ファンド分析 手数料以外に重要なこと
1. はじめに
投資信託やETFでは信託報酬(経費率)や販売手数料(売買手数料)などの経費面の重要性が語られ、投資家も信託報酬(経費率)を基準にファンドを選択しています。本稿では手数料以外の重要な要素に着目し、ファンド購入時に注意すべき点について整理します。
投信は毎年多数設定され、その裏でひっそりと運用が終了するファンドも存在します。長期投資・生涯投資を軸に考えた場合、手数料以外にどのような点に着目することが安定的な運用に繋がるでしょうか。
2. ファンドの継続性は重要
昨今の投資信託選びは以下のような手順で進められることが多いです。
①ノーロードかどうかをスクリーニングする。②信託報酬の足切り基準を設定しスクリーニングする。(パッシブの場合、0.3%程度を上限とする)③同一指数をベンチマークとしたファンド間の信託報酬を比較する。
上記手順で販売手数料が無料で同一ベンチマークを採用したファンドの中からコストの安いファンドを抽出することが可能です。本稿ではここから一歩先のファンド選択を考察します。
S&P500やMSCIコクサイは多くの運用会社がインデックスファンドのベンチマークとして採用しています。S&P500連動の投資信託は多数存在し、一物多価と呼べる状況です。(一物一価の反対)
中には運用会社の競争によって最低水準の信託報酬で横並びになっているファンドも存在しますが、ファンドの純資産額には大きな差が生じているケースが見られます。同一コストであれば投資家の人気は分散するように見えますが、実のところそうではありません。
一旦評判を獲得したファンドが総取りに近い状態になることがしばしば見られます。昨今では三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim」がまさに独り勝ちの例となります。eMAXIS Slimの二番煎じで同様のコンセプト・手数料水準のファンドが後から登場しましたが、思うように残高が増えておりません。
これは一旦獲得した評判(ブランド)が新規資金流入に大きな影響を与えていることを示しています。手数料が同程度であれば次に重視するのはファンドの純資産額です。ファンドの純資産額=運用残高ですのでファンドの大きさが重要、ということになります。
なぜファンドの大きさが重要なのかというと、運用効率と継続性に直結するためです。ファンドはある程度の資金が存在しないと運用方針に沿った運用(売買)が困難になったり、コストが割高になる場合があります。また慈善事業ではないので収益性の確保が難しいファンドは運用が終了する(償還)リスクが存在します。
この辺りは手数料のように数値化はされていませんが、ある程度運用経験のある投資家であれば感覚的に理解できているかと思います。一例ですが、ファンドを設定して1年以上経過しているにも関わらず運用残高が10億円に満たないようなファンドは避けた方が良いかもしれません。(公募オープン型の前提)
一昔前であれば運用残高が100億を超えれば大型ファンド扱いで500億を超えれば相当なものでした。ここ数年は投信への多額の資金流入もあり基準が1ランク上がっている印象を受けます。大型ファンドの目安が1,000億の大台に変化しつつあります。
eMAXIS Slimのようなファンドの登場以降、手数料競争に勝利した一握りのファンドが投資家の資金を集約しファンドの大型化が加速しています。現状、3,000億・5,000億・1兆円が大型ファンドのマイルストーンとなりつつあります。
日本の先を行くといわれる米国ではバンガードなどが日本とは桁違いに大きな金額を運用しています。日本でも直近の傾向が続けば、10年後・20年後には1兆円越えのファンドが育っていき、超大型ファンドは10兆円を達成するかもしれません。(2023年時点で10兆円規模のファンドは存在しません)
ファンドの大きさが重要な点としての継続性ですが、これは償還や運用会社の解散リスクのヘッジとなります。手数料が安く・パフォーマンスに優れたファンドでも突然償還される場合、リスクでしかありません。
運用会社都合による償還は投資家にとっては利食い・損切のいずれかに該当します。利食いになればキャピタルゲインに応じた譲渡益税が発生します。損切であれば不本意なタイミングでの確定を迫られます。どちらも投資家にとっては大きなリスクです。
ファンドの突然死を回避するには運用会社の信用・ファンドの規模が重要です。運用会社に関しては大手できちんと利益を出している会社であれば問題ありません。個別ファンドの基準としては各社方針は異なりますが、残高が集まらないファンドは償還対象になりますので注意が必要です。
よって先程の手数料基準のファンド選択に④運用残高が100億円以上であること、という基準を追加しても良いです。オプションとして⑤ファンド設定から3年が経過していること・信託期限が無期限という基準を追加しても良いです。
ファンドの運用期間に関しては新NISAの基準の1つとして金融庁が設定する予定であることから注目している方も多いかもしれません。資産運用の終了タイミングは投資家が判断するものであり、運用会社によってコントロールされるものではありません。
3. シャープレシオと標準偏差
ファンド選択の際は過去のパフォーマンスを基準に選択される方が多いかと思います。過去10年は米国株最強の時代でしたのでS&P500やナスダック100に連動するファンドが残高を伸ばし、高い運用成績を出しました。
アセットクラス毎に周期性が存在するので今後はどうなるか分かりませんが、それでも人は過去のパフォーマンスに将来のリターンを映して投資判断を下しがちです。今回は平均期待値(リターン)以外の軸について整理します。
過去10年間の平均リターンは5.0%と言われると分かりやすいですよね。
しかしながらシャープレシオは0.7で標準偏差は17と言われても直感的には理解しにくいです。本稿ではリスク・リターンの関係を多面的に捉えるため、これらの指標についてもファンド選択の基準に含めることを検討します。
同一の運用方針のファンド(例えば大型グロース株ファンド)の場合、シャープレシオの値が高いファンドの方が優秀と言えます。また同程度の期待リターンのファンドが複数存在する場合には標準偏差の値が小さなファンドの方がボラティリティが小さなことを示しており、価格変動をコントロールしつつで目標とするリターン%を実現できることを示しております。
よって基準を追加すると、⑥同一条件であればよりシャープレシオが高いファンド、⑦同期待値であれば標準偏差が小さなファンド、を選択すべきとなります。
他にもトラッキングエラーの小ささ(=運用の上手さ)なども存在しますが、まずはシャープレシオと標準偏差を理解しファンド選択の基準に組込めれば十分です。
ここまでは前提として複利効果を最大限に活かすため、決算で分配金を出さないファンドを想定していますが、分配金が発生するファンドの場合には決算(分配)頻度と分配原資に注意が必要です。
一昔前に人気を集めた毎月分配型は足りない原資を元本から支払っており「たこ足配当」と呼ばれていました。そのようなファンドには注意が必要です。
4. ファンド以外に重要なこと
最後に運用商品ではなく運用する側の人に着目すると「運用期間・入金力・投下時間」が重要となります。運用期間は単純で長期であればあるほどアドバンテージがあります。入金力は高いほどよくインデックス投資は入金ゲーと呼ばれることがありますが、ある面で事実です。
とはいえ運用総額が大きくなると年間の入金額が運用金額全体に与える影響は軽微になるので年間の入金額が運用資産の5%以下(1億円の運用であれば500万円以下)である場合、重要度は下がります。
目安としてはポートフォリオの期待リターン>年間入金額、となったら入金力の重要性が薄れるという感じです。
投下時間は資産運用に費やす時間を示しており、短いほど時間効率(タイムパフォーマンス)が良い運用と言えます。究極のタイパを求める場合はインデックス運用で年一回のリバランスがお勧めです。初期設定に15分、年に一度15分のリバランスで完了します。
投資家は3つの「パフォーマンス」を追求します。コストパフォーマンで「経費率」を運用パフォーマンスで「リターンの絶対値」をタイムパフォーマンスで「時間効率」を追求します。これらはどれが欠けても優れた運用とは言えません。
意外と盲点なのがタイムパフォーマンス(時間効率)です。多くの分野では時間をかけて学習し知識を習得することでパフォーマンスが高まります。(仕事や勉強)しかしながら投資の世界は不思議で投下した時間と結果が比例しない分野です。
原因は「人の欲」です。投資は儲けることを目的に参加するマネーゲームで、人は物理学における原子のように規則正しく動くわけではありません。しばしば不合理な意思決定と共に合理性に欠ける行動に出ます。投資には心理学の要素が含まれることから未来を予測することが困難です。
よってタイムパフォーマンスを上げる唯一の方法は出来るだけ時間を費やさないことです。投資に割く時間が少なければ少ないほど良いという発想です。この場合ベストはインデックス放置投資であり、反対が毎日モニターに張り付きのデイトレードです。
時給換算1万円の人が週に15時間、投資に関する情報収集や勉強をする場合、1か月で約60時間、1年では720時間です。これを単純計算すると720万円分の労働に相当します。
趣味として投資・経済の勉強をしている方は別ですがリターンを求めて時間を費やす場合、投下時間≠リターンを認識する必要があります。
銘柄分析やマクロ経済予測などに時間を費やすのであれば、「社会保険制度・税制について学習し、年金制度の成り立ち・健康保険の仕組み・所得税・住民税などの確定申告方法・住宅ローン/控除の仕組み、各種控除枠の増やし方・補助金の適用条件・法人設立方法・経費の取扱い方法の習熟」などに時間を割く方が確実性があります。
全体をざっくりと理解するにはFP資格用のテキストを用いて学習するのが効率的です。大枠理解後は自身が必要とするピンポイントの知識を別の方法で習得します。(FPの資格自体はパフォーマンスとは関係ないので取得不要です)
投資パフォーマンスは予測不可能なマーケットに依存しますが、上記手続きは国のプロセスが定められており手順が確立していることから制度に自身を寄せて適用条件を満たせばほぼ100%の確率で減税・還付などのメリットを享受できます。
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