アルコールと病気--TOKIOの会見を観て
見出し画像

アルコールと病気--TOKIOの会見を観て


お酒でつまずいた人をたくさん見てきたから、やっぱり気になるTOKIOの会見。ずっと「ダッシュ村」を応援していて、5人がみんな仲が良くていいなって思っていた。会見は、見ていてせつなかった。

父親がアルコール依存症で、お酒のことを著作にたくさん書いているものだから、酒癖の悪い人や、お酒をやめられない人の相談を受けることが多いし、そういう人たちの会合でお話しをすることもある。なので、ちょっとだけ感じたことを書いてみます。

ええとね、お酒が関係する病気っていろいろあるけれど、あまり知られていないんです。たとえば、飲むことが習慣になってしまうことを「習慣飲酒」という。

これはれっきとした病気。アルコール依存症とは違うけれど、習慣飲酒の人はわりと多い。そして「習慣飲酒」だと自覚していない。身近にも、習慣飲酒の人がいた。彼女は、毎日、夕ご飯を作りながら500ミリリットルのビールを一本飲む。それだけだ。それくらいいいだろう……と、思いがちだけど、たとえ500ミリリットルでも毎日飲み続けるのは、とっても肝臓に負担なんだ。

肝臓がへばってくると、だるくなってきて、やる気が失せる。だるくて朝も起きられなくなったり。それも「気のせい」くらいに思っている。真面目なので、毎日、決まって500ミリリットルを飲む。飲みたいとか、飲みたくないという好みの問題ではなく、習慣化してしまい、飲酒が善悪の対象にすら上がって来ないのね。
(ちなみに彼女は心療内科を受診して習慣飲酒と診断され、飲むのを止めた。それまでのむくみや、だるさや、鬱症状が消えて喜んでいた)

近ごろって、ビールの宣伝に女性のタレントさんが起用されて、女性がさわやかーに昼間からビール飲む生活を讃えているところがあるでしょう、あれ、うーん、ちょっとなあと思う。女性の習慣飲酒、増えているから。

お酒による病気は決してアルコール依存症だけじゃない。この「習慣飲酒」もそうだし、「酒乱」というのも原因は不明ですが治療対象になりえます。酒乱はアルコール依存症とは違いますが、やっかいな症状です(病気かどうかは意見が分かれます・遺伝や性格という人もいますが、本人も周囲もそれで苦しんでいるのなら治療すべき病気だと私は思う)。ちなみに、うちの父は酒乱から、アルコール依存症になりました。

酒乱の人は、程度の差があれ、酒を飲むと人格が変わってしまいます。しかも、多くの場合「酔っていた時の記憶が全くない」。人格がどう変わるか、は人によって様々。とにかく別人。二重人格か?と思う。

暴力的になる人もいるし、口汚く他人をののしる人もいる、ものすごい守銭奴になる人もいるし、すけべえになる人もいる。なんにしても「良い人格」になる人はおらず、人間の暗黒面がべろんと出てきてしまうので、家族は見るに耐えない。でも、本人には記憶がないので、酒乱という自覚さえもてない。

こういう人には、ビデオに撮って酔った醜い姿を見せてあげると、かなり効果がある。いくら家族から「ひどい」と言われても信じないからね。うちの親もそうだった。父は私が書いたエッセイを読んでびっくり仰天、初めて自分の酒乱ぶりを自覚したらしい(40年も自覚せんで生きてきたところがすごい)。

亭主が酒乱になると、たいがい妻は愛想を尽かす。なにが嫌だって、あんなひどいことをしでかして覚えていないのが許せない。なにもかも忘れて、翌朝には「ん、俺、なんかやったか?」とケロっとしているのだから。

人間は「自分がやった」という記憶がないと、いくら他人からあーだこーだと言われてもピンとこない。どちらかといえば自分が責められているような錯覚に陥り、みんなが俺を悪く言いやがる……と、うちの父はさらに飲んでいた。どういう酒乱も、たぶん似たようなものではないかと思う。

TOKIO の会見で、他のメンバーが山口さんを「甘い」と言っていたけれど、その通りで、この「甘い」のが酒乱なんだよなあ……と、頷きながらテレビを見ていた。きっとなにも覚えていないんだろうなあ、って。もちろん、山口さんが酒乱かどうかわからないから、これは推測です。

「なんで、そういうことしたの?」「なんで飲んだの?」と、いくら聞いても、本人は答えられない。本人だってわからないのだからしょうがない。酒に溺れないですむ人間にはなおさら理解できないこと。

「どうなるか考えたらわかるだろう?」「いいかげんにしろ」いくら言っても、すべて起きてしまったことなのでどうしようもない。この出来事の原因が、酒だなんて、ふざけるな、と、失ったものの大きさに怒りがわいてくる。(記憶がないので本人が一番混乱している)

酒乱はアルコール依存症とは違うけれど、確実に予備軍です。アルコール依存症はね、一度なってしまったら、もう一生、治らない。そういうおそろしい病気なんだけれど、病気への理解がなかなか進まない。

これは脳の病気だから、精神論ではどうにもならないのに「意志が弱いから酒に依存したんだ」って思っている人がまだまだ多勢。意志は関係ないです。

お酒でつまずく人は几帳面で真面目な人が多い。むしろ真面目過ぎてストレスがたまるのかもしれない。それと、寂しさを感じている人が多い。淋しいというレベルではなく、なんていうかなあ、根源的な存在の孤独みたいなのを抱えている人。こればっかりは本人しかわからないから、なんとも言えないけど。

世の中には「酒を飲まないアルコール依存症」の人たちがけっこういて、酒をすすめられる度に「すみません、飲めません」と断るのに苦労している。
「まあまあ、いっぱいくらいいいじゃないですか」と、依存症や酒乱のことを知らない人は気軽に「いっぱいくらい」という。酒で身を滅ぼす人の気質は真面目で誠実なので、すすめられると断れない。無理やり注がれたビールに口をつけて、リバウンドで病院に逆戻りという依存症の人も多い。

お酒でつまずいた父親の娘としては、ちょっとは日本の酒放任社会にも責任があるんじゃないの?と思う。もちろんお酒は好きだし、飲むと楽しいよ(個人的に楽しく飲むなら)。
でも公の宴席でビールや酒を注ぎあうのが礼儀みたいな、ああいう風習はパワハラに通じるところもあるし、止めたらいいと思う。乾杯もソフトドリンクにしておけば無難だよ。酒を飲んではいけない病気の人が、プレッシャーを感じるような社会は変えたいなと思う。

身近に「お酒でつまずきそうな人がいたらどうするか?」これは、とても難しい。アドバイスをしても、本人が病院に行きたがらないケースが多いから。

習慣飲酒の心配がありそうな方には、精神科か心療内科へ行くことをすすめてください。

酒乱の人には、本人に酒乱であることを自覚させてみてください(隠し撮りビデオがききます)

アルコール依存症の不安がある人は、ご家族がいらっしゃるなら家族が依存症の知識を得ておくといいです。ネットにたくさん情報があります。自分たちの人生を守るためにも、この特殊な病気の知識が不可欠。
そして、ご本人にもアルコール依存症について知ってもらい、あとは、もう本人次第です。(吾妻ひでおさんの漫画「失踪日記」などさりげなく渡すのもいいかも)本人が「酒をやめなければ死ぬ」と思って治療を望んだところから、治療が始まります。

もし、お酒で人格が変わってしまっても、本来のその人が消えたわけではないので、なるべくシラフの時のその人を見てあげてください。そして、病気は本人しか背負えないので、周りにいる人たちは、家族も友人も、たとえ救えなくても自分を責めず、自分の人生を大事にしてください。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
田口ランディ

日々の執筆を応援してくださってありがとうございます。

ありがとう、うれしいです
作家・「コンセント」「アンテナ」「モザイク」「ゾーンにて」「富士山」「パピヨン」など著書多数。作品は多言語に翻訳されている。最新刊は2021年9月刊行予定の「水俣天地への祈り」(河出書房新社)水俣はなぜ表現者をひきつけるのか。 noteマガジン「ヌー!」を発行中。(月額500円)