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ミステリーもファンタジーも相撲で解決『雨の日も神様と相撲を』は不思議で爽快なボーイミーツガール

――結構な冊数の漫画を読んできました。
オタク太宰のような冒頭で突然どうしたと思われるかもしれませんが、まぁそう言いたくなるくらいには漫画ばっかり読んできたオタク人生だったため、非常に良くないことなのですが何かの要素が突出した内容じゃないと心に残らなくなってしまっています。
今回紹介する『雨の日も神様と相撲を』(全3巻)も実はさらっと読み流すつもりでしたが、かなり鮮烈に心に残りました。

●個人的かつ根源的な恨み

さて、この漫画は城平京 先生原作小説のコミカライズになります。
皆さんは城平京先生をご存じでしょうか?
絶縁のテンペストや虚構推理などの原作を担当している作家ですが、僕にとってはかなり思い入れのある、恨み深い作家です。
僕は、「スパイラル~推理の絆~」の結崎ひよのがマジで好きでした。
これだけで伝わる人には伝わるかと思いますが、とにかく僕は、先生が原作を務めたガンガンの名作「スパイラル~推理の絆~」が好きで、最終巻を読んでマジ泣きをしたのです。
そんな10代の僕に一生癒えないような強烈なトラウマを残した作家である城平京の作品が、面白くないわけがないんですよね。

●あらすじ

この物語は小柄で細身だけどめちゃくちゃ相撲に造詣が深くやけに賢い主人公カエルを神様と奉るちょっとヤバい風習の村に引っ越してくることから始まります。
しかもその村では相撲が大きな価値を持っており、神様であるカエルの声を聞けるかんなぎの一族であり怪力の能力を持つ「遠泉家」のお嬢様は、村のカエル達が外来種のイチゴヤドクガエルに相撲でボコボコにされたことを危惧して、相撲に一家言ある主人公に教えを請います。
ちなみにこの怪力お嬢様は村の因習により将来カエルになります
また、このちょっと奇妙だけど平和な村ではトランクに詰められた死体が発見されます。そのトランクの中にはコバルトヤドクガエルの死骸が入っていたのだった……

よく分からないですよね!
僕も1巻を読んでいる時には「一体これはなんの話なんだ……」と困惑しました。
この物語は様々な要素がごった煮になっています。
村の信仰や神事はまるで伝奇物や田舎ホラーのようですし、カエルと意思疎通ができる怪力お嬢様など非常にファンタジーで、カエル同士の相撲対決はスポーツ物として耐えうる内容だし、殺人事件というミステリー要素もあります。
しかしながら一番重要な要素は、一巻冒頭にしっかり言及されています。

一巻3Pより
一巻4Pより

そう、「とある女の子との出会いの話」、
つまりボーイミーツガールなのです!

●主人公、逢沢文季という男

上記のように、様々な要素が混じっている作品ですが、魅力の本質は各要素よりも主人公の造形にあると思います。
この物語の主人公である「逢沢 文季」君、なんと「やれやれ系主人公」なんですよ!

一巻15Pより 


ゼロ年代のオタク大歓喜です。
皆さんご存じの通りゼロ年代のオタクはやれやれ系主人公と共に精神を成長させてきたため、やれやれ系主人公を嫌いなオタクはいません。
問題や困難が生じた際に不本意ながらも「やれやれ」と言いながら、なんだかんだ解決のために動きなんとかしてしまうというカッコよさ。
オタクの夢とロマンがやれやれ系主人公には詰まっています。

この逢沢文季君、異様に論理的で賢く、両親を亡くしたためか厭世的でどこか影があり言動全てがクールです。しかし相撲に対してのクソデカ感情と、お人好しの部分が端々から滲み出てしまっているという、中学生が一番好きな奴です。
しかも朴念仁。
それはちょっとズルいだろうがよ。


また、相撲好きの両親から英才教育を受けているため相撲の実力も全国レベルなのですが、あまりに容姿が可愛らしく、しかも身長が150センチないほど体が小さいため、相撲をやっていることを間違っているように感じています。
そんな中、両親が突然事故死してしまい、残された彼は相撲と決別する決心をしていました。
まぁ引っ越し先の村はエグいくらいの相撲社会だったので、強制的に相撲と向き合うことになるのですが……
自身のアイデンティティである相撲に対してデカい感情があるからこそ、相撲については一切妥協をせず、クラスメイトにもカエル様にもアドバイスをしていく。その上で殺人事件やお嬢様周りの村の因習にも切り込んでいくのですから、あまりに能力が高い
終盤のとある一戦は震えます。少々ネタバレになりますが、やれやれと言いつつ自己犠牲で他人を救える奴、一番カッコイイ。鳴海歩かよ。

ちなみにヒロインのお嬢様は高身長ケツデカクーデレ怪力女です。咀嚼すればするほど味わい深いキャラ造形。全身のあらゆる部位がデカくて強い女がトレンドの現代オタクに刺さりますね。


一巻28Pより 虎杖や東堂が好きな要素しかない女

●ぶち込まれた要素が渾然一体となり、ハッピーエンドに収束していく爽快感

雑多な要素を全3巻で綺麗にまとめきっています。お見事です。
ミステリー要素や伏線もあるため、ストーリーの内容を詳しく紹介はしませんが、実はあまり細かいことを考えず勢いで読む物語なので一気呵成に読むといいかもしれません。
ぜひ、皆さんもこの奇妙でシュールなのに妙に爽快感のある群像劇を読んでみてください。


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