオブジェクトの方向に目を向けた。

撮れた写真は珍しくも少し不気味というか、不安さを感じさせるような、そしてそこに美しさを感じさせてくれる写真になった。

彼女に写真の確認を取ったが、どうやらこれを求めていたらしく、余計彼女が分からなくなった。


何故この公園なのか、何故あの表情をしたのか、そして何故踏切に目を向けたのか、私は何も分からないまま、彼女の言う次の撮影地に向かった。

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