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『フシノカミ~辺境から始める文明再生記~』レビュー

1巻表紙

『フシノカミ~辺境から始める文明再生記~』

雨川水海(著) / 大熊まい(イラスト)

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全7巻。
冒頭から本好き、物語好き、技術史好きのハートをわしづかみにしてくる、めちゃくちゃに心を震わさせてくれる、本への愛が詰まったストーリー。
このたび堂々の完結です。

歴史上、数多くの暴君が、本を滅ぼそうとしてきた。焚書、ビブリオコーストという、本を焼くことだけを指した言葉すらある。
《中略》
常に本を見張り続け、絶え間なく本を消し去ろうとする、無慈悲にして勤勉なる暴君の名を、時と言う。

1巻冒頭より

そんな無慈悲な「時」に抗い、本を、その本に込められた思いを、情報を、慈しみ、守護して広め、一生をかけて未来に伝えていこうと心に誓った8歳の少年、アッシュ。
少年は辺境の村の農家の生まれ。なぜか前世の記憶を持つ彼は、栄華を極めた人類文明の「快適な生活」を覚えているのです。が、今世で彼が生きるのはまるで中世暗黒時代のような世界。電気ガス水道といった近代的なインフラはもちろん存在せず、ド田舎の農家の子供が教育を施されるなんてことは「あり得ない」のが普通の世界。当然識字率も最低で、その村では教会にこもる神官と村長一家程度しか文字を読むことができないという社会でした。

ゲームに例えれば超ハードモード、ナイトメアモードのような逆境の中で、まだ小さな少年は、前世の記憶にあるような「快適な生活」を目指して、猛烈な勢いで本から知識を学び、この時代の人々の記憶から忘却されてしまったという高度な古代文明を再生させようとします。
たった一人の小さな力では無理でも、多くの人を巻き込んでいけば、いつか、あの前世の記憶の、すべては無理でもごく一部でも現世でつかめるのでは……。
その、貪欲で強欲な燃えさかる渇望は、神官や隣人を動かし、やがては世界を動かしていきます。

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主人公は、もちろん(1巻の段階ではまだ少年の)アッシュなので、基本的にアッシュの一人称視点なのですが、彼に思いを寄せる幼馴染マイカや、まきこまれる人々の一人称視点にたびたび切り変わり、アッシュがどれだけ人の心を動かして(まきこんで)いくのかが直接感じられる、ラノベ的にわかりやすくもちょっぴり変わった書かれ方をしています。
各巻のラストで語られるさらに未来からの視点で、じつはこの本は、《フシノカミ》というアッシュの物語を原典として、周りの人々の視点を加えた『編纂版』であることが明かされます。つぎつぎ変更される視点の移動と、それぞれの主観で語られる展開は、そういうわけだったのねとわからせる、とても上手い構成です。(テクノロジーの発展的に、「え? その順番でいいの?」なんてところもありましたけれど、まあ、後年の編纂ならそういうこともあるかなあなんて思っちゃったりw)

ある意味超人と言えるアッシュ視点での盛り上がりだけでなく、他者の視点が主観となった時のインサイド感も半端ないです。
普通、スーパーマンのヒロインに感情移入なんて(私は)そうそうしないしできないのですが、今回のヒロインで幼馴染のマイカ(だけじゃないけどw)視点はなかなかに強烈でしたw
超人アッシュの文明再生記という強引な物語に、等身大の、当初はまだ幼い、かわいらしいマイカのあこがれや恋心から、やがて極太で強烈な愛情がはぐくまれていくラブなストーリーはもうぐっときっぱなしw
1~2巻ではまだまだ子供時代のお話ですけれど、巻を重ねるにつれて大きくなる彼や彼女の思い、自分よりも相手を、相手の夢を支え、求め、人生すらさしだしても構わない強烈な愛の物語でもありました。泣けますよー。
(´;ω;`)ブワッ

「本」の意義や文明のすばらしさや大切さだけでなく、人としての生き方、人生の「まっとうな」歩み方を、感性にぐぐっと訴えかける絶妙な語り口で教えてくれる、素敵な作品でした。普通のラノベや転生ものと思って読むと、びっくりするとおもいますよー。おんもしろかったー☆

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イラストを担当された大熊まいさんのコメント。ほんとそうですネ。(´;ω;`)ブワッ

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そうそう、この『編纂版』の、さらにコミカライズ版も出ているようです。(アニメ化もしてほしいなーw)
現在コミック版は最新が3巻で、だいたい『編纂版』の1巻後半までの内容になっていますね。コミックのほうはまだまだ物語が始まったばかりなので、続巻が待ちきれなくなりそうですが、こちらもお勧めです☆彡


#雨川水海 #大熊まい #文明再生 #技術史 #異世界物に見えて実はSF #らせんの本棚

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