妄想(自己回帰)

 国王は勇者に問う。魔王を斃して何がしたいか、と。魔王を倒さんとする勇者は、しかし、即答できなかった。世界を救いたいから、そんな曖昧な理由で今まで戦ってきたのだ。それでいい、と僧侶は言ってくれた。だが、魔王を斃せば万人が救われるわけではない
─例えば、魔王は?

 国王は、強いて、勇者の心意気を問いたわけではない。問題は、勇者が魔王を斃した後の、行動の仕方にある。すなわち、魔王をも斃せてしまう勇者の出方を窺い、扱いを決めかねているのだ。それを理解している僧侶は静かに歯噛みし、僧侶に忠告された勇者はそれでも、自らの在り方に悩んでいた。

 あわよくば、自国の力として勇者を手にしたい国王は尚も問う。曰く、何を思うて魔物を殺してきたのか、と。勇者の心が揺らいだ。斃した、ですよ、と僧侶が訂正する。しかし、それは勇者にとってどれほど意味があっただろうか。今日の謁見はそこで終わった。終わらざるを得なかった。また今日も戦闘が始まる。文字通り、身を削る闘いが。

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