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Ensitrelvir(エンシトレルビル, ゾコーバ®️)断想

資本主義下での医療を所与のものとしている訳じゃないですよ、と、まずは言い訳。

臨床的に有意なエンドポイントを達成したことが証明されていないとわかっていても、色々な思惑・しがらみから「国産抗ウイルス薬」の旗を振らざるを得ない立場というのはあるんだろうなとは想像します。

但しそれは専門家としてのプロフェッショナリズムを賭けて個人でやってほしい。それに「理事長名義で」「2学会合同の」声明を出してしまうのは本当困ってしまうし、個人的には漫然と所属してきた学会を退会するのに十分な理由と思いました。

現に四柳参考人は2022年7月20日開催の「薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会(薬事分科会・医薬品第二部会(合同開催)を含む)」参考資料(画像クリックでPDFに飛びます)において

【資料No.5-1】四柳参考人提出資料
【資料No.5-1】四柳参考人提出資料(PDF:2.32MB)

Covid-19の臨床試験における多様な指標について言及し、今後の内服抗ウイルス剤に期待されるべきこと(伝播の抑制、Long Covidの予防・治療)を述べ、ゾコーバ®️にはその「有効性の推定が可能」としている。

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【資料No.5-1】四柳参考人提出資料(PDF:2.32MB)

この結論について、個人的に同意しないまでも、全体を読むとめちゃくちゃ変なことは言っていないように思えます。問題となった提言の文言「新しい抗ウイルス薬の臨床試験において、抗ウイルス効果は主要評価項目の一つです。新型コロナウイルスの変異株の出現に伴い、臨床所見が大きく変化している今、抗ウイルス効果を重視する必要があります」についても、そういう立場で堂々と議論されれば良いと思うだけの妥当性はあります(新型コロナウイルスは存在しない、とか、mRNAワクチンは毒、とかみたいな、科学的議論が成立しない種類の立場ではないし、こちらのTweetは端的にEBMを誤解していると思う)

それだけに突然、理事や評議員との事前討議なく(ごく一部の先生には事前に伝わっていた模様)「理事長名義で」「2学会合同の」声明を出してしまうようなirregularな振舞いにはなにか理由がおありじゃないんですか?と、ご開示のCOIについて(それこそ、もしかすると痛くもない)腹を探られる顛末となるわけですね。

まとめると、四柳先生としては
・抗ウイルス効果によって伝播を下げる「可能性がある」
・抗ウイルス効果によってLong Covidを抑制する「可能性がある」
という論陣を張りたいのかと推測しました。

それに対して僕の感じた問題点は
1. それは実際に施行された試験の適切な解釈ではない
1-1. ましてその解釈をもとに認可されるべきではない
2. その拡大解釈を塩野義製薬とのCOI(+)で披歴した3. 学会理事や評議員、学会員への事前周知なく「提言」を出し、その中に露骨に薬剤名は書かれていないもののゾコーバ®️寄りの内容を忍ばせた
の3点です。

******

ただ、より大局的にはおカネの問題は「避けがたい」問題であって
感染症業界の最大の困難は
「適切な抗病原体治療が資本主義下での医療と相性が悪い」という事
だと思うんです。
おカネなしのただしさは無力というか。

リウマチ科なんかは、お恥ずかしながらCOIの塊・煮凝りみたいな感じで、しかし(仮定として)日本リウマチ学会の理事長が個人的利益を重視して、例えば(これも仮定として)日本臨床免疫学会と共同で「この前の臨床試験で効果があったナントカニブの承認を!(実はnegative trial, 臨床試験に理事長が濃厚に関与)」とか声明出したら、考えられる限りのフルボッコが起きるというか、業界的に生存不能になると思うのですが、それというのも偉い先生方の懐とIFが他のナントカマブとかカントカニブで潤っているからと言えなくもないという。
衣食足りて礼節を知るというか。
知る人ぞ知る「特定の著者の書籍を学会場に置かない騒動」「人を対象するのはいじめでは」みたいなレベルの低い話はひとえに「儲からないから」起きてるんじゃないかと邪推してしまいます。

僕自身はそういう全般的潮流が嫌いなこともあって学会の本流から外れたところにいるものの、それでも「何やかんやで業界におカネが入る」→「僕のようなアウトローを含めて飼っておける」→「若手に適切なリウマチ科診療を教育する機会も増える」という裾野を拡げる効果はあるわけで、全く自分の手がクリーンと言うつもりはないです。はい。

製薬企業のサポートなしに医師のプロフェッショナリズム・矜持に基いて〔金銭的に独立して・つつましく〕やっていくのが最も素晴らしいのだけど、製薬企業が儲けないと「安くて昔からある良い薬」を市場に残すことも困難になるというジレンマがどう解決されるのか、個人的にはわかりません。

今後、医師という職業の安定性・強者性に厳しい目が向けられるようになり、国民皆保険制度が保証している部分の収入はより一層不安定になっていくと予想します(国内の業界としても、医療従事者としても「儲からない」)が、そこで矜持を保つことは可能なのか。「職業としての医師」の側面をより強く出していくことになるのか、はたまた(それが可能な医師は)COIとして透明性を維持さえしていれば良いとの発想で製薬企業とより一層強く結びついていくのか。どうなんでしょうね。

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おくすりやさんのお金と処方行動

ほんとうに思いついたことをそのまま出力しただけで、不快な思いをされる先生もいらっしゃるかと思いますが、まずは考えたことのメモとして。

以下有料部分ではヘッダー画像の「テカテカのおっさん」が誰なのか、というネタばらしをしています。麦茶を奢りたくなったらどうぞ。

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