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むしゃむしゃと春をたべる

佐藤初女さんのご縁で集まった仲間たちと2年ぶりに再会した。
「いのちのエール 初女おかあさんから娘達へ」という本を一緒につくった仲間だ。佐藤初女さんの生き方に共鳴した私たちは、五年前に初女さんが亡くなったあとも、定期的に集まって初女さんを通して自分の生き方を確かめあってきた。

山崎直(すなお)さんは、初女さんのおむすびの作り方を伝授するようになった。最初は「私なんてとてもとても……」と言っていたけれど、初女さんが亡くなったあと、初女さんのご飯のたき方やおむすびのむすび方を伝授できる人は直さんしかいない、と思い「直さんが教えなくてはあのおむすびはなくなっちゃうよ!」とがんがん背中を押した。
いまは全国でおむすび講習会を開催している。初女さんが一番こだわっていたご飯のたき方(水加減)を、直さんは教えることができる貴重な人だ。
田淵睦実(むつみ)さん、通称むっちゃんはカメラマンだ。もう二十年も前から一緒に初女さんを訪ねて写真を撮って来た。むっちゃんが撮った初女さんはほんとうに優しい。観音様かマリア様みたい。むっちゃんの写真はエアリーだ。春霞のなかにいるような光と湿度のある映像はほっとする。むっちゃんワールドは世界をリンスしてくれる。
山田スイッチさんは、青森の弘前在住。イラストレーターでありエッセイスト。時として縄文のゆるキャラドグ子。そうかと思えばエステシャン、いろんな顔を持つ二児の母だ。好奇心旺盛でなんにでも興味を持ち、興味をもったことを探求する。真実一路。まさに現代の縄文人。いつも場を盛り上げてくれる永遠の妹。
山田有紀(あき)さんは、編集者。初女さんの本を一緒につくったことがきっかけで、いまでは仕事を越えた仲間。才媛でバランス感覚がよく、姉御肌で、なおかつ赤ちゃんのような純粋さ。チームの会計を担当し、みんなをさりげなくフォローしつつ、手薄な部分を察知してはそこにあて布をしてくれるような、ありがたい存在。いてくれるだけで安心。
この五人で、初女さんが亡くなってからずっと「いのちのエール 初女お母さんから娘達へ」というイベントを企画してきた。でも、この二年間、イベントは開催できず、会うこともできなかった。

二年ぶりに湯河原の私の家に集まった。家の改築が終了したからだ。実は私は二年前に家を売却しようとしていた。ところが夢の中に初女さんが現れて「ランディさん、湯河原のイスキアはいつできるの?」と言うのだ。
目が覚めて、あ、そうだ。初女さんが生きている時「湯河原の家を人が集まれるようにするので遊びに来てくださいね」と言ったのだ。初女さんは「必ず行きます」とおっしゃった。その約束、忘れていた……。
で、私は家の売却を止めて家の改修に取り掛かった。約束通り、人が集まれる家、人が和める家を目指してあちこち手を入れ、物を捨て、半年かかって改築を終えた。
最初に迎えるお客様は、「いのちのエール」の仲間しかない。
というわけで、2年ぶりに5人が集合。一泊二日の合宿ミーティングを開催したのだった。

一日目、朝9時に集合した面々は、直さん手製のおはぎとリンゴのパンケーキでお茶を飲んだ。「忙しかったんでおはぎしか作れなかった」という直さんに一同唖然。「朝の忙しい時におはぎを作る人ってあんまりいないよねえ?」おはぎ、サイコーにおいしかった。

みんなで外に出て、庭に生えているノビルを摘んだ。今夜のおかずにするためだ。なぜかノビルがたくさん生えるわが家の庭。それそれシャベルを持ってもくもくとノビル摘み。弘前のイスキアでもよく山菜摘みをしたことを思いだす。ぽかぽか春の日差し。桜の花びらが山から散ってくる。海もおだやか。
 
いっぱいノビルを摘んでから、5人でプランターを作った。無肥料無農薬のプランター栽培の方法をみんなに伝授。土の配合や、苗の根切りの仕方などを教える。ミニトマトを中心にいろいろな野菜の種を蒔き、「いのちのエール」の特性プランターを作った。記念植樹みたい(笑) どんなトマトや野菜が育つか。3ヶ月後が楽しみだ。

庭仕事が一段落したので、 買い出しがてら倉庫のアトリエプシケを案内した。千歳川は桜が満開で、ついでに桜見物も。仲間で集まる時はみんなで自炊をする。春らしいメニューがいいね、ということで決まったのは以下のメニュー。
あさりとパクチーのナンプラー炒め
じゃがいもとアンチョビのローズマリー炒め
焼ソラマメ
ニンジンと春菊の変わりサラダ
真鶴の高梁水産の一夜干しイカの姿焼き
春青菜と揚げの煮干し炒め
トマトとモッツアレラチーズ
茹でノビルと手前味噌
ふきのとう味噌
全員、料理好きなのであっという間に料理して、あっという間にテーブルが春になった。みんなで作ってみんなでおいしくいただく。これがイスキア風。

片づけも掃除も全員でする。わが家の床磨き、畳拭き、みんなでやってくれた。労働こそ祈り。それも初女さんの教え。食べること、つくること、働くこと、生活のすべてが祈りです。みんなで実践。これが一番の供養。

お風呂に庭のモクレンの花を浮かべてみた。モクレン風呂、おやまあこれがすばらしくいい香りで気持ちいい。優雅な気分になる。交代でお風呂に入り、出てきたらマッサージ合戦。お互いに得意の健康体操やマッサージを教えあう。好きなオイルやお手製の化粧品の品評会。むっちゃんが、庭のローズマリーを蒸留し始める。スイッチさんはみんなに整体を。あっという間に夜は更ける。

翌朝、すげー早起き。みんな6時前には起き出して掃除する。ここは修道院か。すでにシーツの洗濯を始める者も。さあ、まずは朝ごはんだ。朝ごはんのメニュー
もずくのみそ汁
真鶴産さばのみりん漬け
自家製きゅうりのキムチ
きんぴらごぼう
春野菜の炒め物
ノビルの醤油漬け
……あとなんだっけかな。
みんなそれぞれ得意料理を作るので、とにかくおいしい。女子会ってすばらしい。うまいうまいと連呼しながら朝飯を終えて、後片づけ。
とにかくよく働く。働くことが楽しい。

ノビルがおいしいので家に持ち帰りたい……ということで、再び庭でノビル摘み。犬もいっしょに芝生でごろごろしながら、野菜づくりや自然栽培の方法、コンポストのつくり方などを話し合う。梅干しのつけ方にはそれぞれ持論があり、お互いの梅干しを持ちあって食べ比べたり、この夏こそぬか床を成功させようと誓い合ったり。

昼過ぎからは、ちくちくと縫い物をしながらおしゃべり。縫い物をしているとおしゃべりって弾むんだよね。愛らしいあずま袋をつくり、コーヒーを飲んでこの秋に開催する「一泊二日・湯河原おむすび講習会 佐藤初女さんから娘たちへ」の企画の打ち合わせをする。

気がついたらもう午後4時。あっという間の一泊二日だった。
2年ぶりだから、つもる話はありすぎて語りきれない。いいんだ、一緒に笑ったり泣いたり、おいしいものをつくってたべたり、それが一番だよね。春の恵みをたくさんいただきました。お米もたくさんいただきました。味噌、醤油、梅干し、すべての食材に感謝の気持ちでいっぱいになって、元気がみなぎってくる。

楽しかった。こういう場所にしたかった。そして願いがかなったよ。


写真は撮らなかった。……撮れなかった。誰かに見せるためになにかをする余裕がなかった。夢中で……気がついたら終わっていた。今日から4月。


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