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エルメロイ+

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こちら絶対にエロネタはありません。
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水泡に帰すとも

 ダヴィンチバルのカウンター席、七席あるスツールの内で右から三番目はエルメロイ二世の定位置です。タブレットに指を滑らせては眉の角度が鋭くなったり、眉間にしわが寄ったりしています。琥珀色で満たされたグラスを傾けると、氷がからんと鳴りました。  バルのドアが開き、ヒールの音がカウンターに近付いてきます。エルメロイ二世は振り返りもしません。いつもの、と店主代理のデミヤに告げて二世の左隣に座ります。 「この前の礼だ」  二世はそう言って葉巻を一本差し出しました。マタ・ハリに渡して、自

苦手と共に

 週に一度だけ開かれるダヴィンチちゃんのバルは酒飲みたちの憩いの場です。ダヴィンチちゃん本人は店に出ず、QPを出せば相応のお酒が出されます。春先に喚ばれたデミヤが代理店主になりました。雇われた以上は手を抜かない辺り、オルタでも根っこは変わりないようです。ダヴィンチちゃん自ら私財を投じて集めたお酒は人理焼却後、倉庫で眠っていました。ですが人理は復元され、スタッフとサーヴァントは心置きなくお酒で身を崩しています。飲み過ぎるとナイチンゲールがやってくるので飲兵衛たちはキープするよう

エルメロイ二世とマタ・ハリは『手を繋いで踊らないと出られない部屋』に入ってしまいました

「部屋を解析した結果、踊らなくても出られると分かった」  エルメロイ二世は黒縁眼鏡の橋を中指で押し上げながら言いました。すかさず割り込んできたダヴィンチちゃんからの通信はエルメロイ二世の指ぱっちんで消えてしまいました。愛用の葉巻を吹かそうとして、エルメロイ二世の指は胸ポケットに入る前に止まりました。丁度切らしていたのを思い出したのです。 「お約束を破るなんて無粋ではなくて?」  マタ・ハリは胸元から取り出した紙タバコを咥えてそう言いました。マッチで灯した紙タバコを軽く吹かしま