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『天翔ける十字軍』レビュー

文庫版表紙

『天翔ける十字軍』

ポール・アンダーソン(著)/豊田有恒(訳)

「外れなし」の異名を持つポール・アンダーソン先生の書かれた異色SFです。

時は西暦1345年、英国の男爵ロジャー卿と臣下たちは、エドワード三世のフランス遠征に参加すべく、その準備をすすめていた。
と、その時、天空より一隻の巨大宇宙船が飛来したのである。
その宇宙船こそは地球侵略のためにワースゴル人が派遣した先兵なのであった。
だが、防御スクリーンや光線砲などの侵略者の超科学兵器も、中世の騎士たちのフィジカルで振り回す長槍、大剣、戦斧、大弓などの敵ではなかった。
未来科学の粋を集めた宇宙船に逆に襲いかかる肉体的な暴力!
たぎる血潮の勢いのまま反撃し、逆に宇宙船を占拠したロジャー卿たち。
しかし、勝利に酔い安心したのもつかの間、捕虜の宇宙人の奸計にあい、はるか宇宙のかなたまで連れ去られてしまうのであった!

冒頭のあらすじ

というかんじの中世テイストSF。なんだか言葉通りの意味でのスペースオペラ(?)になっています。

面白いのは全編がその十字軍の宇宙遠征に帯同した愚僧ことパーブス修士(修道士)が過去を回想してしたためた年代記という設えになっていることです。
なので、言い回しがとっても古風。それなのに光線兵器は出てくるわ超光速航法は出てくるわ。この文体と出来事のギャップがまず面白い。
宇宙人の高度な科学技術なんてさっぱり理解できなくても、中世キリスト教のお坊様が見聞きしたことを、彼の言葉で語っているってところがよいですね。SF小説の技法的にも感心してしまいました。中世的リアリティ!(訳者の豊田有恒さんの技の妙かもですが)

そして、単純に高度に発達した科学文明が逆に超ローテクな暴力で蹂躙されてしまう痛快さも素晴らしい。
いわゆる弱者が強者を制す逆転的なネタなわけですが、これをそれだけのネタに終わらせず、しっかり長編ストーリーにまとめ上げてくれています。

古代の単純な暴力にやられてしまう、高度に発達した宇宙人側が、まるで官僚主義に陥った現代社会への皮肉にもなってるようにも読めるところも秀逸。ですし、中世の人類側のドラマもしっかり描かれています。(ちゃんと中世な英雄物語的になってるところもグッド)

これだけひねった設定の面白いものを1960年に書かれてたのですから、ほんと、さすがは「外れなし」のポール・アンダーソン。といったかんじです。

年代的にはもう古典に入る作品とおもいますが、ひねりがきいていてとても面白かったです。

たまにこういった古いSFを読んでみるのも面白いものですヨー☆

※問題は銀背はもちろん文庫版も絶版なこと……。ハヤカワさま、電子書籍化希望です!><


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