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みんな超能力者

年をとって得なのは「長い目線」で人生を眺められることだね。20代はせいぜい20数年しか生きていない上に、親のもとで過ごすから、自分のとった行為や思考がどんなふうに戻ってくるか、まだ実感としてわからなくてあたりまえ。

50歳も過ぎると「やったこと、思ったことはブーメランみたいに戻って来る」という人生のシンプルさに驚く。一本の糸がよじれて元に戻り、反動がつくと逆方向によじれるように、物事はやったことがやったように返ってきて、そこで、また力むと逆方向へ回転し、無限にそれを反復していく。

やったことが、戻ってきたら、そこで一度、終わりにする。なにか気に入らないことが起こっても、それはじぶんがやった結果だからと、まずは落ち着くことが大切だなあ、と日々痛感。

うちの父など、延々と「子どもを殴って、殴り返されて、それに怒ってまた殴って……」みたいなことを繰り返しているうちにお互いにドツボにはまってしまった。とはいえ三十年前は、そういうドツボのサイクルも、もっと間が長かった。そのぶん、ドロドロしたけれど、最近はドロドロの余地があまりない。

この糸のよじれの繰り返しが人生なんだけど、とにかく「やったことが戻る」というスパンが、近ごろどんどん早くなって、投げると2秒で戻って来るブーメランみたいで怖いのだった。

人を褒めれば褒められるし、人を貶せば貶される。憐れめば、憐れまれることになるし、裏切れば、裏切られることになる。そういう事は、昔はもうちょっと長い時間かけて起こっていなかったか?

結果が早くなった原因としては、「インターネット」が普及して「つながりっぱなし」の時代になったことが考えられる。時空間の感覚が変異してきて、人間の意識が変わったんじゃなかろうか。

私は「家に電話がなかった」→「黒電話がつながった」→「ポケベル」→「携帯電話登場」→「ガラ携」→「スマホ」ネットワークでは、「文通」→「パソコン通信」→「インターネット」と、コミュニケーション・ツールの変遷の歴史を生きてきた世代であるので、「いま」と「むかし」の身体感覚を比較できる。

最先端のスマホを持つと、相当に意識が変わる。電話がなかった時代とスピード感が全く違うね。私が子どもの頃は、友達が家にいるかどうかは、訪ねて行くまでわからなかった。友達が今日、何をしているかは、したいかは、会えるまでわからなかった。

私と相手との間には常に「距離」と「時間」があり、それをえっさえっさと漕ぐようにして他人と出会っていた。その感覚が今はない。時間と距離の抵抗感みたいなもの。

抵抗が消えて、すっと、そこに行ける感じ。

その「すっ」という感覚が、さまざまな事象にまで及んできている。なにか言ったら、それが「すっ」と返って来て、頭の後ろにポコンと当たる……みたいな。

昨日は言う側だったのに、今日は言われる側に回っている
……。その展開の速度がやたら速い。

すべてに意識を行き届かせるなんて難しいけれど、無自覚だとかなり怖い。自分が投げたものが返って来て、それに対してまた延々とネガティブな反応をしていると、捩れがどんどんきつくなって、自滅しそうになる。

とにかく、正気に戻って「オレが怒った顔をしていたから、怒られたんだ」くらいに考えないと、怒りの無限ループが速攻で襲って来るみたいな……。

そういうことを、昔は「キレやすい」なんて呼んでいたのだけれど、このごろは「キレる間もない」くらい、瞬発で起こるから、「反射運動」に近くなってきた。

悪い例ばかり出してしまったけれど、逆も、もちろんある。良いことをするとどんどん良くなる。そっちも加速している。内容には関係なく、意識を向けたことが展開するスピードが速くなっている。

まるで、みんなが超能力者のような時代なのに、そのことに気がついている人が少ないかも。

なにに意識を向けているか、で、いろんなことが可能な時代。意識をどう使うか、が、とても重要な時代。時空間の感覚が自由になっている。だから、もっとうまく意識を使っていいんだよね。いま、じぶんがなにをどんな気持ちでやっているか、意識する。「あ、この前のが返って来た」と感じたら、悪い感情はそこで止める。意識の方向性を正す。嫌いなものに向け続けない。

人はだんだん、そういうことができるようになっていくんだと思う。

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作家・2000年に長編小説「コンセント」で小説家デビュー。「アンテナ」「モザイク」「ゾーンにて」「パピヨン」など著書多数。最新刊は「逆さに吊るされた男」(河出書房新社)地下鉄サリン事件の実行犯との1交流を元に執筆した私小説。noteマガジン「ヌー!」を発行中。(月額500円)

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