『150年前の科学誌『NATURE』には何が書かれていたのか』レビュー
「150年前の科学誌『NATURE』には何が書かれていたのか」
瀧澤 美奈子(著/文)
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前回紹介したファラデーの『ロウソクの科学』は今から１６０年前、1860～61年にイギリス王立研究所で行われた講演が元になっていました。
そのファラデーの講演から約10年後、1869年に、同じくイギリスで産声を上げた科学雑誌がご存じ『NATURE』です。
NATUREって150年も続いてる雑誌だったんですね！！（びっくり）
そんでもって、ファラデーが始めたイギリス王立研究所の金曜講演（毎週金曜日に科学の講演をするです）の伝統ももう160年続いてるってのにもびっくり。さすがは大英帝国ですねえ。
さて、そんな歴史の国、イギリスの150年前はどのような所だったのでしょう。
だいたい、ヴィクトリア朝時代の後半。大英帝国が絶頂期を迎えはじめていたころ。シャーロック・ホームズが活躍をはじめる20年ぐらい前（ちょうど生まれたころ？）といえばなんとなく雰囲気がわかるでしょうかｗ
科学者（scientist）という呼び方もまだなく、もっぱら科学愛好家（men of science）といわれていたそうです。（きっとホームズも自分のことをそういっていたのでしょうねー）
で、太字にしましたけど、Menってことは？ そうです、男性だけが科学愛好家たりえた時代だったのです。
当時イギリスは女性の参政権もなければ、女性には資産の保有がみとめられず、結婚後は持参金もすべて夫のものになるという法律（！）があり、事実上離婚などできない社会だったそうです。当然大学にも入れないし、一般的な職業につくことも不可能だったとか。今からみたらとんでもないですね！＞＜
そんな時代にあって、科学する心を燃やした女性たちが権利の主張をはじめたのもちょうどNATUREの創刊のころだったようです。
「未来の歴史家は、1869年を女子の教育の権利が初めて明確に認識された年と呼ぶだろう」
なんてことを創刊間もないころの巻頭記事に書いたりして、（一般男性読者からの非難をおそれつつも）NATURE誌としては女性の権利向上に一役買ってくれていたようです。
そのほか、ちょうど創刊当時の科学界の話題としてはやっぱりダーウィンによる進化論『種の起源』にまつわる大論争。当然ですがまだまだ動物はその形のまま神様に生み出されたと一般に信じられている社会で、科学的な考え方そのものを啓蒙していくことにNATURE誌はだいぶ紙面をつかっていたことが紹介されています。
興味深いのは、論文や紹介記事だけでなく、読者投稿（による討論）がかなり重要視されていたところです。やっぱり英国の気質でしょうか、論争相手に敬意を払いつつ（最初にもちあげておいて）遠回しにグサリと否定する語り口はなんかもぅイヤミったらしくて面白いのなんのｗ
今のＳＮＳの炎上みたいなことが当時の雑誌で行われていたんですねえ。（ちなみにNATURE誌は週刊誌なので、当時の読者には月刊誌だったほかの科学誌とちがって、まるでリアルタイムの論争のように感じられたことでしょう。もしかしたら世界初の炎上商法だったのかも？（それも当事者じゃなくてメディアの運営側、ってのは上手いですねｗ））
お互いイヤミったらしい言葉をぶつけ合うものの、 men of science たるもの、あくまで紳士的に。科学には真摯に平等に。正しいものは正しくあつかう科学的な精神。騎士道というかプライドのようなものが読者にも、そして編集者にもあるように感じました。おそらく、最初の編集方針がきっちりとこの科学的精神にのっとっていて、ブレなかったことが、150年という驚異的な長期間雑誌が続いてきた秘訣なのかもしれませんね。
半世紀ののち、好奇心を抱いて
NATUREのバックナンバーを読む読者たちはおそらく、
笑みをうかべて私たちがベストを
尽くしたことを知るでしょう……
ちょっと余談：150年前の日本は……？
ちなみに、日本ではNATURE創刊の前の年が明治維新にあたり、江戸時代が終わり、近代化がはじまった。そんな時代でした。
ちょんまげを切り捨てて、ざん切り頭を叩いてみれば文明開化の音がしていた。ちょうどそんなころの日本の状況が世界からどのようにみられていたのか。も、NATUREにがっつり乗っています。
創刊の年に、すでにかなり詳細にわたって日本が紹介されているそうです。
これがまたなかなか興味深くて面白い内容（意外に正確です）。
この本の最終章をまるまる使って和訳が解説つきで乗っています。こればっかりは、ぜひ本書をご覧ください。おもしろいですよーｗ
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