▼『「ぴえん」という病』▼『九条の大罪』4集

『「ぴえん」という病」(佐々木チワワ、2022)。「おわりに」で、今すぐホストで酒を飲みてぇ、と書いてある。書くために歌舞伎町で飲むのか、歌舞伎町で飲むために書くのか。それは当人にもわからない難しい問題だと思うが、この著者に関しては、書くことは歌舞伎町で飲むための「言い訳」なのではないか、と思ってしまった。佐々木が歌舞伎町のことをよく知っていること自体は伝わってくるが、彼女が知っている内容があまり伝わってこない。構成も文章も雑だと思う。インサイダーとして「知っている」ことはそれ自体が価値だが、それを文章で伝える、という段階に、もう少し汗をかくべきではないか。編集者も。あっという間に消えていくだろう「ぴえん」という言葉の賞味期限の短さに焦ったのだろうか。

▼SNSのフォロワー数や「いいね」数、ホストクラブで使える金額。ほとんどの価値が数字に換算可能という資本主義の論理に、侵され“過ぎている”という指摘が肝だろう。これまでもすでに侵されてきたわけだが、SNSによって、以前よりもずっと若い人たちに、また都市部を越えて地方に、甚だしい程度で広がっている。つまり、「トー横界隈」として注目された若者たちと同じような価値観(ぴえん)が、物理的にはその界隈にいない各地の若い人に広がっていると考えた方が良い、ということ。広告代理店や都市開発の事業者が、「その街の色」という意味合いで使う言葉に「界隈性」というものがあるが、ライブ配信時代が「界隈性」の救いも暴力も増幅している。

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▼ところで、この新書がきっかけで『九条の大罪』の4集(真鍋昌平、2021)を読んだけど、この作家が何の躊躇もなく、登場人物に極めて説明的な台詞を言わせるのが今更ながら面白いと思った。原田眞人の早口映画とも似ているが、少し違うか。こちらに投げてよこしてくる「情報」とその器にされてる登場人物の即物的な扱い。漫画が描いている事柄と同じくらいに冷たく乾いた漫画自身のボイス。

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