『Passport & Garcon』を、もう少し味わえるかもしれない何か
どうも、RAq(@raq_reezy)です。
Moment Joonさんの『Passport & Garcon』を聴きました。
「日本語ラップ史上、こんなにコンシャスでリアルなヒップホップはない!」みたいなことだけ言って終わりにすることもできるんだけど、
もう少し詳しく書いた方が良い気がしたので、自分なりに各曲で気づいたことや感想を書いてみます。
Moment Joonさんのアルバムについて書くというのは、正直、ちょっと怖いところもあります。なぜなら、彼の音楽は、聴く側がテストされているようなところもあるから。余計なことを書いて無知を露呈してしまうかもしれない。
けど、もしも僕が間違ったことを何か書いても、たぶん誰か訂正してくれると思うし(インターネットの良いところ)、それによって他の人も理解が深まるかもしれない。それに、そもそも全く前提知識がない人には、少しは作品理解に役立つのではないかと。
ということで、これは書いた方が良いのかなと思い、書くことにしました。
* 以下、アーティストについて書くときは、敬称をつけないものだと思うので、敬略で「Moment Joon」と書きます。
* また、このアルバムにはMoment Joonの恋人「ナターシャ」さんと、A&R・マネージャー的な「シバさん」が登場します。以降、それぞれ歌詞に出てくるままで「ナターシャ」、「シバさん」と書きます。
アルバムのテーマ
このアルバムのテーマは、乱暴にまとめてしまえば「"移民"として日本で成功を目指すMoment Joonの苦労を描いた作品」です。
そう思われるかもしれません。
確かに、日本では「移民を受け入れるべきか」みたいなテーマが議論されたりしているわけで、整理上は「外国人労働者」は「移民ではない」ことになっています。
しかし、日本に住んでいる日本人の中には、Moment Joonのように「日本にずっと住みたい」と思ってくれている人たち("移民")が、たくさんいるものと想像されます。
ちなみに日本にいる「外国人労働者」は、2018年の時点で約146万人を超えています。
ということで、このアルバムはそういった"移民"の声をREPするものになっています。おそらく、Moment Joonが「ImmiGang」と呼んでいるのは、そういった"移民"のことかなと思います。
さて、テーマについて説明したところで、話をアルバムに戻しましょう。
1曲目 「KIX / Limo」
まずは、1曲目の「KIX / Limo」。
Moment Joonが一度、ビザが更新できずに日本から強制退去となった後に、日本に"帰国"するシーンから始まります。
曲名の「KIX」は関西国際空港(Kansai International Airport)、「Limo」は関空から大阪市内へのリムジンバスでしょう。
ちなみに、アルバムに先立ってリリースされている『Immigration EP』には、Moment Joonがビザが更新できずに日本を去る際の、恋人のナターシャの視点から歌われた「Natasha’s Song」が収録されています。
無事にビザを取得して再度日本に帰ってこられるか分からないMoment Joonを空港まで送る、切ない歌です。
さて、1曲目の「KIX / Limo」から、”移民”であるMoment Joonにとっては、日本生まれの日本人なら当たり前に享受している日常生活すら「確かなもの」ではないことがヒシヒシと伝わってきます。
無事に入国できなければ、そもそも再び日本で恋人と暮らすことも出来ない。そんな不安を表現する重苦しいトラックでアルバムが始まります。
結果、Moment Joonは無事に日本に再入国できたわけですが、自身を「移民」であると自覚しているMoment Joonが「外国人」として扱われる一幕も早速描かれています。
パスポートをチェックされている間の心臓がバクバクしている様子から、無事に入国できた瞬間の晴れ晴れとした気持ちまで、トラックの移り変わりで見事に描かれています。
「おかえり」とMoment Joonを空港で出迎えるナターシャ。
この「おかえり」は、アルバム中で二回出てきます。一回目は、物理的にMoment Joonが日本に戻ってきた、この1曲目です。
さて、無事に入国できて、気が晴れたのも一瞬。リムジンバスに乗り込むと、すぐに日本での現実が想起されます。再びダークなトラックに切り替わり、日本で暮らす上での困難が次々と吐き出されます。
「生存以上、生活未満」の毎日に、犯罪行為が脳裏をよぎることもあったけれど、警察もMoment Joonの住所を知っており、もしも犯罪行為に手を染めたら日本から追い出されかねない。
普通の日本人であれば、ちょっとした犯罪で国を追い出されることはありませんが、Moment Joonの場合は前提が違います。
Moment Joonにとっては、日本で暮らせることが、とにかく大切です。
アルバムを通じて「日本の永住権が欲しい」という願望がバシバシと歌われています。
こうした困難の一方で、徐々に活動の成果が出て、周りのラッパーの3倍のギャラが受け取れるようになった様子も描かれ、光も垣間見えています。
ということで、一曲目から超リアルな内容となっています。
また、単にリアルなだけでなく、アメリカのヒップホップ好きへのサービスも忘れません。
「誰かにとっては、この音楽はただのエンターテイメント、でも誰かにとってはそれ以上って信じてますよ Amen」と12曲目の「TENOHIRA」で歌われてますが、つまりこのアルバムは「エンターテイメント」としてもかなりレベルが高いということ。
「K Dot」(ケンドリック・ラマー)の「Backseat Freestyle」のリリックを参照して、「天守閣より大きいちんちん」と遊んで見せたり。
ちなみに、どうでも良いですが、エッフェル塔の高さは300メートル、大阪城天守閣の高さは58メートルのようです。ケンドリックのちんちん大きすぎ事案。(すみません)
2曲目 「KACHITORU」
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