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MetaverseとMMO‐可処分時間と仮想経済圏の関連性

1. はじめに 

 2021年頃からmetaverse(メタバース)という単語がビジネスで用いられる機会が増えました。昨年はメタバース関連の団体が複数立ち上がり、早くも利権争いの匂いがします。

 メタバースの統一的な定義は定まっておらずウィキを眺めても、SNSを眺めても、関連団体の公開する資料を眺めても一致しません。ある程度は共通点を見出すことは出来ますが細部では主張が異なり、メタバース=●●という解説には至りません。 

 今回はメタバースとMMOを可処分時間・仮想経済圏という観点から考察します。メタバーに関しては過去の投稿でサービス分類・VRとの違い・可処分時間の位置付け・普及予測などを整理しています。

2. FF14大勝利 

 やや唐突感がありますが、まずは結論から。

FF14大勝利

 メタバース凄い!と騒いでいる方々は一度FF14をプレイしエオルゼアを救ってから再度メタバースの何が優れているかを言語化してみるのが良いかと思います。私は2014年のパッチ2.0からFF14をプレイしており現在まで緩やかに続けています。 6.3アプデ楽しいです!

 一般にメタバースの構成要素として認知されているほとんどの要素がFF14で既に実装されています。FF14で実装されておらずメタバースで可能なのはRMT(リアルマネートレード)です。

 これはMMO崩壊のリスクを孕む行為であるため運営が意図的に禁止している行為です。現状、メタバースの売りはメタバース内での経済活動の成果を現実世界に引き出すことが出来る点です。

 この場合、仮想通貨が媒介として用いられるケースが多く、マネロンの温床になる可能性も孕んでいます。ゲームにおけるRMTの危険性・課題については「X to Earn」考察記事で言及しておりますので参照ください。

 RMTが禁止されているMMOはユーザーが楽しむもので、仮想通貨を用いて実質的なRMTが可能なメタバースは情報の非対称性を利用し稼ぐものという位置付けです。どちらも現実世界ではなく、モニターやHMD越しの仮想空間を対象にユーザーの可処分時間を奪い合っている点は同じですが、メタバースとMMOでは目的が異なります。 

 もちろんメタバースで純粋にバーチャル空間の非日常を楽しむプレイヤーもいますが、昨今のメタバースブームの背景は純粋に楽しむではなく、稼ぐことに偏っているように見えます。ちなみにSteam設立者は海外メディアのインタビューで「MMOすらやった事ないやつがメタバースを語るな。FF14やってみろ。飛ぶぞ」「まずはラノシア(FF14の地名)へ行け」と語っています。

 実際のところ2021年~2022年にかけて話題性先行で盛り上がったメタバースですがビジネスとしてにキャッシュを生み出すには至っておりません。Metaは大規模投資を続けていますがマネタイズの達成は相当先に見えます。メタバースにおけるマネタイズはプラットフォーム(運営)よりもユーザー同士(C2C)による投機的取引の方が現時点においては主流のように見えます。 

3. メタバースは本当に楽しいか

 実のところFF14をプレイした後にメタバースを利用してみると目新しいものがありませんでした。グラフィックに関してはFF14は10年近く続くMMOなので最新タイトルと比較するとやや劣りますが、メタバースのグラフィックはFF14と比較しても数世代劣る印象を受けます。メタバースとMMOでは2Dか3Dかという違いはありますが、全般的なグラフィッククオリティはMMOの方が断然優れています。 

 次に仮想空間上で何が出来るか、という点について整理します。メタバースでユーザーが何をしているかと言うと「チャット・アバターコミュニケーション・ユーザーイベント・コンテンツ売買」に分類されます。チャットはDiscordなどの外部アプリで代用されることもあります。 

 このうちチャット・アバターコミュニケーション・ユーザーイベントは一般的なMMOでは当たり前に盛り込まれている要素です。コンテンツ売買はNFTという形で仮想通貨を用いた実質的なRMTとして機能しており、この点がメタバースとMMOの違いです。 

 運営会社が規約に基づき仮想空間上の経済秩序を維持するのがMMOであり、現実世界の経済とは隔離されていることが一般的です。(ゲーム内で完結している)他方でメタバース経済は仮想通貨を活用することで意図的に現実世界への出口を設けることで投機プレイヤーを呼び込みビジネスとしての価値を高めようと試行しています。 

 コンテンツを楽しんでもらうことでユーザーの可処分時間にアクセスするのか、投機要素を持ち込むことによって可処分時間にアクセスするのかが両者の違いとなります。メタバースは何でも出来る可能性がある白紙のキャンバスであり、MMOは予め遊び方や導線が設計されているテーマパークです。とはいえ、白紙のキャンバスが楽しいかどうかはユーザー次第の部分が大きいです。 

 自由度で言えばメタバースの方が制限が少ないことから自由度が高いですが、何をしたらいいか分からず、コンテンツも少ないことから1か月もするとやることが無くなりログインも減少するケースが多々あります。 

 コミュニティ活動はメタバース以外の方法でも楽しむことは可能であり、あえてメタバースという手段を採用する理由にはなりません。メタバース内でゲームをプレイするなら素直にMMOやPS5でプレイした方がクオリティの高いゲームをプレイ可能です。このように個々の要素を検証すると現時点ではメタバース独自の価値というものが実は存在しないことが分かります

投機資金は常に次の投機先を探しています。

 2020年以降、プレーンな仮想通貨の次の投機先としてDeFi・NFT・メタバースが注目されています。身も蓋もない表現をするとDeFiは金融ライセンスが必要な金融機能を金融ライセンスなしで処理するアプリケーションであり、NFTはオンライン上での新たなデータ販売ビジネスの手法であり、メタバースは仮想空間を活用したRMTです。 

 DeFi・NFT・メタバースをこのように評価するとアンチかと思われるかもしれませんが、実は過去のこれらの分野の事業化を調査の結果、事業価値無しとして断った経緯があります。批判的に書くのにはそれなりの根拠があるということです。 

 不健全な投機要素を排除したメタバースにユーザーが集まればメタバースはビジネスとして成功と言えます。その場合はMMOや他のサービスと同列でユーザーの可処分時間を奪い合うコンテンツとなります。現状のメタバースはMMOの劣化版に過ぎません。 

4. メタバースの理想と現実

 メタバースに関して辛口の評価をしましたが、投機を超えたメタバースの可能性についても検討します。メタバースのゴールの1つとしてはSAO(ソードアートオンライン)の世界の実現があります。10年ぐらい前に流行ったライトノベルでVRの未来を描いたような物語であり、五感がリアルに再現されるHMDをかぶりフルダイブで仮想空間を体験するという設定です。 

 現在のメタバース・VRでは五感のうち視覚と聴覚しかサポートできていませんが、将来的に嗅覚や触覚・痛覚などが再現されることでよりリアルなバーチャルワールドを生み出すことが可能です。メタバースでSAOの世界のように五感が再現された仮想空間を再現出来たらメタバースの需要は投機から実需へと変化します。 

 他の用途だとオンラインイベントツールとしての進化に少し期待しています。Vチューバーの一部がメタバーサー(Metaverser)として活動拠点を仮想空間に移転するであろうことを過去の記事で紹介しましたが、短期的にはこちらの活用が主流になると思います。 

 Vチューバーだけでなくアイドルなどの活動の一部もメタバースに移転するかと思います。オンラインと相性の良いコミュニティ活動全般で一定割合がメタバースに移転する可能性があります。

 このような特定集団の帰属意識や認知の手段としてアイコン的にNFTが活用されるのであればアリかと思いますが、投機の対象として数百万といった価格で取引される場合には違和感を感じます。 

 理想はメタバースに引き籠り原住民として暮らすことですが、現実としては生活をするための資金を現実世界で稼がなくてはならない方が殆どです。昨今のNFTや仮想通貨の投機を除外するとメタバースには健全な経済圏は存在しません。将来的には何らかの現実世界との接点を有した経済圏が構築される可能性はありますが現時点においては定かではありません。 

 したがって私たちのベースは今後も現実世界(リアル)であり、多くの方にとってメタバース(バーチャル)は可処分時間の範囲で楽しむ娯楽の一種に過ぎません。(※メタバースで生計を立てるプロも一部で存在します)するとメタバースは特別な存在ではなく、ゲーム・読書・ショッピングなどと同列で可処分時間を奪い合うコンテンツとなります。 

 今後メタバースは競争力を有したコンテンツとなる可能性がありますが現状は中途半端なクオリティであり多くのユーザーの獲得には至っておりません。メタバースはユーザーの課題解決(Job)にフォーカスする必要があります。 

5. 趣味かビジネスか

 メタバースを語る際に趣味として捉えるか、ビジネスとして捉えるかによって評価が異なります。趣味としてのメタバースは技術の発展に伴い体験の高度化やコンテンツ充実によって緩やかに発展しつつどこかでブレイクスルーを迎えると思います。従来のMMOとVRの要素が高次元で融合しエンターテイメントとして高い完成度を誇るコンテンツという方向性になると思います。

 一方、ビジネスとしてのメタバースには懐疑的です。ビジネスとしてメタバースを評価した場合、いかに儲けるか(メタバース内での売買を増加させるか)が焦点となります。楽しむためではなく、儲けるために参入する人が増えることでメディア露出等の効果で話題性は高まりますが、本質的な価値には影響を与えません。NFTを用いたメタバース上の不動産の売買は本質的に競馬や宝くじなどのギャンブル(投機)と何ら変わらないのです。 

 一見するとメタバース上でのコンテンツの売買は錬金術のようですが、非金属は金にはなれずメッキは必ず剥がれます。現状のメタバース経済圏はまだ規模が小さいため、NFT同様に特定層による意図的な価格引き上げ・維持などの戦略が有効です。話題性を集め新規参入者が増加し、コンテンツ売買が盛んになりより高値で取引されるタイミングで売り抜ける戦略です。 

 上記の通り趣味のメタバースには可能性を感じつつもビジネスとしてのメタバースには懐疑的です。趣味のメタバースは可処分時間がベンチマークとなり、ビジネスのメタバースは仮想経済圏の規模がベンチマークとなります。

 メタバースを深く理解するためにはメタバースが何と違うのかを理解する必要があります。MMOをプレイして自分なりにメタバースとの違いを認識すること、VRを体験しメタバースとの違いを認識することはメタバースのアイデンティティを認識するうえで重要です。 

 私が感じるメタバースのアイデンティティは冒頭で示した、リアルと繋がる仮想経済圏です。これはメリット・デメリットを含んでおり、今のところどのように転ぶか分かりません。

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