形見分け

もしこの先自分の死期が事前に分かるような状況に陥ったら、あの人に、形見として腕時計を買ってあげようと思う。

少し前に、ちゃんとした腕時計を一本買おうかなと言ってたあの人、その後の話からして自分じゃきっと買わないだろうし、でもその話は何故か心に残っていて、ふとした瞬間に俺が買ってあげても良いなと思ったりしていたのだ。

文字盤の形は、細長い女性らしいのが良いな。エルメスのがそれっぽい。あの茶色の革ベルトにシルバーと白い文字盤の。

あるいは、ティファニーの同じ形で、横向きが天地のタイプ。これも革ベルト。

マニッシュじゃなくて、女性らしいのがきっと合う。

この話はこれでおしまい。

自分には何かを残したい相手がいるわけじゃないし、その子とは何もない。いわば赤の他人。

なのだけど、自分の生きた証がそんな形で残るのはちょっと良いかもと思った次第。

根拠はないけど、その子ならきっと受け取ってくれそうに思うのだ。