『吾輩ハ複働四七ノ内火機械デアル』レビュー
『吾輩ハ複働四七ノ内火機械デアル』
横須賀海軍工廠造機部(著) / ヤンマー株式会社百周年記念出版
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いきなりですが、今回はかなり入手困難なレア本の紹介ですすいません><
こちら、耕運機で有名なヤンマー株式会社の100周年記念出版(2012年)の本。ヤンマーなので、耕運機のエンジンの話かとおもったらそうではなく、今からおよそ90年前(昭和9年)の、当時のヤンマー副社長、近藤市郎氏が海軍時代に携わった、潜水艦用ディーゼルエンジンの開発記録です。帝国海軍内にディーゼルエンジンの重要性を知らしめた技術報告書であり、表紙スタンプにあるように(当時の軍の)極秘文書。その完全復刻&現代語訳なのです。
そう、技術報告書で極秘文書。なのに、全文にわたって夏目漱石の『吾輩は猫である』風に、なんとディーゼルエンジンの一人称で語られます。当時最新最先端の極秘エンジンが「吾輩ハ…」と言って語り出すわけですよw
つまり、旧日本帝国海軍の公式擬人化本なんですこれ!!
そんな報告書が90年前に書かれていて、海軍内で真面目に閲覧されていたというのですから、なんだかおもしろくなります。でもって、当時の海軍の(技術者の)お茶目っぷりが感じられて嬉しくもなってきちゃいますねw
本書の前半はこのような原文をそのまま複写した完全復刻版。
ただ、これだと現代ではちょいと読みにくいので、後半に読みやすく現代語訳が入っています。
ちょっと転記すると
こんなかんじ。ばっちり読みやすくなっています。
このあと、「吾輩」の祖父や父にあたる実験用エンジンの開発エピソードがやっぱりエンジン視点で語られて、それから「吾輩」自身の開発が成長物語のように語られているというわけ。
文学作品のパロディになっているだけでなく、しっかり技術報告書でもあるわけです。当時のプロジェクトXが「吾輩ハ」文体で書かれていて、そして読みやすく現代語訳されている技術資料であることで、ワタシ的にはもうご飯何杯もいただけるかんじなのです。めっちゃ面白くて興味深い大好物なのでアリマスw
なお、当時のディーゼルエンジンは蒸気タービンエンジンと並んでこと艦船のエンジンとして最高最新のテクノロジーでした。
この『吾輩ハ複働四七ノ内火機械デアル』は、一報告書であるにもかかわらず海軍内で大変評判になり、国家的な超最高機密であった戦艦大和のエンジン開発でも参考にされたそうです。
そのあたりのエピソードはこちらのPDF
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime/44/1/44_1_171/_pdf/-char/en
でもかかれています。
でもってこれ、繰り返しますが軍の機密文書なんですよね。
もともと、ヤンマー元副社長の近藤市郎氏が機密文書なので秘蔵していたものを、氏のご他界後に遺族の方が発見し上のPDF文書(元近藤氏の部下)の村田正之氏の手をへて公開されることになったのだそうです。すばらしいー。
しかし、残念ながらこれ、非売品なのですね。関係者に配られただけなんでしょうか。せっかく現代語訳がとてもよくできているので、せめて訳文だけでも普通に出版してくれませんかねえ。軍の文書であったのでしかたないかもしれませんけど、現代の内燃機関につながる重要な技術史文書だとおもいます。これが一般にしられてないのはほんともったいないですわー><
なんとか読めないかと探してみたら国立国会図書館には入っていました!
読みたい方は国会図書館にゴー!です!w (でもやっぱ敷居高いですねー><)
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